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大型書店のビジネス書のコーナーに行くと、様々な「思考法」「思考力」についての本を見ることができます。代表的なものですと、20年ほど前のMBAブームのころからの定番の「ロジカルシンキング」「論理的思考力」。ここ1~2年で急速に話題になりつつある「アート思考」。そして、10年ほど前からよく見聞きするようになり、また最近になって新刊が増えている「デザイン思考」といったものです。

とりわけ「デザイン思考」のここ数年での普及はすさまじく、昨年だけでデザイン思考に関連する本が23冊も出版されています。その中でも、現在(2021年2月)Amazonで一番売れているのが「世界のトップデザインスクールが教える デザイン思考の授業」(以下、「デザイン思考の授業」)です。平積みしていた書店も多かったので、見たことがある人や手に取ってみた人も多いのではないでしょうか。

今回のトライツブログではこの「デザイン思考の授業」を題材に、デザイン思考とB2B営業での応用法、特にDX人材の育成との関連性について考えてみたいと思います。デザイン思考に興味はあるもののまだ読んだことがない方、営業DX人材の育成についてお考えの方はぜひお読みください。

「デザイン思考」とは

これまでのデザイン思考の本の多くは、IDEOなどの海外のデザインコンサルティング会社に勤めている人が書いた専門的な内容を翻訳したもの、海外のトレンドを紹介しているシンプルなもの、の2種類に大別されることが多かったように思います。一方、今回紹介している「デザイン思考の授業」は、自らアメリカのデザインスクールで学び、現在はデザインファームの代表をしている日本人の著者によるもの。そのため、学術と実業の両方にしっかりとしたバックグラウンドがあり、なおかつ日本人の読者にも読みやすい、という今までにないタイプのデザイン思考本となっています。

そもそも、デザイン思考とはどのようなものなのでしょうか。この本の中で一番シンプルな解説は、カバーの背表紙にあります。

デザイナーの認知活動をビジネスに応用する(中略)創造的な問題解決手法である。

これでデザイン思考は問題解決手法の1つだということが分かりました。では、その前に書いてある「デザイナーの認知活動をビジネスに応用する」とは、どういうことなのでしょうか。これについての分かりやすい解説がP. 35にあります。

ユーザーへの共感から企画のプロセスを始め(ユーザー中心)、ユーザーがどのような体験をするかを五感を使って発想し(ビジュアル思考)、具体化していく(プロトタイピング)手法

この一文の中にデザイン思考の要点がしっかりと詰まっていますので、「ユーザー中心」「ビジュアル思考」「プロトタイピング」という3つのキーワードについて読み解いていくことにしましょう。

「デザイン思考」を理解する3つのキーワード

「ユーザー中心」
デザイン思考では、問題解決のためのインプット情報としてユーザーのリサーチを重要視しています。解説の冒頭にあるユーザー中心とは、様々なタイプのユーザーにヒアリングするなどし、ユーザーがどのような経験をしているのかを理解・共感することを表しています。

「ビジュアル思考」
そして、集めた大量・異質なインプット情報を分析して発想するのですが、ここでのポイントはロジカルに処理するのではなく発想を飛躍させてアイデアを得ることにあります。その方法として「五感を使う」「ビジュアル思考」などがキーワードとして挙げられています。本の中盤では、発想を飛躍させてアイデアを手に入れるための切り口や手法として、KJ法やブレインストーミングなど、一般的に馴染みのある手法を紹介していますので、ご一読をお勧めします。

「プロトタイピング」
上で手に入れたアイデアを具体化するのが、次の「プロトタイピング」です。デザインコンサルティング会社の本では、このプロトタイピングの例として実際の買い物カートを設計したり、身近な素材を組み合わせて模型を作ったりという話が出てくることが多く、読んでいて「こんなことできないよ」と思ってしまいがちなのですが、この本は違います。「アイデアを凝縮してシンプルに表現する」「アイデアを身近なものでたとえる」「物語で表現する」「資料以外の体験の仕方を工夫する」といった、普通のビジネスパーソンでも手軽にできそうなプロトタイピングのやり方を紹介してくれています。

