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インターネットが普及し顧客が自分だけでさまざまな情報を手に入れられるようになったことで、営業と購買、売り手と買い手の力関係が大きく変化しています。トライツブログではこれまでにも、主体的に購買活動を進める顧客に対してより良くスムーズな購買の意思決定ができるようにサポートする「顧客中心営業」というコンセプトを紹介してきました。 

最初に「顧客中心営業」についてご紹介したのは2021年8月の記事「B2B営業は『課題解決型営業』から『顧客中心営業(Customer-Centric Sales)』へ」。それから3年後が経ち、また新しい注目の営業コンセプトが登場しました。 

それは「コラボラティブ・セリング(Collaborative Selling)」というもので、日本語に直訳すると「共創型営業」。顧客に対して一方的に売りつけるのではなく、顧客と共創(コラボ)して顧客と一緒に購買活動を行おうというのが基本的な考え方です。顧客とのコラボとはどのようなものなのか、それを実現するために何をすればよいのか、一緒に学びましょう。 

最近評価が高まっているコラボラティブ・セリングのバイブル「バイヤー・ファースト」 

このコラボラティブ・セリング(共創型営業)のバイブルとも言える本が2023年に出版され、少しずつ話題になっています。それはキャロル・マホニー氏の「Buyer First: Grow Your Business With Collaborative Selling」(バイヤー・ファースト:共創型営業でビジネスを伸ばす)。 

この本の副題に含まれているのが先ほどから紹介しているコラボラティブ・セリング。この考え方が今年(2024年)になってから徐々に評価されはじめており、各種の営業ポッドキャスト番組にマホニー氏がゲストで呼ばれていますし、HubSpot社が毎年開催する大規模なカンファレンス「INBOUND」の2024年でも目玉のセッションとして講演が予定されています。 

顧客は営業担当者に共創(コラボ)を求めている! 

この共創型営業というコンセプトがなぜ今注目されているのか。まずはマホニー氏の著書「バイヤー・ファースト」から、顧客が共創(コラボ)を求めている背景から見ていきましょう。 

サンタクララ大学のデブ・カルバート氏が著書『Stop Selling and Start Leading』の中で紹介したデータによると、顧客の購買担当者が営業担当者に最も評価するのは、自分たちと協力して新しいアイデアや洞察を生み出す能力です。

顧客は営業担当者とのコラボレーションを切望しています。これは、ハーバード大学の研究者が「イケア効果」と呼ぶ現象によるところが大きいです。イケアの家具のように自分の努力を傾けて作り上げたものの方が、より好きになりますしより価値を認めるようになるのです。

「イケア効果」という名前を知らなくても、営業における効果を体験したことがある方もいらっしゃることでしょう。こちらからの提案を一方的に押し付けるよりも、顧客のアイデアを付け加えて提案を仕立て直すことで一気に商談が前に進むというのはよくあることです。 

コラボで「最重要な問題」「問題への最善の商品」「最適な購買プロセス」の3つのMVPを明確にする 

コラボが有効だということは分かりましたが、営業担当者は顧客といったい何についてコラボすればよいのでしょうか。マホニー氏は以下の3つの「MVP」を明らかにすることだと述べています。 

コラボレーションによって、顧客が抱えている「最も価値ある問題(Most Valuable Problem)」が何か、「最も価値ある商品(Most Valuable Product)」が何か、そしてそれを実際に購買するための「最も価値あるプロセス(Most Valuable Process)」が何か、というこれらの重要な問題が明確になるのです。

「最重要な問題」「問題への最善の商品」「最適な購買プロセス」の3つのMVPを顧客と一緒になって探求し具体化することこそが共創(コラボ)だ、というのがマホニー氏の主張です。 

ここで注意しておきたいのは、ここでいう共創(コラボ)は顧客と一緒になって課題解決に取り組むというもの。話題のアニメキャラクターと食品メーカーが組んで新しいパッケージを出したり、TV番組とYouTubeのコラボ企画で地上波ではさせない未公開シーンをYouTubeに流したりといった、既存リソースの単なる組合せとしてのコラボではありません。顧客と一緒になって「取り組むべき問題はなにか」「最善の解決策(商品)はどういうものか」「どのように購買プロセスを進めたらいいか」を一緒に創り出すというものだとご理解ください。 

3つのMVPを顧客と一緒に明確にするための「コラボラティブ・クエスチョン」 

それでは、どうやってこの3つのMVPを顧客とコラボして具体化するのか。これに有効だとしているのがコラボラティブ・クエスチョンという質問手法。5つのフェーズを網羅する質問によって、「最重要な問題」「問題への最善の商品」「最適な購買プロセス」の3つすべてが明らかになる、というものです。 

フェーズ1「問題は何か」 
・その問題にどうして気づいたのか? 
・何がきっかけで解決策の探索がスタートしたのか? 
・なにがきっかけでこの問題が起きたのか、何が原因なのか? 

フェーズ2「なぜこれが問題なのか」 
・この問題でどのような影響/インパクトがあるのか? 
・過去の解決策を選んだ理由は何か? 
・過去の解決策でうまくいったものとそうでないものは何か?うまくいかなかったのはなぜか? 

フェーズ3「なぜ解決しなければならないか」 
・解決しないことのコスト/損失はなにか? 
・いつまでに成果を上げる必要があるか?そしてそれはなぜか? 
・解決することの組織的/個人的な意味/価値は何か? 

フェーズ4「どのように意思決定するか」 
・意思決定者にとって何が重要なのか? 
・意思決定者はどのタイミングで、どのように意思決定に関わるのか? 
・意思決定にどれだけの期間がかかるのか? 

フェーズ5「意思決定の準備はできているか」 
・あなたが問題について深く理解していると確信を持っているか? 
・あなたの専門性について信頼しているか? 
・あなたの支援を望んでいるか?

私がこのリストを初めて見たときの感想は、単純ですが「よくできているなぁ」というものでした。この順番で顧客と会話することによって、「最重要な問題」「問題への最善の商品」「最適な購買プロセス」のすべてを網羅していますし、顧客の購買プロセスそのものを一緒に歩むこともできるようになっています。この2つの意味で「よくできている」質問の流れになっていると思います。 

念のため補足するならば、こちらでご紹介した質問文はほんの一例です。例えばフェーズ5では、「顧客として受け入れられるROI(投資対効果)の最低限の水準はどれくらいか?」や「契約締結日や業務開始日について合意された日付があるか?」といったものも含まれています。質問文のフルバージョンについては、書籍の中で示されているワークシートダウンロードサイトへのリンクから見に行くことが可能です。また、マホニー氏は紹介した質問文はあくまでも例に過ぎず、業界/顧客に合わせてカスタマイズすることを強くおススメしています。 

これから大きく育つ可能性のある共創型営業をトライツブログは継続調査します 

共創型営業について書かれた好著「バイヤー・ファースト」から、特に心臓部ともいえるコラボラティブ・クエスチョンに絞ってご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。顧客とコラボして取り組むべき問題、導入する商品/解決策、歩むべき購買プロセスを明確にする方法をイメージできたのではないかと思います。 

この共創型営業という概念はまだまだ世に出たての赤ちゃんのようなもの。これから多くの人が育て、発展させていくことでしょう。トライツブログでは引き続きこちらについても情報収集し、成長した様子が見られましたら都度ご紹介していきます。引き続きご期待ください。 

参考:「Buyer First: Grow Your Business With Collaborative Selling」(Carole Mahoney, Page Two Strategies Inc., 2023