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専門家だけに任せるのではなく、誰もが手軽に使えるようになることを「民主化」(Democratization/Civilization)と呼びます。ChatGPTなどの生成AIの登場は、AI技術者などの専門家だけに限られていたAI活用を、広く一般市民に開放したということで「AIの民主化」だと言えるでしょう。 

そしてAIの民主化によって、SFAなどの営業データの分析も同様に「民主化」されてきています。今まではExcelや統計学/データサイエンスに明るい専門家にお願いしなければできなかったような分析が、専門知識なしでもできるようになっているのです。 

そこで今回はSFAのダミーデータをもとに、実際にChatGPTを使って「受注」に最も効く要素が何かを調べてみた結果をご紹介します。「SFAのデータはあるけど今まで分析したことはない」「データサイエンスや統計学は自分には難しそう」と思っていた人にも、今すぐ参考にしていただける内容になっておりますのでぜひお読みください。 

まずは無料版でも使えるChatGPTの「キャンバス」モデルを選ぼう 

ChatGPTを使った営業データの分析はとても簡単。まずは、ChatGPTの画面を開き「キャンバス」というモデルを選びます。 

このキャンバスというモデルの特徴は、ChatGPTの内部でPythonというプログラミング言語のコードを生成して実行、つまり分析までやってもらえることにあります。そのため、対象となるデータをアップロードして、どんな分析をしてもらいたいかを記述するだけで、面倒な作業を全部やってくれます。 

ちなみに、このキャンバスは以前は無料版では使えなかったのですが、2024年12月10日以降に無料版でも使えるようになりました。この意味でも、本当に民主化されていると言えると思います。 

生成AIで商談データを分析してみた 

それでは、早速商談データをアップロードし、「受注金額」にどの要素が強く影響しているのかを探る予測モデルを作ってもらいましょう。ここで使用する商談データは、商談ごとにSFAデータの「営業担当者」や「製品分類」に「見積額」、外部データベースからSFAに取り込んだ「企業規模」、MAツール由来の「リードスコア(商談化前の顧客の自社Webページ訪問やメールマガジン開封などの行為を点数化したもの)」などの10個の変数を1つの表にまとめたものです。 

ちなみに、商談データを分析する際にSFAに営業担当者が自分で入力したデータだけを使うのではなく、外部のデータベースやMAツールのデータなどを組み合わせる方が、より客観的で、参考になる分析結果が得られることが多いです。また、これらの情報が「受注金額」や「受注確率」に大きく影響することがわかれば、そもそものターゲティングの段階から絞り込んだりできるので、マーケティング業務の改善にも活用することができます。 

それではChatGPTによるデータ分析に戻りましょう。データをアップロードした後、以下のような指示を行います。 

ご覧のとおり、統計学やデータサイエンスの専門用語は一切使っていません。 

唯一なじみがない箇所があるとするなら、「この分析をすべてローカル環境で実行し」でしょう。実はこれを書いておかないと、ChatGPTは私たちの方でPythonという統計解析用のプログラムを動かせるように、Pythonのコードだけを出力して処理を止めてしまいます。ChatGPTの中で分析を完結させるためのおまじないだと思ってください。 

この指示を受けて、ChatGPTはアップロードされたデータの中身を読み取って分析を開始します。データの前処理の結果やChatGPTが選んだ分析手法、それらの分析手法を評価する基準値などについて専門的な言葉を使って細かく出力してきますが、それらはここでは割愛し最後の出力結果だけを以下にお見せします。 

ちょっと難しい表が出てきました。これを解説すると、こちらの指示通りに5つのモデルが縦に並んでいて、横にある「MSE」と「R²」という2つの基準で評価した結果になります。どのモデルで判断するのが良いか、ChatGPTにオススメを選んでもらうことにします 

すると、XGBoostというモデルが最適だと選んでくれました。そして最後に、この分析で一番知りたかった「受注金額」にどんな要素が効いているのかを確かめます。 

ここは何回も試行錯誤してみたのですが、「特徴量」というキーワードを使わないとうまく「受注金額」に効いている要素を表示させられませんでした。この分析結果を見ると、「受注金額」の大小は「リードスコア」の高低と強く関連していることがわかります。実際の分析では、SFAデータの中を見てリードスコアの中身がどのようになっているかや、リードスコアを高めるためにどんなアクションを打てばいいかをさらに調べることで受注につながる施策を具体化していく、ということになります。 

専門用語は出てくるものの、それらを知らなくてもデータ分析が完結できる! 

ここまでご覧いただいたとおり、出力結果の中に統計学やデータサイエンスの専門家でないとよくわからない単語や考え方が含まれているものの、それらをすべてすっ飛ばしても「うちの商談データからは、リードスコアが受注金額に強く影響しているらしい」というところまでは誰でも理解できるようになっています。また、細かい指図や専門用語をほぼ使わずに、得たい分析結果が少ないやり取りで得られています。これは、以前のデータ分析を知る(そして、実際に手を動かしていた)人間からすると、驚異的な進歩なのです。 

生成AIがない頃は本当に大変だったデータ分析 

以前に同様のデータ分析をしようとすると、本当に大変でした。今回使ったような商談データが1,000件あったとすると、慣れた人でも3日くらいはかかったと思います。 

それがすべてChatGPT上で計算し、エラーがあった場合は自分で気づいて訂正して分析を継続し、最後の答えまで出してくれる。そして、使っている分析手法は旧態依然の古めかしいものだけでなく、流行りの手法をしっかり押さえたものにもなっている。以前のデータ分析を知っている人間からすると、まさに魔法のような環境になっているのです。 

生成AIによって誰もが手軽に分析できる「データ分析の民主化」が現実のものに 

映画化もされたSF小説「2001年 宇宙の旅」で知られるアーサー・C・クラーク氏の第三法則として、「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」というものがあります。紙の切符しか知らない人からすると、スマホにインストールしたICカードを改札機にかざすだけで自動で入場記録と出場記録が取れて支払が済んでしまう今のテクノロジーは、きっと魔法のように見えるでしょう。そして私たちはこの魔法の中でどんな技術が使われてどんな処理がされているかを知らなくても、安心して交通系ICを日々便利に使っています。 

今回ご紹介した生成AIによるデータ分析も、これまで人間が分析手法を選んだりプログラミングしたりしなければならかったものから、やりたい分析をざっくりと指示するだけで最新の分析手法を使った分析結果が得られるようになり、科学技術から魔法へと近づきつつあります。 

もちろんまだ過渡期ですので、気になるところも多々残っています。選んだ分析手法が本当に最適なのか、モデルの評価基準の選び方が分析手法とマッチしているのか。今回ご紹介したChatGPTの回答の中にも、統計解析に長年携わってきた人間から見て、分析の仕方が物足りなかったり手直ししたい部分がいくつか見受けられます。 

しかし、そのようなデメリットを補ってあまりある魅力が「データ分析の民主化」にはあります。これまで、統計学やデータサイエンスの専門家にしかできなかった高度で複雑な分析を、私たちでも無料でやれるようになっているのですから。 

手元のデータで早速AIデータ分析を体験してみよう 

これをお読みになった方で実際に分析したいデータをお持ちの方は、個人情報は取り除いたり匿名化したりした上で、ぜひChatGPTに分析をさせてみてください。おそらく最初の数回は試行錯誤することになると思いますが、コツさえつかんでしまえばあとは簡単。AIが皆さんの分析の強力な助っ人になってくれるはずです。