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2021年の2月も下旬になりました。思い返せば安倍首相(当時)が全国の小中高校に3月頭からの臨時休校を要請したのが、1年前の2月27日。それと前後して在宅勤務がスタートしたという方も多いのではないでしょうか。この一年間で私たちの暮らしや、働き方、そして営業・購買のあり方が大きく変化しました。

そして、変化は各団体・企業によるブログ記事や調査レポートにも及びました。
このトライツブログを作成するために、国内・海外のB2B営業・マーケティングに関する記事を常にウォッチしているのですが、この一年間は「The Future of Sales」というタイトルの記事が非常に多かったです。例年ですと年末年始でしか見ることのない季節の風物詩だったのですが、新型コロナの影響で世界の各都市で緊急事態宣言や外出制限が発せられて以降は、一年中「The Future of Sales」というタイトルの記事が発表されていたように思います。

このように多くの人が書いてきて、そして読んできた「未来の営業」。新型コロナが本格化して約一年経ち、考察の「質」と「範囲」と「確からしさ」で評価してほぼ決定版だと思える記事をようやく見つけましたので、ご紹介します。B2B営業の未来はどのようなものなのか、一緒に見ていきましょう。

海外調査レポート「未来の営業」

今回ご紹介する記事「The Future of Sales」は、世界トップクラスの調査会社Forrester社の取締役である、デイブ・ボイス氏のLinkedInでの投稿です。ボイス氏は顧客接点の統合システムを開発・販売しているXANT社の最高戦略責任者も務めています。XANT社は2年前にInsideSales.com社が改称したもの。旧社名ならご存知だという方もいらっしゃるかもしれません。Forrester社の客観的なデータと、XANT社のシステムの導入・活用状況という生身の情報とを組み合わせてB2B営業の変化を描いた、とても興味深い記事になっています。早速、記事の中身に入りましょう。

営業がかつての姿に決して戻らない2つの理由

営業がかつての姿に戻ることは、決してありません。

1年以上続いているこのパンデミック後も、客先を訪問して商談するフィールド型の営業に戻ることは決してない、と記事の冒頭で断言しています。この1年間で営業・購買に起こった変化が今後も継続し続ける、2つの理由があるとボイス氏は述べています。まずは、1つ目の理由「デジタルネイティブ主体の購買活動になっている」についてです。

現在、デジタルネイティブ世代が購買活動をおこなっています。(中略)40代前半から30代のミレニアル世代はデジタルツールの活用に馴染んでおり、インターネット上で必要な情報を見つけることを希望しています。それに対応するために、多くの企業が製品に関連する情報をインターネット上で公開していますし、自社で情報を公開していない場合は、レビューサイトや一般の利用者によるレビューやおススメなどによって、足りない情報が補われるようになっています。

そして、2つ目の理由は「リモート購買がすべての顧客から望まれている」というものです。

対面で商談をする時代は過去のものとなりました。リモートでのWeb会議でほぼすべての業務が行われるようになっており、営業担当者との面談もリモートでおこなわれています。Web会議なら資料を直接渡さずに画面を共有するだけで済みますし、購買に関係する大勢の人たちを一か所に集める必要がありません。通話録音、自動でのテキスト化や要約作成などの機能によって、Web会議は対面での会議よりもスピーディで便利で、効果的なものになっています。
営業担当者は直接会って商談したいと思っているかもしれませんが、購買担当者はそれを望んでいないのです。

この2つの永続的な変化があるため、かつての営業に戻ることは決してない、とボイス氏は述べます。では、ボイス氏が考える未来の営業とはどういうものなのでしょうか。

5つのキーワードと未来の営業の具体像

いつ営業がこれまでの姿に戻るのか、が問題なのではありません。営業がかつての姿に戻ることはありません。迅速で、常にオンラインで、顧客中心で、コンテンツが豊富で、テクノロジーを活用する「未来の営業」をいつ受け容れて、どれだけ素早くその営業に進化できるのか、が問題なのです。

