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顧客と和やかに商談を進めていると、必ずそのタイミングは訪れます。そう「クロージング」です。
「こちらの内容でご契約いただけますでしょうか?」
「今月中にご発注いただけますと、こちらのキャンペーンをご利用いただけるのですが、いかがでしょうか?」

それまでの商談の雰囲気からどうしてもモードが異なってしまい、売り込みっぽくなったり押しつけがましくなったりしてしまうもの。そのため、苦手だという方やもっとスムーズなクロージングの仕方を身に付けたい方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで今回は過度に売り込んだり、押しつけがましくなったりしない、顧客にとっても営業にとっても「理想的なクロージング」について学んでいきたいと思います。クロージングに苦手意識をお持ちの方も、今のやり方を改善するヒントが欲しい方も、ぜひお読みください。

狡猾/操作的なクロージングのテクニックは商談に悪影響をもたらしている

今回ご紹介するのはクロージングについて書かれたベストセラー、ジェームズ・ミュアー氏の「The Perfect Close: The Secret To Closing Sales」。「完璧なクロージング」というかなり強気のタイトルがついているにも関わらず、2016年に発表されて以来、今でも海外の営業の有名人が自身のポッドキャスト番組で紹介するほどのヒット作です。

この本の冒頭では、一般的なクロージングのテクニック、冒頭で紹介したような「今月中に発注いただけますと・・・」の弊害をデータで紹介しています。

クロージングのテクニックは、成功とは負の関係にあることがわかっています。あるテクニックを教える研修の後、営業担当者がそのテクニックを多用するようになったため、受注成功率が15%低下しました。

(中略)別の調査では、6つのクロージングのテクニックの利用と営業担当者に対する顧客の信頼度の関係を調べました。その結果、6つのテクニックすべてが顧客との信頼関係を損ない、中でも最も操作的な「緊急性」(訳注:「今月中に発注いただけますと・・・」のように顧客を急がせるテクニック)が最も信頼を損なうことがわかりました。

このようなこれまで常識とされてきた「営業テクニック」とされているクロージングは、効果がないどころか悪影響をもたらすものだというのです。そして、新たに「完璧なクロージング」を提唱しています。

それがどういうものかを知る前に、前提条件としてミュアー氏が定義するクロージングがどういうものかについて確認しておきましょう。

商談のどの段階でも使える「完璧なクロージング」

一般的なクロージングは、顧客に購買の最終的な意思決定を促すものです。それに対しミュアー氏は、著書の中で「(広義の)クロージングとは、営業プロセスを前進させる意思決定やコミットメントを相手から得る行為すべてである」としています。つまり、営業にとっての営業プロセス、顧客にとっての購買プロセスを前進させるように導くことすべてを、広義のクロージングとしています。

その上で、購買の最終的な意思決定を促すことを狭義のクロージング、狭義のクロージング以外の営業/購買プロセスを前進させる意思決定/コミットメントをアドバンス(Advance:前進)と呼んでいます。そして、これから紹介する「完璧なクロージング」は、購買の最終的な意思決定だけでない広義のクロージングすべてを対象とするものとなっています。つまり、商談の初期段階から使える手法だということです。

「完璧なクロージング」の基本形

ミュアー氏が著書のタイトルにするほどの自信作である「完璧なクロージング」の基本形は、たった2つの質問です。

質問1「Xをするのが良い(適切、妥当)だと思われますか?」(Does it make sense to do X?)

質問2「それでは、次のステップとして何が良いと思われますか?」(What is a good next step then?)

質問1のXというのは、次の購買/営業プロセスに進むために必要だと営業が考えるアクションのこと。例えば、目の前の担当者にデモをした後であれば、関係者にデモを見てもらうための関係者のリストアップと日程調整になるでしょうし、見積提示の後であれば、顧客社内での関係者打合せや稟議申請に必要な資料を洗い出してもらう、というのもXに該当します。

このようなXについて、質問1で今のタイミングで行うのが適切・妥当かを確認し、それに対して「No」と言われたら、質問2で顧客に次のアクションを確認するというのが、「完璧なクロージング」の基本形です。

「顧客中心営業」の今の時代にマッチしている完璧なクロージング

「完璧なクロージング」について私が最初に感じたのは、シンプルで使いやすく、しかも汎用性が高く場面を選ばない手法だということ。そして次に感じたのは、顧客が情報を自分で集められるようになり、顧客が購買の主導権を握るようになった今の時代の営業にマッチした手法だということです。顧客が購買プロセスを進めるための相談に乗り、経験や知見をもとに次のアクションをガイドするという「顧客中心営業」の基本姿勢と非常に相性が良いように思います。

注意点:「ただの先延ばし」でないことを見極めよう

ただし、この「完璧なクロージング」さえ使えば、必ず上手くいくというものではありません。というのも、質問2「次のステップとして何が良いと思われますか?」に対する顧客の回答が、ただの先延ばしなことがあるからです。

そこで顧客の回答が購買/営業プロセスを前進させるステップかどうかを見極めることが重要です。ミュアー氏は以下の3つの条件を挙げています。

1. 顧客が主体的に行動するものである

2. 顧客のエネルギー/コミットメント(腹決め)を必要とする行動である

3. 購買/営業プロセスを前進させるものである

この3つの条件を満たしていないもの、例えば「一度持ち帰って考えます」「周りに紹介します」「提案/見積をください」「関係者に紹介できる資料をください」といったものはただの先延ばしであり、購買/営業プロセスを前進させるステップではないとしています。

従って、このような状況になってしまったら、こちらが考える商談を先に進めるための次のステップ(X)を複数投げかけながら、なぜそれらの(X)が今のタイミングではないのか、いつなら適切なのか、などと話し合うことが必要だということです。

先延ばしの罠を回避する「購買プロセスを共有した上での作戦会議」

そもそもこのような先延ばしの罠に陥らないようにするために、顧客の購買プロセスをしっかり理解し、できれば顧客と毎回の商談で共有しながら次のステップを相談することがオススメです。

購買に至るために次に進むべきステップは何か、そこでは誰が関係者として登場しどのような評価基準で評価/判断されるのか、そのために準備すべき資料や事前にしかけておくべきことは何か。このようなことを顧客と一緒に作戦会議で話し合い、決定し、行動していく。その積み重ねが精度の高い「完璧なクロージング」になることでしょう。

顧客の行動を起こさせるのがプロの営業の仕事

最後に、この本の中で一番感銘を受けた文章をご紹介します。

営業のプロフェッショナルである私たちのゴールは、顧客に行動を起こさせることです。
私たちのプロフェッショナルとしての対価は、私たち自身の行動に対して払われているわけではありません。顧客が起こした行動に対してのみ、私たちの対価は支払われているのです。

ここでいう「行動」とは、これまで述べてきた広義のクロージング、つまり購買/営業プロセスを前進させるための、顧客のエネルギー/コミットメントを伴う顧客自身の行動のこと。それを押しつけがましくなく、スムーズに引き出す、または例として指し示す手法の1つとして、今回ご紹介した「完璧なクロージング」の話法はとても有効だと思います。ぜひ参考にしていただき、次の商談で使ってみてはいかがでしょうか。

参考:「The Perfect Close: The Secret To Closing Sales」(James Muir, Best Practice International, 2016)