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2025年がスタートしました。元日の新聞などで2025年の予測やトレンドを読んだという方も多いのではないでしょうか。そこでこのトライツブログでも、海外の様々な雑誌やブログ記事をもとに、2025年のB2B営業のトレンドを占ってみたいと思います。2025年にはどのような変化が起きて、私たちの営業活動にどのような影響があるのか。早速見ていきましょう 

ありきたりで面白くない?!各社の2025年の営業の予測記事 

年末から色々な媒体で2025年の予測記事を集めていたのですが、出足は絶不調でした。というのも、どの記事も「AI/デジタル尽くし」で新鮮みや面白みに欠けていたからです。例えば、このトライツブログでも過去に取り上げたことのあるYesware社の記事では、2025年のトレンドとして以下の3つが示されています。 

1. リモートおよびハイブリッド営業が新たな標準に

2. 購買プロセス全体を通じたパーソナライゼーションが顧客の優先事項に

3. AIによる営業の再定義

普段は面白い記事を書いてくれているのですが、この予測だけはありきたりで新鮮味がありません。そして、一流ビジネス紙であるForbes社の予測は以下のとおり。 

1. AIツールの統合

2. 動画コンテンツの広がり

3. 個人単位かつその場面に応じて細かくパーソナライズされたマイクロコンテンツ

4. コンテンツ生成の副操縦士(コパイロット)としてのAI活用の定着

5. シームレスでスムーズなAIによる顧客サポート 
~以下略~

これでもかというくらいにAI尽くしの予測になっています。AI活用が大きなトレンドであるのは確かですが、AI一辺倒の予測というのもつまらないように思います 

AI/デジタル一辺倒の記事が多い中、異彩を放っていたemlen社の予測記事 

さすがにこれでは2025年の予測記事は書けないなと頭を悩ませていたときに目に入ったのが、emlenというAIを活用した営業組織のコラボレーションと営業コンテンツやファイル管理システムを開発・販売している企業のブログ記事。「どうせ自社商品の売込につながる、AI礼賛記事だろう」と高を括って読み始めたら、意外なことを2025年の予測として書いていたのです。まずは記事の冒頭の「2024年の振り返り」からどうぞ。 

営業担当者を襲うデジタルツール疲れ 
営業チームは、過剰な数のデジタルツールを扱わなければなりませんでした。導入には膨大な時間がかかり、導入後には業務プロセスを簡素化するどころか、これらのツールによってさらに複雑化してしまうことが多々ありました。 

販売の自動化による顧客との断絶 
顧客には汎用的な内容のメールや自分には無関係なフォロー連絡、テンプレート化された売込メールが大量に送られています。これによって、顧客は自分がサポートされていると感じるどころか、すべてを無視してしまうようになってしまいました。これは、私たちが「The Great Ignore(偉大なる無視)」と呼ぶ現象です。 

スピード重視による営業の本質の破壊 
営業担当者は業績目標やKPIの達成に追われ、顧客と有意義な会話をする時間がほとんどありませんでした。より高速に営業サイクルを回すことが優先され、顧客との人間関係は後回しにされました。 

2025年に目を向けるとチャンスは明白です。最も成功する営業組織は、最も忙しくしている営業組織ではありません。顧客とつながる時間を増やし、営業の基本に取り組む時間を増やすチームこそが成功するのです。

AIを使った営業ツールを扱っている企業とは思えない文章ですが、「確かに」と思わせる説得力があります。続けて、emlen社が提唱する2025年の5つのトレンドをざっと見てみましょう。 

1. 営業活動での人間的なつながりの復活

2. 複雑化している購買プロセスの簡素化

3. 顧客接点は量から質へ

4. 営業の役割は購買担当者が自信をもって意思決定できるように支援することへ

5. 長期的な結果につながる関係構築のために営業をスピードダウン

この5つの中でも特に熱が入っていて、かつ他社の記事との差異が明確になっているのが1番目の「営業活動での人間的なつながりの復活」です。どのようなことが書かれているのか、詳しく読んでみましょう。 

AI時代の2025年だからこそ、人間によるつながりが貴重なものに 

トレンド1:営業活動での人間的なつながりの復活 
顧客は真のつながりを切望しています。長年にわたるバーチャルな会議や自動化されたアプローチを経て、現在これまでとは異なるものを求めています。それは、本物(genuine)と感じられる人間的なつながりです。 

