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ChatGPTが登場してから9か月が経ちました。Googleトレンドで人気度の推移を見ていると、今年(2023年)の1月早々から急上昇。4月9日から15日にかけてそのピークを迎え、その後は緩やかに下がりつつあり、現在(9月)では最盛期の3割ほどと、落ち着いたレベルで推移しています。
皆さんの中でも、この9か月のうちにプライベートや仕事の場で試してみた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は、特にB2B営業の業務の中でChatGPTなどの生成AIの活用法のヒントになる海外の記事をご紹介します。この記事の中では、生成AIが得意な仕事の分野に応じて4つのキャラクターを設定しています。ChatGPTなどの生成AIはどういった役割で私たちの仕事を手伝ってくれるのか、早速見ていきましょう。
B2B営業を支援してくれる生成AIの4つのキャラクター
今回ご紹介するのは世界的なコンサルティング会社であるボストン・コンサルティング・グループ社の記事「Get Your B2B Sales Team Ready for the Power of Generative AI」(あなたのB2B営業組織に生成AIの力を取り入れよう)。この記事の中では、「生成AIの活用でB2B営業の担当者の生産性が2倍になる」といった独自の分析結果を紹介するなどしていますが、一番の目玉は冒頭でもお伝えした「B2B営業を支援する生成AIの4つのキャラクター」。どんなキャラがいて、どんな作業を手伝ってくれるのか、4人のデジタルサポートチームの顔ぶれを見てみましょう。
1. 究極の営業アシスタント
・ミーティングの前に顧客の情報をSFAのデータベースから取り出し、重要なデータを実用的かつ簡潔にまとめてくれる
・Eメールやミーティング、その他さまざまな顧客とのやり取りの後にSFAのデータを更新してくれる2. 専属データサイエンティスト
・優先度の高い見込客と、アプローチに最適なタイミングを教えてくれる
・既存顧客のうち、クロスセルの可能性が高い顧客とアプローチの方法を教えてくれる
・最も効果的な販売促進の打ち手を教えてくれる3. パーソナルマーケター
・Eメール/提案書/マーケティング資料を各顧客に合わせてパーソナライズしてくれる4. 最高の営業コーチ
・営業担当者の個人のデータに基づいて、改善方法とその進め方を教えてくれる
・担当者に合わせた顧客との会話例(シミュレーション)を作ってくれる
「究極」とか「最高」といった形容詞が若干強すぎるきらいはありますが、それでも確かに営業担当者および営業マネージャーにとって役に立つ4人組だと思います。
多くは生成AI単体では十分な仕事ができない
ただ、注意が必要なのがこれらのキャラのうち1~3番は、単体では十分な仕事ができないということです。
1番の営業アシスタントは、SalesforceなどのSFAとAPIなどでつながっていないとその中のデータを抽出/更新できませんし、EメールやTeamsでの打合せの結果を反映させようとすると、セールスエンゲージメントツールと言われる顧客との接点を一元管理するシステムともつながっていなくてはなりません。そうでないと、Teamsのライブキャプション機能を使って会議内容を文字起こしさせてから、それを生成AIに要約させることになり、複数のツールを操作せざるを得なくなってしまいます。
2番目のデータサイエンティストもSFAとつながっていないと分析すべきデータにアクセスできませんし、3番目のパーソナルマーケターもPowerPointなど提案書やマーケティング資料を作るアプリに入れておかないと役に立ちません。
質問に回答してもらうだけならChatGPT単体で十分に使えるのですが、今回ご紹介した役割を担ってもらおうとすると、SFAなどの既存システムとの接続が重要になってくるのです。
パーソナルマーケターを使うのに役立つPowerPoint/Wordのアドオン
ちなみに、私はBeautiful.aiというChatGPTをベースにしたスライド作成AIのアドオンをPowerPointに入れています。提案の背景や求めるゴール、スライド作成にあたっての注意点といったデータを読ませれば、それを加味した日本語のスライドが自動で作れてしまうという優れもの。
