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ChatGPTの登場から半年以上が経過し、日本でも独自の生成AIを開発したり、業務に取り込んだりという企業のニュースが増えてきました。これをお読みの方の中にも、仕事で少しずつ使い始めたという方もいらっしゃるかもしれませんね。

そのような中、営業部門での生成AIの活用状況のデータが日本とアメリカの両方でそれぞれ発表されましたので、日米両国でどの程度使われているのか、その違いが何かを探っていこうと思います。

その中でこれまで組織として取り組んでもなかなか進捗しなかったDXに対し、新たなアプローチが見えてきました。ぜひお読みください。

日本の営業部門の生成AI利用率はたったの7%

まずは日本の営業部門での活用状況について、MAツールのHubSpot社が今年(2023年)の5月末~6月頭に実施した「第1回 日本のマーケティング・営業領域における生成AI(ジェネレーティブAI)利用に関する意識実態調査」の概要を見ていきましょう。

マーケティング職・営業職に従事するビジネスパーソンの55.6%が生成AIについて「聞いたことがない」「知らない」と回答。

「業務で使っている」と答えた人は13.2%にとどまり、職種別ではマーケティング職では19.2%、営業職では7.2%。

ということで、営業職では1割足らずの利用率。その理由となっていそうなのが、以下のデータです。

「所属する企業は生成AIの業務利用について許可しているか」という質問に対して、「許可している」と回答した人は全体の14.4%、「許可していない」が11.0%、「方針を出していない」と回答した割合が最も高く74.7%。

ChatGPT登場から半年たってはいるものの、会社全体の方針が定まっていないので手を出さない(出せない)でいるという組織が多いことがうかがえます。

日本の営業部門での活用方法トップ3

ちなみに、数少ない利用者がどんなことにAIを活用しているかのデータもあります。

生成AIを使っていると回答した人の中で、使っている業務を聞いてみると、以下回答(複数可)が挙げられました。

第1位 アイデア出しや企画作り(25.7%)

第2位 コンテンツ(コピーや文章)の作成(22.8%)

第3位 会議の議事録、動画の要約の作成 (21.3%)

このデータには「今回の調査では、業務に生成AIを使っていると回答した人は136名と限られたサンプル数となっており」という注意書きが添えられているものの、ChatGPTの使い方としてきわめて一般的な内容だと思います。

実際にトライツでもセミナー資料や研修資料の企画に、事例の叩き台づくり、そしてこのブログのタイトル案のアイデア出しなどで生成AIを活用しています。

アメリカでは84%の企業が生成AIを活用

ここまでご紹介した日本の営業部門での生成AIの活用状況に対し海外ではどうなっているのか、アメリカでの利用状況を続けて見ていきましょう。

ご紹介するのはSalesLoft社が、先ほどの日本の調査とまったく同じ時期(2023年5月下旬~6月上旬)に実施した「2023 State of AI in Sales Survey」。ちなみに、SalesLoft社は見込客管理やCRM、営業Eメールの自動作成・自動送信などのB2B営業向けプラットフォームを開発・販売している企業ですので、先ほどのHubSpot社と非常に近い位置づけです。

それでは、データを見てみましょう。

84%の企業が、この1年の間に営業で生成AIを活用したと回答。

うち、21%が全ての営業部門で導入したと回答。26%が部分的に導入。22%は個人がその場限りでの利用と回答。

ということで、ほとんどの企業で利用されており、約半数(21%+26%=47%)の企業では組織として正式に導入しているようです。

AI活用に高い期待を寄せているアメリカの営業部門

ちなみにAIに期待していることについてのデータはこちらです。

調査対象となった経営幹部の3割(29%)が、社内会議や、データ入力やCRMの更新といった管理業務がチームの時間の大半を占めていると回答している。

回答者の89%は、AIが定型的で反復的な作業を代行することで、売り手がより価値の高い活動に集中できるようになると期待している。

定型的/反復的な事務作業や、管理業務の自動化/代行にAIの価値を見出していることがよくわかります。また、回答者のうちのおよそ9割もの人がAI活用に期待を寄せているということですので、日本の営業部門とはずいぶん温度感が違うように思います。

生成AIの登場前からアメリカの営業部門ではAIツールを有効活用してきた

日米のデータ比較をしようとしたときに、かなりの差が開きそうだとは正直思っていましたが、ここまでの差があったことに驚きました。そこで、その理由になりそうなデータを探していたところ、見つけたのがこちらです。

