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コロナが5類になってから1年が経ち、観光旅行や各種イベントに学校への通学など多くの活動がコロナ以前に戻っていますが、会社によっては2020年以降変わったまま定着しているものがあります。そう、リモートワークです。 

国土交通省が実施している「テレワーク人口実態調査」によると、令和5年度のリモートワーク実施率(直近1年間)は16%。ただし首都圏に絞ると28%に割合が跳ね上がります。また、業界によるばらつきも大きく、IT系を含む情報通信業では72%、コンサルティングや各種士業を含む専門・技術サービス業では54%でリモートワークが継続・定着しているそうです。 

確かに私のクライアントもほぼフルリモートであったり、週2回までといったように個人の裁量に任せていたりするところが多いように感じます。ちなみに私も、集中して作業に取り組みたい日やリモート会議が立て込んでいる日はリモートワークを活用しています。また最近では猛暑対策のために改めてリモートワークを推奨する企業もあるようです。 

このように、一部の企業では定着しているリモートワークですが、メンバーの働きぶりが見えにくいためマネジメントに苦心しているマネージャーの方もいまだに多いようです。そこで今回は「リモート営業組織のマネジメントの仕方」について、改めて学びたいと思います。4年前に緊急避難的に導入されたリモートワーク。うまく活用して成果を上げるために何が必要なのか、一緒に見ていきましょう。 

150名のリモート営業組織を率いる営業トップによる「リモートワークで成果を上げるポイント」 

今回紹介するのはSales & Marketing Management誌の記事「5 Strategies for Managing a Remote Sales Team」(リモート営業組織を管理する5つの戦略)。ただ、よくある専門家の論考ではなく、実際にInfinite Electronics社という米国の電子機器メーカーで150名のリモート営業組織を管理している現役の営業トップによる寄稿となっています。 

記事の中では、150名の営業担当者がほぼフルリモートという働き方で成果を上げるためのポイントを5つ紹介しているのですが、その前に米国のB2B営業組織のリモートワークの実施率から見ていきましょう。 

米国の営業組織で定着しているリモート/ハイブリッドワーク 

多くの組織が従業員のオフィス復帰を義務付けているにもかかわらず、営業担当者のうち毎日オフィスで勤務しているのは3分の1のみで、残りの3分の2は完全リモートまたはハイブリッドモデルで勤務しています。

営業担当者に限ったデータのため、冒頭でご紹介した日本のデータと直接比較することはできませんが、それでもリモートワークの実施率が高いことがうかがえます。海外のニュースではリモートを取りやめてオフィスに従業員を戻そうと躍起になっている企業の話をよく見聞きしますが、このデータを見ていると米国の社会全般においてはリモート/ハイブリッドワークが当たり前のものとなっているようです。 

リモート営業組織を管理し成果を上げる5つのポイント 

それでは、続けてリモート営業組織を管理し成果を上げる5つのポイントについて見ていきましょう。 

1. 定期的なコミュニケーションの場を確保する 
(中略)この場では必ずオープンクエスチョンをし、メンバーの懸念や活動について注意深く耳を傾けてください。また、マネージャーから建設的なフィードバックを提供し、メンバーが何に行き詰まっていてどう支援できるかを確認しましょう。

2. 会議中はカメラをオンにする
(中略)顔の表情やボディランゲージは、私たちの相互理解に大きな役割を果たします。会議中にこれらの合図を見ることで、メンバー同士の関係構築に役立ちます。

3. 期待する役割/目標を明確に伝える
どのような仕事でも曖昧さは生産性の低下につながりますが、リモートワークの場合はなおさらです。(中略)各メンバーに求める役割、毎日のタスクと期限、成果物を具体的に設定します。また、測定可能で達成可能なKPIを設定し、定期的な面談の場で進捗状況を確認します。

4. メンバーを信頼していることを示す
(中略)ハーバードビジネスレビューの調査によると、「信頼度の高い企業で働く従業員は信頼度の低い企業の従業員に比べ、ストレスが74%少なく、仕事への熱意が106%高く、生産性が50%高く、病欠が13%少なく、生活への満足度が29%高く、燃え尽き症候群が40%少ない」ことが報告されています。(中略)チーム メンバーに信頼を示すには、細かい管理をやめて、代わりに権限を与えることが不可欠です。あなたは適切な人材を採用したのですから、メンバーに自分自身を証明する機会を与え、仕事で成長できるようにエンパワー(権限委譲)してください。

