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現在多くの営業組織でコーチングが導入されています。数年前には「1on1ミーティング」という上司と部下が1対1で定期的に実施する手法が話題になったこともあり、導入・運用する組織がさらに増えたように感じます。

そのコーチングが、ここ1年半のリモートワークの展開・長期化によって、改めて注目を集めています。マネージャーの方々は、仕事上必要なコミュニケーションはリモートでもとれるものの、やはり長期間のリモートワークが続く中でいろいろと気になることがあるのではないでしょうか。

リモートという特殊な環境下でコーチングにどのような機能が期待されているのか、そしてそれを実施する営業マネージャーには何が求められているのか、早速見ていくことにしましょう。

リモート営業コーチングに求める機能①「メンタルヘルスのケア/モチベーション向上」

リモート下での営業コーチングについて取り上げている海外の記事を見ていると、「メンタルヘルスのケア/モチベーション向上」と「スキル習得とパフォーマンス向上」という2つの機能が期待されているようです。

見えないことが多い中、気持ちの面をどうサポートするかということと、育成をどう進めるかということですね。

まずは、1つ目の機能「メンタルヘルスのケア/モチベーション向上」から、見ていきましょう。

海外では長期化しているリモートワークと、業績の急回復による人手不足を原因とする、従業員のメンタルヘルスの悪化が問題視されています。こちらについて端的に記載しているSales & Marketing Management誌の記事「How to Manage Remote Sales Teams in 2021」の一部を紹介します。

今では自宅でも仕事から離れることが困難になっています。業務時間外に上司から送られるメールに返信しないわけにはいかないため、自宅にいながら24時間体制で仕事をしている人もいます。

このような状態では燃え尽き症候群につながる可能性があります。そのため、リーダーはワークライフバランスを推進し、長時間働いているメンバーには休みを取るように指示するなど、仕事と休暇の境界線を設定・管理しなければなりません。

長期化しているリモートワークによる閉塞感や、仕事と日常生活の境目がなくなることによりダラダラと働き続けられてしまう環境。これらは日本の私たちにも共通していますね。営業に限らず、リモートコーチングではメンバーが働きすぎていないかを確認して改善のための手を打つなど、メンタルヘルスに問題がないかをチェックする必要があります。

また、リモートワークの長期化による弊害として、組織への帰属意識の低下や、仕事に対するモチベーションの欠如、メンバー間の信頼関係の悪化などが以前から指摘されています。仕事の分量や労働時間を確認するだけでなく、チームとしての一体感や人間的なつながりを感じてもらい、仕事に対するモチベーションを高めるという大事な機能が期待されているのです。

リモート営業コーチングに求める機能②「スキル習得とパフォーマンス向上」

続けて、2つ目の機能「スキル習得とパフォーマンス向上」について見ていきましょう。

リモートであっても営業メンバー向けのコーチングですから、もちろん営業目標の達成やそのためのスキル習得が大事なテーマだということに変わりはありません。ただし、リモート下の営業で目標達成するために必要なスキルが3つあると、Gartner社の大規模調査レポート「State of Sales Manager Coaching」にあります。

リモート化が進んでいる現在のB2B営業で成果を出すためには、必要とされている新しい営業スキルを営業マネージャーが完全に理解している必要があります。(中略)

今日の営業担当者が成功するために必要なコア営業スキルは「リモート顧客関係構築力」「デジタルについての器用さ」「データリテラシー」の3つです。営業マネージャーは従来からの根本的な営業スキルに加えて、これら3つの新しいスキルについて優先順位高くOJTやコーチングを提供しなければなりません。

3つのスキルについて、簡単に補足します。「リモート顧客関係構築力」とは、メールやWeb会議などのリモートの接点を使って顧客との関係性を高めていくスキル。「デジタルについての器用さ」とは、様々なデジタルツールについて体系的に理解しているとか詳細まで熟知しているということではなく、必要なことを要領よく見極めて器用に使いこなすスキルのこと。また、「データリテラシー」とはデータを加工・分析してその意味を読み解くスキルのこと。つまり、リモートで高い成果を出すためには、営業担当者は様々なデジタルツールを器用に使いこなしながら顧客とやり取りし、そのデータを自分でも分析できなければならず、営業マネージャーはこれらのスキルをメンバーが習得・実践できるように指導できる必要がある、というのです。

先ほど紹介した1つ目の機能「メンタルヘルスのケア/モチベーション向上」は、メンバーとの一定程度の関係が作れていれば、定期的に仕事の様子を確認することでクリアできそうですが、この「スキル習得とパフォーマンス向上」ははるかに難しそうです。リモートを活用した商談の進め方についてマネージャー自身が実践・勉強しており、ツール活用やデータ分析についても自ら取り組んで経験を積んでいるからこそ、メンバーからの質問に対して「こうしてみたら?」と的確なアドバイスを返せる。営業マネージャーは自ら手を動かして工夫できる存在でなければなりません。「ITはよく分からないから」などと逃げていてはダメなのです。

コーチングをやっつけ仕事にしないために営業マネージャーの業務役割を見直そう

ただし、リモートでの営業コーチングを実践し定着させようとすると、これまでに見てきたような営業マネージャーのスキルアップに加えて、もう1つ手を付けなければならないことがあります。それは、営業マネージャーの業務役割の見直しと既存業務の効率化です。

営業マネージャーには業績目標の達成以外にも、様々な役割が与えられています。メンバーの育成・評価・勤怠管理。会議体の運営と自らが出席しなければならない多くの会議への参加。社内の各種調査への協力など・・・。リーマンショック以降の内勤スタッフの削減や一般社員に対する「働き方改革」の影響もあって、営業マネージャが「何でも屋」になってしまっていることが少なくありません。

先日ある企業の営業マネージャー向けマニュアルを作成したときに、そこの各営業マネージャーの業務役割と所要工数を棚卸したところ、とても人事部には見せられないような数字が出てきた、ということがありました。

そんな営業マネージャーにとって、営業コーチングは「大事だとわかってはいるものの手が回らないでいる業務」になってしまっているように思います。研修を受けさせた後は現場任せで、四半期ごとの人事向け報告書を作成する直前に形式的にコーチングが行われる、というやっつけ仕事になっていることが少なくありません。

これを改善するには、今の営業マネージャーの業務役割を見直し、コーチングなど本当に重要なものにしっかりと時間を取れるよう、既存業務を効率化することが欠かせません。

例えば、先ほどの会社では既存業務の効率化として、本社主催の各種会議体・イベントの所要時間を合計で半分以下にし、さらに会議用に各人が用意していた報告シートをSFA等のシステムから自動作成させるなど、帳票類の作成にかかっていた膨大な時間を徹底的に削減しました。

「あれもやれ、これもやれ」になりがちな営業マネージャーですが、リモートワークが続く状況でも成果を出しモチベーションを維持・向上させる第一歩は、マネージャーの仕事の中から優先度の高いものを絞り込んで、それを確実に実施できるような環境作りから始まると思います。

参考:
How to Manage Remote Sales Teams in 2021」(David Fletcher, Sales & Marketing Management, July 26, 2021)
Coaching for Stronger Virtual Teams」(William Rothwell, Sales & Marketing Management, July 26, 2021)
Creating a Coachable Culture」(Paul Nolan, Sales & Marketing Management, July 26, 2021)
「State of Sales Manager Coaching」(Gartner, 2021)