2025年の主な変化: 
対面式イベントの復活:顧客は信頼を築くための対面式の交流を切望しています。 
関係構築が中心に:長期的な関係が持続可能な成功をもたらします。 

顧客はデジタルノイズに圧倒されています。有意義な人間同士の交流にこれまで以上の価値が見出されており、顧客から信頼を獲得する要因となります。 

営業活動で量より質を優先させましょう。あらゆる顧客接点を自動化するのではなく、長続きするつながりを構築することに投資しましょう。

トレンド1の中にトレンド3の「量から質へ」や、トレンド5の「長期的な結果につながる関係構築」が紛れ込んでいるものの、主張は明快です。メール配信やチャットボットなど多くの顧客接点がAIなどによって自動化されている現在のアメリカでは、逆に人によるつながり、特に信頼できる専門家としての営業担当者とのつながりが希少で貴重なものになっている。だからそれが2025年以降にはより広がっていくだろう、というものです。 

人間によるつながりの時間を捻出するためにもAI/データ活用は不可欠 

ここで注意が必要なのは、このemlen社の記事は、反AI/反テクノロジーのラッダイト運動ではないということです。ラッダイト運動とは産業革命の頃にイギリスで起きた、機械化で仕事が奪われると考えた織物工場の労働者たちが抗議のために機械を破壊した運動のこと。この記事では「AIなんて使うな」と煽っているのではなく、トレンド2の「購買プロセスの簡素化」では、顧客のデータとAIを活用してパーソナライズされた質の高いコンテンツをリアルタイムで提供しよう、とも書かれています。 

つまり、AIやデータを使ってより上質な顧客接点を作り業務を効率化しよう、そして人間である営業担当者はその時間を使って顧客の意思決定をサポートし長期的な関係を構築しよう、というのがこの記事で言っていること。決してAIが主流となっている他社の2025年の予測記事に対して、逆張りしているだけの記事ではないのです。 

2025年以降に営業組織に求められる「AI活用力」と「コンサルティング営業力」 

このように考えると、2025年以降に営業組織に求められる2つの能力が浮かび上がってきます。 

1つは、AI活用力。ただし、機械的に量産型のコンテンツを生成するのではなく、顧客の状況に応じてカスタマイズ/パーソナライズされたコンテンツを作れる、プロンプト記述能力が大事になってきます。すでにAIによるコンテンツが溢れているアメリカと異なり、日本ではビジネスでのAI活用がまだまだ始まったばかり。まずはAIを使って、顧客との人間的なつながりのための時間を捻出することから取り組む必要があるでしょう。 

そして2つめは、顧客の意思決定を支援するコンサルティング営業力。顧客のことを理解し、業界や業種のインサイトを提供し、顧客に合わせた解決策を組み立てて、それが顧客内で意思決定されるように支援する。顧客が信頼して相談したくなる営業になるためには、これらに焦点を当てた育成施策、例えば業務プロセスの標準化とスキル付与研修の開発が不可欠になるはずです。 

AI時代の営業には『本物』が求められる 

実はこれまで書かずにいたのですが、「営業活動での人間的なつながり」の重要性は、ここ数か月でのキーワードとなっています。2024年後半に発売された営業本や営業のポッドキャストでは、AI時代だからこそ人間による『本物の(genuine, authentic)』つながりに顧客が価値を感じるようになっている。だから営業担当者自身が顧客の相談役として『本物の』スキルと知識を身に付けなければならない」という話がたびたびされています。 

そのため、今回ご紹介したemlen社の記事は、他社のAI一辺倒の記事と比べると突飛で意外なように見えますが、実は現在起きている「AI時代に求められる営業の役割変化」という大きなトレンドに乗った、とても納得のできる記事だったのです。 

トライツブログでは引き続き、営業の最新トレンドから基礎まで幅広くご紹介していきます。2025年もご愛読いただけるよう調査、取材、編集いたしますのでお楽しみに。 

参考:「5 B2B Sales Trends That Will Shape 2025 (And It’s Not What You Think)」(Jan-Niklas Frantz, Head of Buyer Enablement, emlen, December 5, 2024