3つのキーワードについて簡単にご紹介しましたが、いかがでしょうか。私がこの本を読んで思ったのは、「意外とデザイン思考って大変じゃないのかも」「自分にもできそうだ」というもの。デザイン思考に対して多くの人が抱きがちな「デザインとかアートとかよく分からないし…」「センスあるって言われたことないし…」といった気後れを解消し、「自分にもできそうだ」と思えるようになる、というのがこの本の最大の魅力なのだと感じました。

営業DXにおける問題解決に役立つデザイン思考

ここまで問題解決手法の1つである「デザイン思考」について見てきましたが、「B2B営業にデザイン思考って必要なの?」「実際のところは使い道がないんじゃないの?」とお思いの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、現在私たちが直面している営業DXを推進する上で、このデザイン思考は従来のロジカルシンキング以上に有用だと、私は考えます。

ロジカルシンキングを一言でいうと、抜け漏れなく正しい手順で試行することで問題の正解を導く思考法です。問題を定義し、評価基準を定め、最適な選択肢を決定し、リスクを想定して対策を検討します。この思考法が役に立つ条件は「正解となる選択肢を自分で発想できる」ということにあります。そのため、現行業務の改善などある程度の知見を自分たちが持っているような問題に対しては、非常に効果的です。

しかし、現在B2B営業に起きている「顧客の購買プロセスのWeb化」という大きな問題や、それに伴う「顧客のオンラインでの購買活動の促進」「営業担当者の役割・提供価値の見直し」「オンラインを起点とする顧客接点の開拓」といったテーマについて、残念ながら営業メンバーが過去の経験から正解を見出すのは困難です。この問題に対応し、営業DXを実現する問題解決手法として、ロジカルシンキングだけでは不十分なのです。

デザイン思考が営業DXに役立つ2つの理由

そこで役に立つのが「デザイン思考」です。顧客の購買プロセスがどのように変化していて、営業担当者に何を求めているのかを知るためには、「ユーザー中心」の考え方に基づく大量・多様なユーザーリサーチが不可欠。そして、そのようなインプット情報に対して、ロジカルに手順通りに考えるだけでなく、「ビジュアル思考」で発想を飛躍させることも必要になるでしょう。また、Webサイトの見直しやSNS活用、動画などの新規コンテンツ制作などについては、「プロトタイピング」で手間やコストをかけずにさっさと試作・試行しなければ、変化に迅速に対応する顧客や競合に置いて行かれてしまいます。このように考えると、営業DXを推進する人材にとって、デザイン思考を身に付け仕事の中で活用することの必要性は高いと言えるでしょう。これが1つ目の理由です。

私がデザイン思考を営業DXに有用だと考えるのには、もう1つ理由があります。それは、デザイン思考はとりわけ営業部門との親和性が高いということです。

購買活動のWeb化が進んでいるとは言え、まだ多くの顧客の購買担当者にとって自社の営業担当者は近しい存在です。購買活動のうちどの部分がWeb化しつつあるのか、そこで困っていることは何か、顧客から詳しく話を聞かせてもらい、一緒に解決策のアイデアを出して、プロトタイプの作成・検証において顧客と協働する、といったことは営業部門だからこそ可能です。デザイン思考を活用すれば、顧客と一緒に「顧客にとって快適で」かつ「自社の価値を再認識してもらえる」新しい購買プロセスを創造することも、不可能ではないと思います。

「デザイン思考」について学ぼう

現在急速に普及しつつある「デザイン思考」。それは決して普通のビジネスパーソンにとって、ハードルが高いものではありません。そしてそれだけでなく、現在私たちが直面している営業DXに取り組むのに不可欠な問題解決手法でもあるのです。営業DXを推進する人材の育成の第一歩として、まずは今回ご紹介した「デザイン思考の授業」を読んでみることから始めてみてはいかがでしょうか。

トライツコンサルティングでは、デザイン思考を活用した営業DXの推進サポートと、それに携わる人材育成を支援しています。「デザイン思考を取り入れて営業DXを進めたい」「営業DXを推進する人材を育成したい」とお考えの方はぜひご相談ください。

参考:「世界のトップデザインスクールが教える デザイン思考の授業」(佐宗邦威著、2020年12月、日本経済新聞出版)