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普段の生活では見聞きせず、営業でしか使わない用語というものがあります。新しく営業職に就いた方にとって「ラポール(Rapport)」はまさにそのような用語でしょう。 

ラポール(Rapport)はフランス語の単語ですが、英語圏でもこのスペルと発音のまま使われています。もともとはカウンセリングなどの業界で「相手と腹を割って話し合える関係をつくること」ですが、営業においては「営業担当者が顧客から信頼を得ることや信頼関係を構築すること」と捉えるのが良いと思います。 

とはいえ、特に営業職に就いて間もない方の中には、「確かに顧客から信頼されることが大事なのはわかるけれど、具体的に何をしたらよいのかわからない」とお思いの方もいらっしゃるでしょう。そこで今回は、営業におけるラポールの基本的な考え方をご紹介します。ラポールが苦手な方や、部下や後輩のラポールスキルを高めたいとお思いの方はぜひお読みください。 

ラポールと混同されがちな「アイスブレイク」 

ラポールで何をするかの解説に入る前に、ラポールと混同されやすい「アイスブレイク」について簡単に説明します。 

初めての商談相手の背景を調べて出身地や趣味などの共通点を探ったり、「今年も猛暑で大変ですね」のように当たり障りのない話題から会話をスタートすることをアイスブレイクと呼びます。最近ではFacebook/LinkedInなどの実名SNSも普及していますので、商談前に相手のSNSをチェックする方も多いのではないでしょうか。 

また、営業経験が豊富な方は「木戸に立てかけし衣食住」という言葉もご存じかもしれません。これは「き=気候」「ど=道楽(趣味)」「に=ニュース」・・・というように、アイスブレイクの話題のジャンルの頭文字をつなげたもの。玄関で忘れ物チェックをするときの合言葉の「ハトがマメ食ってパ!」と同じようなものです。ちなみにこれは「は=ハンカチ」「と=時計」「が=がま口(財布)」・・・と続きます。20~30代の方だとご存じないかもしれないですね。 

このアイスブレイクの目的は、初対面の際に起こりがちな緊張関係(≒アイス)を打破(ブレイク)して、話しやすい雰囲気を作り出すこと。そのため、ラポールで目指している信頼関係の構築とは異なり、それに至る第一歩だと位置付けるのが良いでしょう。 

多くの営業本/ビジネススキル本で紹介されているコミュニケーション心理学としてのラポール 

では、ラポールとは何をするものなのか。多くの営業本やビジネススキル本で紹介されているのは、NLP(神経言語プログラミング)と呼ばれるコミュニケーション心理学で発展した考え方。その中から基本的な要素をピックアップしたのがこちらです。 

ミラーリング・・・腕を組む、あごに手を当てる、同じタイミングで飲み物を飲むなど、相手の姿勢やしぐさを真似る 
ペーシング・・・相手の話のテンポ/スピード、声の大きさ/トーンを真似る 
バックトラッキング・・・相手の話のうち、キーとなる部分をおうむ返しする 

シンプルに言うと、相手の様子や話し方、使っている言葉を真似ながらコミュニケーションを取ることで、相手がスムーズに話しやすくなるという考え方です。 

コミュニケーション心理学としてのラポールは営業には不十分 

実際にこのテクニックを適度に使うことでコミュニケーションはスムーズになりますし、相手の話がはずむ傾向にあるとは思います。とはいえ、あまりに多用しすぎるとわざとらしくなってしまいますし、相手が営業経験者でこのことをよく知っていたりすると「テクニックで取り入ろうとしている」と思われて逆効果になってしまうことも。 

NLPによるラポールの最大の問題は、カウンセリングやコーチングといった相手との対話関係を構築/継続することが求められる分野で開発されたものなので、営業で使うには物足りないということ。もちろん営業でも相手と話しやすい関係を作るのは大事ですが、これだけでは不十分です。顧客にとっては、ただ気持ちよく話を聞いてくれるだけでなく、自分のためにヒアリングや提案などをしてくれていると思ってもらわなければならないのです。 