5. オフィスに出勤する価値を創出する
(中略)たとえば、ブレインストーミング セッション、合同ランチ&勉強会、対面での研修を行ってコラボレーションを最大限に高めます。会社全体やチーム単位でのイベントなども有効です。オフィスでともに過ごす時間は、共通の目的意識を育み、まとまりのあるチームづくりにつながります。

ご覧になってみて、いかがでしょうか。新鮮味がない。当たり前のこと。こう思われた方が多いのではないかと思います。私もそう思いました。2番目と5番目こそリモートワークらしさがあるものの、それ以外の項目はオフィスに出勤していた頃から言われていたこと。また、5つのポイントすべてにおいて、営業組織でなくても当てはまる一般的なアドバイスですらあります。 

また、「『4. メンバーを信頼していることを示す』っていうけど、現実的に無理だよ」とお思いの方もいらっしゃるのではないでしょうか。全員が同じオフィスで仕事をしていれば意識せずともメンバーの働きっぷりが見えていましたが、リモートだとそれを把握するためのすべが必要です。マウスやキーボードの動作状況を追跡するようなシステムもありますが、そのような性悪説にたったツールで監視するのではなく、各人がやるべきことをやっていることが自然と把握できるようなしくみが欲しいものです。 

リモート営業組織で成果を上げる前提条件「営業活動/マネジメントのシステム化」 

記事の中では触れられていませんが、上記の5つのポイントの基礎となるリモート営業組織を管理するための大事な前提条件が隠れています。それは、営業活動/マネジメントがシステム化されていること。 

具体的には、商談発掘や商談受注といった活動ごとのプロセスと手順が定義/標準化されていて、必要なツール/情報を各自が使えるようになっている。各プロセスでのKPIが定量的・具体的に設定されていて、日々/メンバーごとのパフォーマンスを自分でモニタリングできるようになっている。そして、それらのデータを見て対策を指導するマネジメントの手法が全マネージャーの身についている。営業活動やマネジメントがシステムとして整っていることが大前提なのです。 

リモートワークの生産性で後塵を拝していた日本企業 

リモートワークでの生産性を国別に比較したデータというものがあります。PCメーカーのレノボ社が世界10か国で実施した調査では、オフィス勤務に比べてリモート勤務で生産性が高まったとの回答が世界平均では63%。一方で在宅勤務で生産性が低くなったとの回答では、世界平均が13%のところ日本は40%と10か国中最下位。しかも下から2番目の中国の16%にダブルスコア以上の差をつけるダントツの数字だったのです。 

この理由としてレノボ社はリモートで勤務できる環境整備の遅れを挙げていますが、自社のビジネスにつなげたい我田引水な理屈のように思われます。それよりも、日本企業ならではのメンバーシップ型雇用による職務定義や業務手順、評価指標の曖昧さ、先ほどの話で言うところのシステム化の遅れが原因になっているのではないかと思うのです。 

生産性向上のために不可欠なプロセス/手順/KPIの定義 

私の大好きな言葉に、業務改善の始祖エドワード・デミングによる「定義できないものは管理できない。管理できないものは測定できない。測定できないものは改善できない」というものがあります。リモートでの営業メンバーの仕事っぷりを管理して成果を上げようとするならば、営業プロセスや個別の手順、目指すべきKPIの定義が不可欠です。そして、これはリモートワークだけの話ではありません。今はやりのセールスイネーブルメントで営業生産性を高めようとする場合でも、同様に必要なことなのです。 

もし皆さんの組織でリモートワークで任せることに不安があったり、生産性の低下やばらつきが生じたりしている場合は、メンバー個人ではなく仕事の仕方やマネジメントの仕方のシステム化の方に目を向けて見てください。特定のメンバーだけの問題ではなく、組織としてのシステム化の遅れに本当の原因があるのかもしれません。 

参考:「5 Strategies for Managing a Remote Sales Team」(Sara Wakefield, Infinite Electronics, Sales & Marketing Management, June 26, 2024