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生成AIの進化やその活用が日々ニュースで取り上げられています。先日はChatGPTの4oモデルでの画像生成能力が高まったことで、SNSなどに大量のジブリ風、ワンピース風、ドラえもん風のイラストが溢れました。皆さんの中でも、ご自身や家族、友人の顔をイラストにして遊んだという方もいらっしゃることでしょう。ちなみにトライツでも、新しもの好きな角川が早速私たち3人の写真を色んなイラストにして遊んでいました。
そのように日々進化している生成AIですが、日本のB2B営業組織での導入はまだ限定的なように感じます。研究開発や生産といった部門ではAI活用が進んでいるという話が多いのですが、営業部門では自社限定のクローズドな環境が用意されているものの、興味のある個人が気が向いたときに使っているだけ、となっているようなのです。
そんな中、海外では「B2B営業での生成AI活用のROIデータ」という興味深いレポートが発表されました。生成AIがどのような用途でどれくらい使われているのか、そして生成AI活用によってどれだけのメリットが得られているのでしょうか。レポートの最後にある「生成AIの組織的な活用を促進する3つの要因」も併せてご紹介しますので、営業におけるAI活用に興味がある方は、ぜひお読みください。
調査データ①「世界では約9割の営業が週1回以上AIを使用」
今回ご紹介するのはLinkedIn社とIpsos社が共同で実施した調査の結果をまとめた、「The ROI of AI: Unlocking Growth and Productivity for Sales Professionals in 2025」(AIの投資対効果:2025年の営業担当者の生産性と成長を解き放て)。実はこのレポート、アメリカだけでなくイギリスやドイツ、オーストラリア、インド、シンガポールといった主要国の営業担当者1,250人を対象に実施されたものなのです。世界の営業担当者がどのように生成AIを活用しているのか、まずは活用状況から見ていきましょう。
営業担当者の88%が、週1回以上AIを業務で使用している。
営業担当者の56%が、毎日1回以上AIを業務で使用している。
このようにAIの使用率が高い理由として、レポートの中で「営業担当者の74%がAIがB2B営業の未来を象徴していると感じており、73%がAIを導入しない営業組織は競争に負けると考えている」というデータを紹介しています。シンプルに便利でラクできるからというだけでなく、AIを使わないことが自分のキャリアや営業組織の競争力にダメージを与えてしまう、という強い危機感が背景にあることがよくわかります。
調査データ②「AIが成果を創出している3つの用途」
では、具体的にどんな用途でAIを活用していて、どのような成果が出ているのでしょうか。
1. 見込客の個人/企業情報の調査
AIを搭載した営業システムによって、見込客を自動で抽出でき、その見込客に対するリアルタイムの情報を提供してくれます。(中略)
見込客の調査にAIを活用している営業担当者の38%で大幅な改善が報告されていて、平均して週に1.5時間以上の効率化が実現されています。2. 見込客との接点のパーソナライズ
AIを活用することでより見込客にフィットし、かつよりインパクトの強いメッセージを作成することができます。AIを活用して見込客からの返信率を向上させた組織では、平均して28%多い返信を獲得しています。3. CRM等システムの統合と営業サイクル効率化
AIを搭載したCRMツールは、複数のデータソースから最新のデータを取り込むことで、データのアップデートだけでなく商談で使える洞察まで提供してくれます。回答者の69%がAIのおかげで営業サイクルが平均1週間短縮されたと報告しており、68%がAIのおかげでより多くの商談が受注できていると回答しています
このようにB2B営業の複数の用途において、AIが実際に効果を発揮している様子がうかがえます。
調査データ③「AI活用と営業成績には強い相関がある」
そしてレポートの最後に示されるデータがこちらです。
継続的かつ広範なAI活用は、営業成績の向上に役立っている。
営業目標を上回って達成している営業担当者は、目標未達の担当者と比べて、毎日AIを利用している割合が2.5倍高い。
このように、「AI活用と営業成績との間に強い相関関係が見られる」と言うのです。ただし、これはあくまでも「傾向」。目標を上回って達成している営業担当者のうち68%がAIを毎日利用していますが、目標未達の営業担当者の中でも25%がAIを毎日利用しています。なので、AIを使い込めば目標達成するというわけではありません。
ChatGPTを使って見込客個人/企業の情報収集の質を高める
とはいえ、AI活用で営業の生産性が向上するというのは、実際にAIを頻繁に利用している人には納得のデータなのではないでしょうか。私も新しくお会いする人や企業について情報収集する際には、生成AIに協力してもらうことがよくあります。そこで、先ほどの1つめの用途「見込客の調査」での生成AI活用法について、ジェイク・ダンラップ氏の「The Innovative Seller」からTipsをご紹介します。
ChatGPTは見込客の企業情報の調査に適用できます。ChatGPTに年次報告書をすべて読み込ませ、自社の製品が役立ちそうな分野を尋ねてみましょう。また、企業の投資家向けページと自社の製品ページの両方を読み込ませ、自社のビジネスチャンスとなりうる企業の最近の出来事をピックアップするように命令することもできます。ほんの数分のチャットで、顧客の経営レベルの会話ができるようになるのです。
ダンラップ氏が実際に公開しているChatGPT用のプロンプトに共通しているのが、顧客企業の年次報告書のURL、ニュースリリースページのURLなど、AIに学習してほしい内容をしっかりURLで指定していること。AIが手前の浅い情報だけでアウトプットを返してしまわないように、学んでほしいデータを間違いのないように指定するというのが肝なのだと思います。
ちなみにこの「The Innovative Seller」の副題は、「Keeping Pace in an AI and Customer-Centric World」(AIと顧客中心営業の時代に追いつけ)というもの。顧客中心営業における営業プロセスのあるべき姿について、とてもためになるアイデアが紹介されていますので、また別の機会に取り上げる予定です。
AIの組織的な活用を促進する3つの要因
ここまで「AIのROI」について読んでみて、いかがでしたでしょうか。世界においては生成AIが新しもの好きのためのオモチャではなく、それを活用している顧客や競合に対応するために不可欠なツールとして普及している様子が見えてきたように思います。それでは最後に、レポートの末尾にある「生成AIの組織的な活用を促進する3つの要因」をご紹介します。
1. 営業組織への具体的なAI導入戦略とロードマップがある
2. 良質なデータ(顧客、商談、自社商品)を読み込める
3. トップによる強力な後押しがある
これを見ていると、個人が自身の興味の範囲内で使っているだけでは、その個人に閉じた効率化や顧客接点の品質向上にはつながるものの、営業組織の生産性向上にはつながらないということがよくわかります。「使いたい人/使える人は使って」ではなく、「AIを積極的に活用することでウチの営業を変えるんだ」となっているかどうか。AI時代についていける営業組織かどうかの、決定的な分水嶺がこの3要因だと言えるでしょう。
組織としてのAI活用の機運を高めるためのお手伝いをしています
皆さんの営業組織には3つの要因が揃っているでしょうか。もしまだ揃っていないのであれば、AI活用の機運を高めるための公式なセミナーや勉強会といったものが有効です。トライツコンサルティングではB2B営業でのAI活用についての勉強会の実施支援も行っておりますので、ご興味ある方はぜひお知らせください。
参考:
「Sales Leader Compass: The ROI of AI Unlocking Growth and Productivity for Sales Professionals in 2025」(LinkedIn & Ipsos, 2025)
「The Innovative Seller: Keeping Pace in an AI and Customer-Centric World」(Jake Dunlap, John Wiley & Sons. Inc., 2024)