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営業コンサルという仕事をしていると、定期的にされる質問があります。それは「おススメの営業本ってありますか?」 

確かに書店に行ってもMBAシリーズなどでマーケティングやアカウンティングの本はありますが、営業について初心者が体系的に学ぶような本はありません。『なぜハーバード・ビジネス・スクールでは営業を教えないのか?』という本が10年前に出ていますが、それ以降もMBAシリーズで営業の本は出されないままです。 

そのようなわけで、新しく営業に異動してきた若手メンバーや、新たに営業マネージャーになった方などからおススメの営業本についてよく質問されます。そこで今回は、営業の初心者や営業マネージャー/営業企画になりたての方にぜひ読んでいただきたい営業本をご紹介します。ベテランの方にとっても学びの多い本を選りすぐっていますので、初心者の方もベテランの方も、ご自身の本棚にあるかどうかぜひチェックしてみてください。 

営業担当者向けおススメの営業本①『営業の赤本』 

まずは初めて営業に取り組むという方におススメの営業本を3つご紹介します。 

1つめはキング・オブ・セールスの異名を持つジェフリー・ギトマー氏の『営業の赤本』。 

特にこの本が優れているのが営業という仕事における責任感や向上心といったスタンスについての記述が手厚いこと。前向きに取り組むこと、商品の価値に頼るのではなく毎回の商談を通じて価値を提供すること、そのために日々努力すること、といった営業の基本的な心構えを学ぶことができます。「成功」「努力」「向上心」といった言葉が随所に出てくるので暑苦しいと感じる方もいるでしょうが、それでも営業で成果を出すために欠かせない心構えを学べる良い本だと思います。 

初心者の方以外でも、営業という仕事に慣れてモチベーションが下がり気味の人にとっても、改めて自分に喝を入れ直すことができるのでおススメです、 

営業担当者向けおススメの営業本②『人を動かす』 

2つめは1936年に初版が出た古典的名著、デール・カーネギー氏の『人を動かす』です。 

人を動かすというと心理的なテクニックを使って操作するように捉えられるかもしれませんが、原題は「How to Win Friends And Influence People」なので、人に働きかけて影響力を及ぼそうというもの。営業にとって不可欠な、顧客や社内での人付き合いに欠かせないヒントがたくさん詰まっています。 

「人を動かす唯一の方法は、その人の好むものを問題にし、それを手に入れる方法を教えてやることだ」
「人と話をするとき、意見の異なる問題をはじめに取り上げてはならない。まず意見が一致している問題からはじめ、それを絶えず強調しながら話を進める」
など営業に直接活かせる名言がたくさんある、営業に初めて取り組む方にはぜひ読んでいただきたい古典です。 

営業担当者向けおススメの営業本③『ヘルピング・クライアンツ・サクシード』 

3つめは課題解決型営業/ソリューション営業のバイブルともいえる、マハン・カルサー氏の『ヘルピング・クライアンツ・サクシード』。 

「自分たちの商品やソリューションを起点とするのではなく、顧客にとって優先順位の高い課題の解決に取り組む」や、「顧客の意思決定プロセスとその登場人物を明らかにして、それが前に進むように働きかける」といった課題解決型/ソリューション営業の基本を丁寧に解説してくれていますので、この本に書かれていることを理解して安定して実践できるようになったら営業の免許皆伝と言ってもいいくらいの名著です。 

ちなみに、今回の記事の企画についてトライツの社内で打合せをした際に、「絶対にこの本は入れよう」と意見が揃ったのがこの本。私としては世に数ある営業本の中でもトップだと言ってもいいくらいだと思っています。 

それぐらい素晴らしい本だったのですが、数年前までは絶版状態で電子書籍化もされていませんでした。2021年になってようやくKindleやAppleブックでも読めるようになりましたので、まだ読んだことがないという方はぜひ読んでみてください。 

営業マネージャー/企画向けおススメの営業本①『セールス・イズ』 

次に、営業マネージャー/企画になって間もない方におススメの営業本を、これまた3つご紹介します。 

1つめは3年前に出版されたセールス・イズ』。 

一見すると営業担当者向けの営業本なのですが、実は営業マネージャーになりたての方におススメ。というのも、「営業活動を7つのプロセスに分解する」「アカウントプランを組み立てる4つの手順」のように、営業活動を手順化し科学的に説明できるものにしようという考え方がこの本のベースにあります。 