この「迅速」「常にオンライン」「顧客中心」「コンテンツが豊富」「テクノロジー活用」の5つは、デジタルネイティブな顧客によるリモート購買を前提とする未来の営業に不可欠なキーワードとして、ボイス氏が記事の中で繰り返し説明しているものです。オンラインで情報収集をおこない、自らで主体的に購買活動を進めていく顧客に対し、営業は顧客中心で購買が進むことを理解した上で、常にオンラインで迅速に顧客対応し、あらかじめ用意しておいた豊富なコンテンツを駆使して顧客が必要とする情報を提供します。そして、テクノロジーを活用することでこれらの業務を自動化・効率化するのです。

記事ではこの5つのキーワードを踏まえた上で、未来の営業が具体的にどういうもので、今までの営業とどう違うのかを対比して紹介しています。

未来の営業とは

  • 対面での営業ではなく、リモート営業
  • それぞれの顧客に合わせた営業プロセスではなく、テクノロジーを最大限に活用する営業プロセス
  • 「どなたでもお声がけください」型の広告宣伝ではなく、ターゲットを絞った広告宣伝
  • 手作業による商談情報の記録ではなく、システムによる商談情報の自動処理
  • 移動や出張しての社内会議ではなく、Web会議システムを使った社内会議
  • 各担当者に任せっきりのセルフマネジメントではなく、顧客接点統合システムを使ったマネジメント
  • 「みんなちゃんとやってるだろう」型のマネジメントではなく、顧客とのコミュニケーションを自動で記録・分析するシステムを使ったマネジメント
  • 自社のプレゼンテーションではなく、顧客と一緒に課題やアイデアを発見するための対話

いくつか分かりにくい項目がありますので、簡単に解説します。

顧客接点統合システム(Sales Engagement Platform:SEP)とは、Web会議やメールなどの顧客接点を連携させるプラットフォームです。会議の予定をスケジュールに登録したり、会議に必要なコンテンツを社内ファイルサーバから集めたり、会議後に自動で作成される要約メモをメールで送ったりと、営業活動に必要なツール・システムを連携・統合するものです。ボイス氏のXANT社の主製品がこのSEPですので、記事の中でも分量を割いて使い方が紹介されています。

また、最後の項目「自社のプレゼンテーションではなく、顧客と一緒に課題やアイデアを発見するための対話」について、補足します。リモート購買する顧客は、営業担当者と話をする前にその会社や製品のことを、WebページやSNS上のコンテンツを見てよく調べています。そのため、営業から仕掛けてアポイントを取った商談の初回でやるような、会社紹介や商品・サービスの説明といったプレゼンテーションは必要ありません。顧客は最初の面談のときから、専門家としてのアドバイスを求めています。それが、ここでいう課題やアイデアを発見する対話なのです。

今までの変化の延長線上に未来の営業がある

「リモート営業」「テクノロジーを最大限活用する営業プロセス」「ターゲットを絞った広告宣伝」「専門家としてのアドバイス/対話」「自動処理で進む業務」「Webでの社内会議」「システムを使った顧客接点マネジメント」。これらのキーワードによって、ボイス氏が考える未来の営業の姿が具体的にイメージできますし、皆さんの営業組織でも、「リモート営業」や「Webでの社内会議」など、すでに実現できている項目が複数あるのではないでしょうか。

このように見ると、未来の営業とは、まさにこの一年間をかけて変化してきた私たちの現在の営業の姿をベースとし、リモート購買する顧客に合わせてさらにコンテンツを充実させ、メールやWeb会議/通話などの顧客接点を中心にさらにテクノロジーを活用するものだということが分かります。記事の中で「もうかつての営業には戻れない」と何回も警告されましたが、実は既に私たちは未来の営業に近いところまで進んできている。今までに取り入れた変化の延長線上に未来の営業がある。この記事を読み終えたときに、筆者からのそのような激励が込められているように、私は感じました。

次回は未来の営業に必要なスキル、プロセス、ツールをご紹介します

今回ご紹介した「The Future of Sales」。コロナが本格化してから約一年経って、ようやく現実的な未来の営業の姿が見えてきたように思います。実は、この記事の後半には未来の営業に必要なスキル、プロセス、ツールについても具体的に紹介されています。こちらも大変面白い内容ですので、次回のトライツブログでご紹介します。ご期待ください。

参考:「The Future of Sales」(Dave Boyce & Chris Harrington, XANT Inc., November 14 2020)