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営業という仕事を始めた新人にとっての一番の難所は、顧客から何度も「ノー」「いらない」と言われることではないでしょうか。若い営業メンバーに対してコーチングをしていると、「顧客から『ノー』と言われるたびに自分そのものが否定されたような気になる」「次に提案しようというモチベーションが下がる」という声をよく聞きます。 

そこで今回は、「顧客からの『ノー』の受け止め方」について考えてみたいと思います。営業をしていると頻繁に遭遇する顧客からの「ノー」。自分を過度に責めるのではなく、かつ顧客との建設的な対話のきっかけにするためにどのように受け止めればいいのか、一緒に見ていきましょう。 

令和の時代でも、めげずに根気よく何度もアタックしなければならない? 

ビジネスや恋愛のドラマや映画を見ていると、断られてもめげずに根気よくアタックすることで上手くいく、という物語であふれています。アタックされ続けた相手が熱意にほだされたり、自分のことを誰よりも一途に思ってくれることが伝わったりすることで、相手が心を開いてくれるようになるというもの。古くは、田舎暮らしをしている賢人・諸葛亮孔明のもとに一城の主である劉備玄徳が自ら三度も足を運んだことでようやく迎え入れることができた『三顧の礼』などもそうですね。 

営業でも古典的名著として『営業は断られた時から始まる』(原題・The Sale Begins When the Customer Says “NO”)という本があるほどに、顧客から「ノー」と断られることがしょっちゅうです。 

とはいえ、何度もめげずにひたすら繰り返しアプローチするというドラマや映画のようなやり方だと、精神的なストレスも大きいですし、熱意にほだされにくいタイプの顧客からすると迷惑でしかありません。また、昭和から平成の時代のマッチョな根性論のようにも感じられますので、今どきのメンバーには逆に新鮮かもしれませんが素直に受け入れにくいようにも思えます。 

海外のベストセラーに学ぶ「顧客からのノーの受け止め方」 

それでは、顧客からの「ノー」を営業担当者としてどのように受け止めればいいのか。その参考になりそうなアイデアを10年ほど前に海外で出版された営業本「New Sales. Simplified.」の中に見つけましたので、ご紹介したいと思います。 

ちなみにこの「New Sales. Simplified.」はAmazonのクチコミが2,000件を超える営業のベストセラーの1つ。著者のマイク・ワインバーグ氏は続けて「Sales Management. Simplified.」という営業マネジメントの名作を放ってもいるのですが、どちらも残念ながら邦訳されていません。 

New Sales. Simplified.」の中には「顧客の反射的な抵抗を防ぐ」(Preventing the Buyer’s Reflex Resistance to Salespeople)という章が1つあるほどに、顧客からの「ノー」の受け止め方についてしっかり書かれています。その中から特に参考になる箇所を2つ抜粋してご紹介します。 

どれだけ完璧に見込客の課題を解決できるかを伝えたとしても、とてつもなく高い確率で見込客から「ノー」と言われます。これはあなたのせいではありません。あなたが何かをしたからでもしなかったからでもありません。見込客はノーと言うようにプログラムされていて、自動的にNoと言っているだけです。そしてこれはどこかのバカな営業担当者のせいでもあります。見込客というのは多忙で、自分の時間を無駄にする営業担当者にうんざりしているから、最初の一声はたいがいノーです。だから自分のせいだと受け止めないこと。ただし、これで話を止めてしまってはいけません。

顧客は営業担当者を拒否するものです。中でも特に関係の薄い見込客は、自動的、本能的、反射的に営業担当者を拒否します。これはあなたのせいではありません。ただ、営業を成功させたいなのなら、あなたがどうにかしなければなりません。あなたのせいではないですが、あなたの問題ではあるのです。

顧客は今までの経験からほぼ自動的にノーと言うようになってしまっているのだから、自分のせいだと思って自分を責める必要はない。ただし、自分のせいではないが、自分がこの問題を解決しないと受注にはつながらない、と言うのがワインバーグ氏のメッセージです。これが顧客の100%の真実なのかどうかはともかく、営業担当者の精神衛生を守れますし、また顧客との会話を続けることの重要性も伝わりますので、とても良い顧客からのノーの受け止め方ではないでしょうか。 

カウンセリングから学ぶ「顧客からのノーの受け止め方」 

それでは、どのように顧客からのノーに対応して会話を続ければいいのでしょうか。そのヒントになりそうな考え方をカウンセリングの隠れた名著「インクルーシブセラピー」の中からご紹介します。 

クライエントの抵抗の多くは、セラピスト側の誤解や柔軟性のなさの反映である。抵抗を真剣に受け取り、理解しようとすることがセラピストに求められる。

「クライエント」を「顧客」に、「セラピスト」を「営業担当者」に、「抵抗」を「ノー」に読み替えると、営業現場向けの素晴らしいアドバイスに生まれ変わります。カウンセリングでは抵抗やノーは相手からのサインであり、その背景を聞くことで相手が大事にしていることや前向きに進めるためのヒントが見えてくる、という考え方をします。そのため、相手からのノーを受け入れて背後にある思いを引き出して、相手がイエスと言える条件について探っていく、ということをします。 

コンサルティング営業という言葉がありますが、実はコンサルティングとカウンセリングはもともと同じ語源に由来しています。コンサルティング営業の1つの手法/考え方として、ご紹介したようなカウンセリングの発想を取り入れるのも有効だと思います。 

顧客からのノーを前向きに受け止める3つのポイント 

ここまでご紹介した内容を簡潔にまとめると、 
「顧客からの『ノー』を自分に対するものや、自分のせいだと受け止める必要はない」 
「ただし、乗り越えるべき/解決すべき問題があることのサインだと認識するのが大事」 
「そのためには、顧客の『ノー』の理由や真意を理解し、顧客と一緒に解決策を探らなければならない」 
という3つになります。 

営業をしているとどうしても言われてしまう顧客からの「ノー」で気を病んでしまうことなく、かつ顧客の課題解決のために前向きに「ノー」を乗り越える。新人の営業担当者にとって、この3つの考え方は参考にしていただけるものだと思います。皆さんの周りに、顧客からの「ノー」に悩んでいる方がいらしたら、ぜひ教えてあげてください。 

参考: 
New Sales. Simplified.」(Mike Weinberg, AMACOM, Harper Collins, 2013 
「インクルーシブセラピー」(著:ビル・オハンロン、訳:菊池悌一郎 & 青木 みのり、二瓶社、2007