Gong.io社が提唱する現代の営業で本当に有効なラポールの手法 

それでは、営業で求められるラポール、信頼関係を構築するためには何をすればよいのでしょうか。 

B2B営業向けオンライン/通話システムを開発販売し、そこに日々蓄積される大量のデータをもとに現代の営業における知見を情報発信しているGong.io社の最新レポート「Habits of Leading Master Rapport-Builders」(ラポール構築のプロが普段やっていること)を使って、営業でのラポールに有効な手法を見てみましょう。理解しやすくなるように、オリジナルとは順番を入れ替えてご紹介します。 

手法1~4:相手に寄り添う/相手をおもんぱかる姿勢を伝える 

1. 「私たち」という言葉を使うことで、顧客の心理的なガードを下げることができます。

2. オンライン会議ではカメラをオンにし、画面ではなくカメラを見ることで親密な関係を築きやすくなります。

3. フォローアップの文面をパーソナライズすることで、返信率を高められます。

4. 顧客の発言に反論する場合は、最初に「考えていることを少しお話してもいいですか」などと許可を得ることで、あなたの反論がより受け入れられやすくなります。

この4つは、相手に寄り添っている姿勢や、相手のことをおもんぱかっていることを示すための手法です。先ほどご紹介したNLPのミラーリングやペーシングなどに近い手法だと言えるかもしれません。 

ただし、2番目の「画面ではなくカメラを見る」は、相手の目をしっかり見て話すことが重要視されている欧米圏ならではのもの。じっと見つめられることで逆に居心地の悪さを感じてしまう東アジア圏では、目を直視し続けず適度に視線を外す方が良さそうです。 

手法5~6:相手のことを理解していることを伝える 

続きを見ていきましょう。 

5. 顧客の話を聞き、顧客の感情に「○○のようですね」とラベルを付けて反応することで、顧客は自分のことを理解してくれたと感じます。

6. 顧客が実際に抱いている課題そのものだと思ってもらえるように、顧客の課題を提案ストーリーの中で表現することで、あなたが最適な解決策を持っていると信じてくれます。

この2つの手法が狙っているのは、顧客に「自分のことを」「自社のことを」分かってくれていると思ってもらおうというもの。単に相手のしぐさや話し方などを真似するだけでなく、相手に自分のことをしっかりわかっていると思ってもらうというのが、営業におけるラポールの重要な部分。この2つと先ほどの4つを組み合わせることで、顧客から「この営業担当者はうちのことをよくわかってくれていて、うちのためにヒアリングや提案をしてくれている」という営業で必要な信頼関係を築こうというのがGong.io社のメッセージなのです。 

あなたの商談/コミュニケーションは顧客から「自分/自社のために動いてくれている」と思われているか 

このように、営業におけるラポールは、単に相手との共通点について話題を振ったり、天気の話をすることではありません。また、ミラーリングやペーシングと言った心理的なテクニックだけでも不十分です。顧客に「寄り添ってくれている」「よくわかってくれている」と思ってもらい、営業担当者が予算数字のためだけでなく「自分/自社のために動いてくれている」と思ってもらう。そのような関係こそが営業に求められる信頼関係であり、そのために必要なラポールなのです。 

ちなみに人が人と信頼関係を構築するには、まずそうありたいと思う側が、相手のことを信頼し、そして信頼されたいと思うことが基本です。そういう気持ちを持っているのに、上手くいかない、あるいは更にレベルアップさせたいときに有効なのがラポールです。 

生成AIはまるで人間のように会話できるようになってきましたが、決して人との間に信頼関係を構築したいと思うことはありません。AI時代だからこそ、ハイタッチな、人間しかできない営業においては、ラポールの重要性が増してきていると思います。 

営業が未熟な新人はもちろんですが、そうでないベテランにおいても一度、自分自身のラポールのスタイルについて見なおしてみてはいかがでしょうか。 

面談中の相手の反応や、送ったメールへの返信、電話での相手の口調などから、顧客は自分のことをどのように感じているか。顧客が「自分/自社のために動いてくれている」と感じているか、もしくはそうでないか。顧客の様子を確かめながら自分の振る舞いをチューニングするヒントとして、今回ご紹介したラポールの手法は有効だと思います。 

参考:「Habits of Leading Master Rapport-Builders」(Gong.io Inc., 2024