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最近は1月が期初という会社も増えてきましたが、日本企業の多くは4月から新年度。新年度のスタートに向けて、営業組織としての期初キックオフ会議の準備をそろそろ始めるという会社も多いのではないでしょうか。 

そこで今回は、成功する営業のキックオフ会議について学んでいきたいと思います。「期初の定例ミーティングの冒頭でそれっぽいことを話しているだけ」という方も、「毎年趣向を凝らしているけどマンネリ気味」という方も、成功している営業組織のキックオフ会議がどんなものなのか、一緒に覗いてみましょう。 

新進気鋭の営業&マーケティングリーダーが語る「成功する営業キックオフ会議」とは 

今回ご紹介するのは、金融アドバイザリー会社Rothchild & Co.で営業&マーケティング部門のトップであるCRO(Chief Revenue Officer)を務める、JD・ミラー氏が出演したポッドキャスト番組「The Sales Leader SKO Survival Guide」(営業リーダーのためのキックオフ会議サバイバルガイド)。 

ミラー氏はRevenue Operation Alliance という団体の2024年の最優秀CROを受賞していますし、最近では「The CRO’s Guide to Winning in Private Equity: A Practical Roadmap for Sales Leaders」(プライベート・エクイティで成功するためのCROガイド:営業リーダーのための実践的ロードマップ)という本も出版するなど、新進気鋭の営業リーダーです。 

そんなミラー氏がSKO(セールス・キックオフ=営業の期初/キックオフ会議)について語っていたのが非常に面白く、ついついマンネリ化してしまいがちな毎年の営業キックオフ会議を見直す良いヒントがたくさん詰まっていたので、これから要点をかいつまんでご紹介します。 

営業キックオフ会議の基本的な流れを見てみよう 

ちなみにミラー氏が語る営業キックオフ会議は、冒頭で触れたような「定例のミーティングの冒頭でそれっぽい話をしているだけ」のようなものではありません。大前提として理解していただきたいのが、海外企業特に米国で実施されている営業キックオフ会議は、ホテルやカンファレンス会場を借りて2~3日かけておこなう社を挙げてのイベントだということです。と言ってもイメージしづらいと思いますので、ミラー氏が語る基本的な営業キックオフ会議の流れを時系列で追っていきましょう。 

初日の最初の1時間半は、メインステージでCEO(経営責任者)とCRO(営業・マーケティング責任者)が新年度の事業テーマ/戦略の全体像について、参加者のインスピレーションを掻き立てられるように話をします。 

その後20分間のコーヒー休憩後にメインステージ会場に戻ると、マーケティング責任者によるターゲット顧客像や、プロダクト責任者による新製品発表など、焦点を絞ったテーマでレクチャーします。 

みんなで昼食に出かけ午後に戻ってきてからは、役割ごとに小規模な分科会室に分かれ、新製品担当であれば製品の特長や機能、顧客に訴求するべきメッセージやデモの進め方などの詳細なトレーニングを行います。 

その後、20分のクッキー休憩をはさんで、引き続き分科会室でのトレーニングに戻ります。 

そして夕方にはチームビルディングも兼ねて、地元の慈善団体を訪問するとか、地元の図書館に従業員が持ち寄った本を寄贈するとかの社会貢献活動を行います。その後、夕食会場でみんなで食事を楽しむのが初日の流れです。 

2日目や3日目も、新年度の営業戦略に必要なスキルを獲得するためのトレーニングが主体です。2日目以降は営業部門だけに閉じず、担当エリアごとの分科会を開いたり、マーケティングやカスタマーサクセスなどを巻き込んだ部門横断的な分科会を開いたりもします 

最終日の夕方は毎年、前年度の業績優秀者を表彰するアワード・ディナーを行い、リゾート地への旅行券を獲得したメンバーと、次回のリゾート地の場所を発表します。

長めに営業キックオフ会議の流れをご紹介しましたが、イメージが湧いてきましたでしょうか。日本企業の典型的な営業キックオフ会議は、社内の広めの会議室に営業担当者が集められたり、地域の支店はTeams等で接続したりして、営業トップや企画部門長の話を聞くだけというものが圧倒的に多いように思います。しかし、ミラー氏が紹介した営業キックオフ会議は、しっかりと企画・準備されたイベントそのもの。この場所に集まってみんなで過ごすことが楽しくなるように、時間とお金をかけてしっかり設計・運営されているのです。 

ここまでお読みになって、「そんなイベントみたいな営業キックオフ会議をやっているのは、パーティー好きのアメリカ企業だからじゃないのか?」となどと思われる方も多いでしょう。しかし、私は経験していないのですが私の親の世代では、会社が持つ保養施設や温泉地などに出向いて大掛かりなイベントをし、翌日はゴルフなどのレクリエーションをみんなで楽しむということがあったようです。また、現在の日本企業でも時間とお金をかけて、参加するメンバーが楽しくなるように営業キックオフを設計・運営している企業は、多くはないものの存在しています。 

