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顧客の課題を聞くことの重要性は、営業を経験されたことのある方は皆さんご存じでしょう。特にB2Bでは課題解決型営業が当たり前のものになって久しいので、顧客の課題を背景や目指す姿なども絡めてより詳しく聞き出すことは欠かせません。 

電話営業であったとしても顧客の話を聞くことは大事だそうで、アメリカのGong社のデータによると一般的な営業担当者は通話時間の65~75%を話していて、顧客の話を聞いているのはほんの25~35%ほど。ところが高業績を収めている営業担当者は平均して通話時間の43%しか話しておらず、57%の時間を顧客の話を聞くことに使っているそうです。 

このように顧客の話をたくさん聞くことは重要ですが、いかに上手に聞くかというのもとても大事な要素です。そこで今回は、トライツが提唱しているヒアリング手法のポイントを一部ご紹介します。他社営業にも話しているような情報をただ聞き出すだけでなく、顧客自身も認識していなかった、まさに「お宝」と言えるような価値のある新たな気づきや本音の声に出会い、ビジネスを優位に進めることができるポイントについて見ていきましょう。 

トライツがお勧めする「顧客の言葉を忠実に書き取る」ヒアリング 

トライツがお勧めしているヒアリング手法のポイントは、「顧客の発言を、顧客の言葉のまま、できるだけ抜け漏れがないように、かつ顧客が見えるように書き取る」こと。顧客の課題やこれからやりたいと思っていることについて、顧客に思いつくままに話していただき、それをひたすら書き留めていくのです。 

この際に使う道具はA3やA4サイズの白紙のコピー用紙と線幅が太めのサインペンでOK。顧客の課題ややりたいことを、話されたそばからできるだけ忠実に箇条書きで書き留めていきます。書き留めている中で気になることや質問したいことがあってもグッと我慢し、顧客の思考の邪魔にならないように「そうなんですね」「なるほど」などの最小限の合いの手を入れるだけにとどめます。 

順調に進めば30~45分程度で100~200項目以上の発言を聞き取れます。その後は、顧客に発言リストを最初から最後まで見てもらって抜け漏れや捉え違いがないかを確認してから、より大事なもの、優先順位高く解決したいものを選んでもらい、さらにその背景や目指したいゴールなどを深掘りしていきます。 

このヒアリングが終わったときには、多くの場合、顧客が何らかの「お宝」を見つけています。「もやもやしていたものが整理された」「本当に大事な課題が明確になった」「課題への打ち手のヒントが見えてきた」「自分がやるべきことが明確になった」といったものです。そのため、顧客と営業との関係も、一緒にお宝を見つけた盟友のような特別なものになり、「一緒に課題を整理したいから、またあのヒアリングをやってほしい」と呼ばれるようになることもまれではありません。 

顧客の頭の中のものを話してもらい、それを書き取ることで思考が深まる 

このような関係になれる理由の1つが、「顧客の発言をできるだけ忠実に、顧客が見えるように書き取る」ことです。「本当にそんなに簡単にうまくいくの?」と思われるかもしれませんが、実はビジネスだけでなく心理学的な裏付けがあるのです。 

最近発行された『THINK BIGGER 「最高の発想」を生む方法』(シーナ・アイエンガー著、櫻井祐子訳、ニューズピックス社、2023年11月20日)でも、自分が考えていることを言葉に出し、文字にすることの重要性について、以下のように記されています。 

発話は創造の行為だ。言おうとしていることが脳から口に伝わる間に、あなたはそれを言う新しい方法を見つける。そして、自分の言っていることを耳で聞くと、それが最初に言おうと思っていた内容と違っていることに気づく。声に出して言うことは実際に思考を生み出すのだ。(中略)

私たちは書くことによって、思考を集中させ、整理し、組み立てることを強いられる。書くことは創造的な行為だ。書き出すことで、実際に思考を生み出すのだ。

このように、普段頭の中で考えていることを言葉にして発する、そして考えていることを書き出すことで、顧客の中で思考が新たに生まれて深まるというのです。 

ブレインダンプ/日記療法のお手伝いで「お宝」が見つかる 

また、頭の中で考えているものを全部ノートに書きだすことで、もやもやしていた思考が整理され、課題解決のヒントが得られるということは、「ブレインダンプ」という思考スキルとしても知られています。同様のことは、カウンセリングや心理療法では「日記療法」という技法としても確立しています。頭の中にわだかまっている思考をいったんすべて書き出し、それを客観的に眺めることで、頭の中だけではクリアにできなかったものが整理されるのです。 

また、難しい課題や困りごとについて、自分の中にある思考や感情までも相手に共有できると、ストレスが緩和されて前向きにそれらの課題に取り組めるようになるという「カタルシス効果」というものも心理学では見つかっています。 

顧客に自らが抱えている課題や困りごとについて、頭の中にあるものをすべて話してもらい、それを忠実に書き取るというヒアリングは、まさにブレインダンプや日記療法をお手伝いしているようなもの。そのため、顧客の頭の中が整理され、本当に大事な課題や打ち手のヒントといった「お宝」を見つけられるようになり、さらにはそれらの課題の解決に前向きに取り組めるようになるのです。 

「忠実に書き取る」ヒアリングでコンサルタント的な価値を提供しよう 

顧客はWebやAIなどを使って、様々な情報を簡単かつ無料で得られるようになっています。そのため、営業担当者の役割も、顧客が持っていない情報を提供する情報屋から、顧客の課題解決や購買活動を支援するコンサルタント/専門家へと進化しつつあります。今回ご紹介したヒアリング手法は、顧客の思考を整理してより大事な課題やその打ち手のヒントといった「お宝」を見つける、まさにコンサルタント的なスキルであり、現代の営業により必要とされるものなのです。 

トライツコンサルティングではこれらのヒアリング手法を、それぞれの企業が扱っている商品やその顧客の業種/業務に合わせて個別にチューニングし、その実践のためのツール開発やトレーニングを行っています。ご興味のある方はぜひお気軽にご相談ください。また、3月6日に開催するセミナーでは、このヒアリング手法をより詳しくご紹介する予定ですので、ご都合よい方はぜひお申込ください。