営業幹部は、AIを営業に活用する最大のメリットを次のように挙げている:

1. 活動に優先順位をつける能力(52%)

2. 営業チームの効率と生産性の向上 (49%)

3. 見込客の生成とその有効(SQL)率の向上(44%)

ここで挙げられているAIのうち、1番目と3番目はChatGPTなどの生成AIではありません。見込客の中から商談化/受注の可能性が高いグループを抽出&優先順位を算出するものや、CRM内の情報に応じてそれぞれの見込客向けの次のアクションを提案してくれるもの、自動でカスタマイズされた営業メールを作成・送信してくれるものといった、生成AI以前からある既存のAI搭載型のデジタルツールのことです。

最初は、「SalesLoft社の商品紹介につなげるためのデータなのだろう」と思いながら見ていたのですが、実はここに日米の生成AIの活用率の差の原因があるのではないかと思い当たったのです。

生成AIが登場する前からアメリカの営業部門ではAIが搭載されたさまざまなツールが使用されていました。ちなみに、「平均的な営業部門で利用されていた営業向けのデジタルツール数は4~5個」というデータが同じレポートの中にあります。それくらい多くのツールを使いながら、「AIが自分たちの仕事で役に立つ」という実感を積み重ねてきた。そのタイミングで生成AIが登場したので、臆することなく前向きに導入・活用できている、ということではないでしょうか。

生成AIの活用率の差の原因は、これまでのデジタル活用での成功体験の差?

このように考えると、「これまでの営業のデジタル化で成功体験を積めていない企業では、生成AIなどの新しいテクノロジーの導入に消極的になってしまう」。そして、「日本の営業部門ではこれまでのデジタル化で成功体験を積めていない割合が高い」という2つの出来事が組み合わさって、生成AIの活用率の差につながっているのではないかと思えるのです。

実際に、営業のデジタル化が遅れていることに課題を感じている営業マネージャーさんの話を聞いたのですが、その企業では以前に意気込んでCRMを導入したものの、入力の手間がかかるしカスタマイズしたものの使い勝手が悪いなど、運用で苦労されていたとのこと。そのような中、主体的に導入・活用を推進していたキーパーソンが異動したことをきっかけに運用が形骸化し、今となっては「ほとんど使われていないCRM」「その代わりに模造して作られたExcelシート」、そして「デジタルツールに対する苦手意識」の3つが残ってしまったそうです。このような組織は結構多いのではないでしょうか。

個のDXで、デジタル活用の成功体験を集めよう

組織として導入したデジタルツールを使ってDXを進めようとしても、なかなか苦労しているのに、その先のAI活用・・・と考えると、難易度が高いと感じてしまう人は少なくないと思います。

しかし、生成AIはSFAやMAなどのデジタルツールと違って、「安価に使える」「専門家じゃなくても使える」「用途が特定されていない」という特徴があり、「個人で使える」というところはExcelとも共通しています。

SFAなどは全員が入力しなければ使えるデータが溜まりません。これを「集団のDX」と呼ぶなら、個人が自分の業務範囲の中で自由に活用することができるChatGPTなどの生成AIは、個人だけでも使える「個のDX」と言えるでしょう。

日本経済新聞社が国内の主要企業約110社に生成AIの利用意向を調査したところ、回答を得られた94社のうち93社が導入を予定もしくは実施しており、2023年中に社員の5割以上がAIを使えるようにする企業が31%あるそうです。日本でも、大手企業を中心に一気に普及する兆しが出てきています。このような記事を読んでいると、生成AIによる「個のDX」が日本企業のDXの突破口となるかも・・・と思えるのです。

「これまでデジタル化に取り組もうとしたけど、結局使えなかった」「うちの組織にデジタルは合わない」と思ってしまっている方も、トライツのブログなどを参考にまずは個人で試してみて、そして「こんなことができるの?!」「面白い!」という体験を少しずつ積み重ねていくことから始めてみてはいかがでしょうか。

個人で試行して成功体験を集めていくことで、AI活用で他の営業よりも一歩先を行く存在になれる可能性が高くなると思うのです。

参考:「2023 State of AI in Sales Survey」(Salesloft, Inc., July 27, 2023)