営業担当者としては素晴らしい成果を出していたのに、営業マネージャーになるとイマイチという人がいらっしゃいますが、そのタイプの人でよくある傾向が「営業をアート(芸術)として捉えていて、どうすれば成功するかをメンバーに体系的に伝えられない」ということ。そのような方が、営業をサイエンス(科学)として体系的に捉え直すのにピッタリの好著です。 

営業マネージャー/企画向けおススメの営業本②『ザ・モデル』 

2つめは2019年に出版されたザ・モデル』。 

この本はセールスフォースやマルケトといった海外の先進的な企業での経験をもとに書かれた本。顧客接点をマーケティングや、見込客に架電して商談化するインサイドセールス、商談化した見込客を訪問して受注獲得するフィールドセールス、受注後の顧客が実際に課題解決するのを助けて取引拡大につなげるカスタマーサクセスといった機能別に組織を分け、それらを連携して成果を上げるための方法について書かれています。 

そのため、この本を読んだことがある人には「分業についての本」というイメージがついているかと思いますが、実はこの本には営業マネージャー/営業企画にとってのヒントが満載です。各機能での営業プロセス設計や、売上予測の立て方、営業マネージャーとしての商談のチェックの仕方、成果を出すためにマネジメントすべき観点など、営業のマネジメントについて俯瞰的に学ぶことができる本でもあるのです。 

ですので、「どうせ外資系企業での話でしょ」「うちの会社に機能別の分業は向かないよ」という思い込みは横に置いて、「営業マネジメントの全体を学ぼう」というスタンスで読んでみてください。きっと学びの多い本だと再認識していただけるはずです。 

営業マネージャー/企画向けおススメの営業本③『セールス・イネーブルメント』 

そして最後の3つめは『セールス・イネーブルメント』。 

同名の書籍が複数あるのでややこしいのですが、こちらは海外で出版された有名な書籍を、今やパーソル総合研究所となった富士ゼロックス総合教育研究所(FXLI)が翻訳して紹介したもの。他の同名の書籍では人材育成だけに焦点が当たっているものもあるのですが、こちらでは営業の成果を出すために必要な要素すべてを網羅していますので、新しく営業マネージャー/営業企画になった人が営業について体系的・構造的に理解するのにもってこいの本になっています。 

セールス・イネーブルメントの定義は、営業活動改善のための一連の取組として、各種営業施策をトータルでデザインし、それぞれの施策のパフォーマンスを数値化して管理すること。言葉こそカタカナでなじみが薄いですが、これは営業企画や営業マネージャーの仕事そのものでもあります。 

原著を直訳したカタカナも多く、一見すると取っつきにくい本ではありますが、「セールス・イネーブルメント」を「営業マネジメント」や「営業のしくみづくり」に置き換えて読んでいただくと、成果を出し続けられる営業組織を構築するために必要な要素を体系的・構造的に理解していただけると思います。紙では絶版となっていますので、KindleまたはAppleブックでお読みください。 

気になる本を読んで営業の学びを増やそう 

ここまで営業担当者向けの本、営業マネージャー/企画向けの本をそれぞれ3冊、計6冊ご紹介してきましたが、まだ読んだことがない本はありましたか。そのような本があったらぜひ本屋で手に取ったり、Kindleの試し読みをしてみてください。 

リクルートワークス研究所が行った日本における働き方の総合調査「Works Index 2023」によると、「仕事に関する学びについては、正規雇用者・非正規雇用者ともに、企業が提供するOff-JTなどの機会が前年に続き増えているのに対し、自発的な学びは増えておらず、『学習・訓練』はわずかな上昇にとどまった」とあります。ということは、今回ご紹介したような本を読むことで、周りから一歩も二歩も先んじることができるということ。皆さんの営業についての学びを増やすヒントにしてみてください。 

参考:
営業の赤本」(ジェフリー・ギトマー (著)、月沢 李歌子 (翻訳)、日経BP社、2006年)
人を動かす」(デール カーネギー (著)、山口 博 (著)、創元社、1999年
ヘルピング・クライアンツ・サクシード」(マハン カルサー (著)、フランクリン コヴィー ジャパン (翻訳)、キングベアー出版、2009年)
セールス・イズ」(今井晶也、扶桑社、2021年
ザ・モデル」(福田康隆、翔泳社、2019年)
セールス・イネーブルメント」(バイロン・マシューズ&タマラ・シェンク (著)、 富士ゼロックス総合教育研究所 (翻訳)、きこ書房、2019年)