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ChatGPTが登場したのがちょうど2年前の2022年12月。特に海外では生成AIの活用が進んでいて、Microsoft社がフォーチュン500と言われる大手企業を対象にした調査では、ナレッジワーカーの75%が生成AIを活用しているとのこと。一方で情報通信総合研究所の調査によると国内の従業員1,000人以上の大企業で活用していると回答したのは30%。私の周りでもまだほとんど使っていない人と、いろんな用途で使い倒している人の2つにハッキリ分かれてきているように感じます。 

これまでもこのトライツブログで顧客との商談前の情報収集など、いくつかの用途で生成AIの活用法をご紹介してきました。今回は商談準備の1つとして、顧客との商談前のシミュレーターとしての使い方を、実際のチャットの内容も含めてご紹介します。 

顧客との会話の流れがどうなりそうか、またそれに対する自分の回答が適切なものなのかを商談前にリハーサルしておくことで、落ち着いて商談に臨むことができます。生成AIを使った商談シミュレーションのやり方を一緒に見ていきましょう。 

ChatGPTとの商談ロールプレイの様子を見てみよう 

まずは「百聞は一見に如かず」ということで、実際のChatGPTとの対話(チャット)の様子を見ていきましょう。営業研修サービスを提供している営業担当者が、自社セミナーを聴講してくれたSier企業の営業企画部長に初回訪問をおこなったという設定です。

画像の文字がやや小さいため、スマートフォンでお読みの方は、横向きにしてお読みください。

というわけで顧客の業界や業務への知識やフィット感についてかなり突っ込まれながらも、最後には営業企画部長から「次回のミーティングで具体的な課題や要望について詳しく話したい」と言っていただくことできました。 

全体的に商談対応のシミュレーションとして、現実的に使えるものになっていることがお分かりいただけたと思います。 

筋の良い商談シミュレーションAIづくりに必要なプロンプトの全体像 

それでは、先ほどの商談シミュレーション用に生成AIに最初に与えたプロンプト(AIへの指示文)を見てみましょう。以下のプロンプトには営業担当者と顧客がどういう人なのか、商談に至る経緯などの「シチュエーション」と、どのように対話を進めるかの「ルール」を、「設定」として記述しています。まずはザっと流し読みしてください。 

この設定作りのポイントは青枠部分の「評価基準」と、赤枠部分の「商談難易度設定」です。顧客は商談をしながら常に青枠の評価基準で営業担当者のことを評価しており、その評価結果によって課題などの情報をオープンに開示してくれるか、より防衛的になって説明を求めるようになるかが変わります。そして、最終的には、次のアポイントに進められるかどうかもこの「評価基準」と「商談難易度設定」によって決まるようになっています。 

これがあったので、先ほどの商談の前半で「当社の業界特有の課題やニーズに合わせた研修内容を提案していただくことは可能でしょうか。また、御社の研修設計担当者や講師の方々は、我々の業界や業務についてどの程度の知識や経験をお持ちなのかお伺いしたいです。」という、営業担当者としてグッと詰まってしまいそうな質問が飛んできたというわけです。 

最初は赤枠部分がない状態でシミュレーションしてみたのですが、中途半端な対応であっても普通に次回アポイントが取れてしまっていました。そこで、この「商談開始時は信頼度が低く、防衛的で自己開示の度合が低い」という条件を付け加えたところ、先ほどのような質問にちゃんと答えられないと顧客から詰め寄られて商談が失敗するようになりました。途中からですが、失敗例も見てみましょう。 

このように顧客の業界についての予習が足りないと、個別の課題を教えてもらえないばかりか追い払われてしまいます。この失敗事例でのChatGPTからのフィードバックは以下のとおり。 

このように、商談のシミュレーションが上手くいかなかったときに、どこが悪くて何を改善すればよいかまで、的確なアドバイスを返してもくれます。 

ここまで見ていただきましたが、設定を調整すればどの業種・業界でも十分に使えそうな内容になっていると思います。ぜひご紹介したプロンプトを参考に、皆さんもチャレンジしてみてください。 

商談シミュレーションづくりの肝はプロンプト/設定づくり 

このようにChatGPTなどの生成AIを使って商談のシミュレーションをしようとする際に、一番大事なのが「どれだけ実際の商談を反映したプロンプト/設定を書けるか」です。プログラムが適当だと「こんな商談あったかなぁ」というものが出来上がってしまいます。 

このプロンプト/設定を生成AIに作らせることも可能ではあります。ただし、私がやってみたときは、顧客による営業の評価基準や「商談開始時は信頼度が低く、防衛的で自己開示の度合が低い」という難易度設定は生成されませんでした。そのため、緊張感があって実際の商談に沿ったシミュレーションにしようとすると、これらの条件を思いついてプロンプト化するスキルが必要になります。 

また、この商談シミュレーションを実際の商談の前にやるには、実際の顧客の状況を理解または推察し、それも一緒にプロンプトに落とし込む作業が不可欠。メンバーを指導するマネージャーやリーダーは実際の商談の様子から、メンバーの商談に合ったプロンプトを作れなければなりません。 

ただ、このスキルさえあれば先ほど見ていただいたような、現実感のある商談シミュレーションをすぐに試してみることができます。自分の営業に足りないところがよくわかる良い道具ですので、ぜひプロンプトづくりにチャレンジしてください。 

商談シミュレーションに生成AIを活用してみよう! 

実は私はそんなに商談のロールプレイやシミュレーションが得意なタイプではありません。なにしろ緊張しますし、普段の商談ですと自分のパフォーマンスよりも相手との対話に集中できるのですが、ロールプレイやシミュレーションだと自分に意識の何割かが向かってしまうので普段しないような動きや発言をしてしまったりもします。 

しかしそんな私でもこの生成AIとの対話は楽しくできました。目の前に人はいないのですが、逆にそれでやり取りの内容に集中できたような気がします。そして、自分が設計したAIに商談の途中で追い返されるとちゃんと悲しくなりますし、次回のアポイントが取れるとしっかり嬉しくもなります。そして、相手である生成AIは何度でも文句を言わずに付き合ってくれますし、何よりゲームに近い感覚で気負わずに取り組むことが可能です。 

営業のロールプレイは苦手だという人も、ぜひ今回ご紹介したプロンプト/設定を参考にして商談シミュレーションにチャレンジしてみてください。 

そして、生成AIの音声モードでのロールプレイのやり方についても現在研究中です。今はこちらが言葉に詰まったり考えて間が空いたりすると、すぐにAIが話し始めてしまって使い物にならないのですが、もっとスムーズな対話ができるようになれば、音声機能による商談のロールプレイができるのも時間の問題でしょう。こちらもぜひお楽しみに。