また、Wordで使える文章作成系のChatGPTベースのアドオンで有名なのはGhostwriter。こちらももちろん日本語で使えます。
3番目の「パーソナルマーケター」に興味がある方はこれらのアドオンを試してみることをお勧めします。
生成AIを活用し価値を感じられるようになるまでの3つのリスク
営業の作業を楽にしてくれる生成AIの4つのキャラですが、活用して価値を実感できるようになるまでに3つのリスクがあると記事では続けています。
- そもそも生成AIを実装しなかったり、期待通りに機能しなかったからと言ってすぐあきらめてしまったり、たった1つの作業にしか活用しなかったりすることで、周りから取り残されてしまう。
- 生成AIの組織への導入プロセスを最適化しないことで、予算や技術対応が莫大に増えてしまう。
- 生成AIの能力を超えた作業をさせようとすることで、利用者の生成AIへの信頼が失われてしまう。
以前のトライツブログの中で、生成AIは個人でも利用できる「個のDX」だというお話をしていましたが、今回ご紹介している「営業アシスタント」や「データサイエンティスト」として利用しようとすると、先ほど触れたようにSFAなどの既存システムとの接続が不可欠。そのため、2番目の「組織としての導入プロセスの最適化」が重要となるのです。
この3つのリスクが行きつくところは、どれも「生成AIの不活用」というもの。日本語でも使えて、SFAやERPなどのシステムと比べても格段に安価で、導入しやすいことこの上ない生成AIなのに使いこなせないというのはもったいないことだと思います。
活用をためらうことで生まれるCOI(不活用費用)
この不活用による損失のことを英語ではCOI、Cost of Inaction(不活用費用)と呼びます。もともとは健康や環境など、問題があることに気が付いているのにそれを放ったらかしにしておくことが、病気や災害発生といった大きなコストを引き起こすという考え方。このCOIがビジネスでも応用されて、問題解決を先送りにすることによる将来の対応コストの増加分だけでなく、目の前のチャンスに乗り遅れることで発生する機会損失のことも含まれるようになりました。
これまでのどのシステムと比較しても導入しやすい生成AIを使わないでいると、ROI(投資対効果)を得られないだけではなく、このCOI(不活用費用)までもを発生させてしまうのです。
4つのキャラの中から一緒に仕事をしたい相手を見つけて、パートナーに育てていこう
今回ご紹介した生成AIの4つのキャラ「営業アシスタント」「データサイエンティスト」「パーソナルマーケター」「営業コーチ」のうち、私は「パーソナルマーケター」「営業コーチ」と仕事をよくしています。皆さんはどのキャラと一緒に仕事をしていますか? また、これから新たに一緒に仕事をしてみたい相手は見つかりましたか?
生成AI活用の大きなハードルだった「データ漏洩」ですが、入力したデータをChatGPTの学習に使用させないオプトアウト申請という仕組みができています。また、先ほどのアドオンツールのようにAPIを利用していると、最初からデータをChatGPTの学習に使わないようになっており、いよいよ生成AIを使わないでいる理由がなくなってきました。
今回の記事で新たに仕事をしたいキャラを見つけられた方は、皆さんも生成AIをインターンの学生や派遣で来ている方、新入社員だと思って少しずつ作業させてみてはいかがでしょうか。もちろん最初から完璧な仕事をしてくれるわけではありません。ただ、一緒に作業する経験を重ねることで、よりよい指示の出し方を私たちが身に付けられるようになり、少しずつパートナーのような関係を築いていけるでしょう。
生成AIは導入したその瞬間から、目の前の仕事が一気に片付く魔法の道具ではありません。少しずつ使い方を学び、私たちが生成AIとの働き方を身に付けていくことで、だんだんと仕事が効率化されて生産性が高まっていく、いわばともに育っていく存在なのだと思うのです。
参考:「Get Your B2B Sales Team Ready for the Power of Generative AI」(Stephen D’Angelo, Bryan Gauch, Audrey Hawks, and Matt Ward, Boston Consulting Group, September 11, 2023)