キックオフ会議に力を入れている日本企業の例「リクルート」 

その代表的な例がリクルート。半期に一度のキックオフを社外の会場を貸切で開催し、アナウンサーなどプロの司会者や芸能人を招いたりもしています。そしてそこではトップによる経営戦略や事業戦略の説明だけでなく、組織ミッションについてのトークセッションもありますし、トップガンと呼ばれる営業業績優秀者の表彰も行われています。 

リクルートは創業初期から、元専務の大沢氏が提唱してきた「心理学的経営」を取り入れ、日本企業でありながら従業員のモチベーションを高められるような工夫をしてきました。半期ごとのキックオフや、年に一度のナレッジ共有イベントとしてのFORUM、新規事業創発のためのRingなどの各種イベントはその工夫の代表格。このように、「日本企業だからアメリカのような華々しいイベントはどうか」としり込みする必要はまったくないのです。 

営業キックオフ会議成功のポイント①「目的を正しく理解する」 

その上で、日本の営業組織が今すぐに取り入れられる、営業キックオフ会議を改善するポイントを、ミラー氏が出演したポッドキャスト番組からいくつか見ていきましょう。何よりも大事だとミラー氏が述べているのが、営業キックオフ会議の目的を正しく理解することです。 

営業キックオフ会議には、多くの目的が含まれています。実現したいと皆が思えるような目標を掲げて、やる気とインスピレーションを起こさせる。新しい戦略に必要なスキルを身に付けられるトレーニングを提供する。そして、優秀な人材を称えてその功績に報いることで、人材の流出を防ぐ。これらの目的を実現するための、プログラムを構築しなければならないのです。

営業キックオフ会議成功のポイント②「しっかり時間管理する」 

その上で番組の中でミラー氏が何度も触れていたのが、時間管理についてです。 

ホテルの会場費や宿泊費、食費だけでなく従業員が業務から離れることによる機会損失などを考えると、営業キックオフ会議の1分に対して数百ドル(数万円)から数千ドル(数十万円)ものコストが発生しています。そのため、アジェンダと登壇者は余念なく準備し、本当に必要な時間だけで事足りるように設計しなければなりません。 

そして一度営業キックオフ会議が始まったら、アジェンダに沿ってアカデミー賞のように時間管理をします。持ち時間が無くなったら、それがたとえCEOで話が途中だったとしても、司会である私がステージに出ていきCEOを脇に追いやります。なぜなら、数千ドルの時間を必要としている次のセッションが準備万端で控えているからです。

手間と費用をかけて行うからこそ、しっかりとした時間管理が必要だというのはよくわかります。 

営業キックオフ会議成功のポイント③「メンバーの集中力が持続するように設計する」 

また、ミラー氏は参加するメンバーの集中力が持続するようなヒントも紹介してくれています。 

人の注意力が高いのは、一日の始めの方です。そのため90分のセッションは午前中にし、時間が進むにつれてセッションの長さを60分、45分と短くする必要があります。また、できるかぎり部屋を移動させるようにしましょう。 

急ぎの仕事を進めてもらうための1日2時間の枠の確保も大切です。午後1時から3時まで、といった時間にメールの返信や顧客への電話などを済ませてもらうことで、営業キックオフ会議に集中して参加してもらえます。

他にも「表彰するメンバーを選ぶときは慎重に。賞をもらえないことで悲しむメンバーがいないか、賞は上げられないものの壇上で賞賛すべきメンバーがいないか、といったことまでじっくりと考え、複数の観点でチェックしましょう」といった受賞者の選定に関するノウハウもあるなど、参考になる箇所が多々ありますので、ご興味がある方はぜひ一度聞いてみてください。 

まずは自社の営業キックオフ会議を「3つの目的」で見直すことから始めよう 

今回ご紹介した営業キックオフ会議の流れとそれを成功させるためのポイントを、そっくりそのまま取り入れようとするのは、期初のキックオフ会議を普段の営業会議の延長線上で実施している営業組織ではかなりハードルが高いと思います。 

しかし、ミラー氏が挙げた営業キックオフ会議の3つの目的「実現したいと皆が思えるような目標を掲げて、やる気とインスピレーションを起こさせる」、「新しい戦略に必要なスキルを身に付けられるトレーニングを提供する」、「優秀な人材を称えてその功績に報いることで、人材の流出を防ぐ」は日本の営業組織においても変わらず大事なもの。であるにもかかわらず、営業トップからの訓示どまりになっている期初会議が多すぎるのではないでしょうか。 

そこで提案したいのが、営業キックオフ会議をこの3つの目的を満たすようなものへと大胆に見直すこと。そして、そのために営業トップおよび営業企画が時間とお金と工夫を惜しまないことです。 

例えば、数字目標を社会に与えるインパクトに換算できないか。目標達成の先に実現したい将来像を提示できないか。営業トレーニングや表彰、メンバー間の交流の場などを組み合わせられないか。皆さんの次回の営業キックオフ会議を、メンバーが進んで参加したくなるものに変えるヒントを見つけてください。 

参考:「The Sales Leader SKO Survival Guide」(JD Miller, 30 Minutes to President’s Club, January 16, 2025