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2021年がスタートしました。今年がどのような一年になるか、年末年始にかけて新聞や雑誌、テレビ番組などで様々な特集が組まれてきましたので、ご覧になった方も多いのではないでしょうか。

私もいくつか経済紙などの予測を読んだのですが、各紙に共通する2021年の傾向は「ワクチンの普及次第ではあるが、コロナから立ち直る回復の一年だ」というもの。感染拡大の防止と社会経済活動の両立で悩ましい毎日ではありますが、回復の時を期待して前向きにこの2021年を過ごしたいものです。

さて、今回のトライツブログは、2021年のB2B営業についての興味深い予測記事をご紹介します。コロナの影響で2020年に一変したB2B営業は2021年にどのようになるのか、早速見ていくことにしましょう。

海外レポート:購買・営業のオンライン化が継続する2021年を予測する

「2021年のB2B営業はどうなるのか」
このテーマで海外の各調査機関やB2B営業/マーケティングの専門誌を調べてみたのですが、どの記事も一様に「2020年に起こった購買・営業活動のオンライン化が継続する」というものばかりでした。2020年の5月にマイクロソフトのCEOであるサティア・ナディラ氏が述べたように「この 2 ヶ月で 2 年分に匹敵するほどのデジタルトランスフォーメーションが起こった」ため、その2年分の変化に対応するだけで手いっぱいだというのです。

そのような中、Sales & Marketing Management誌で、B2B営業に関連する実業家で複数の著書を出しているトム・ピゼッロ氏の記事「Making Sales in 2021 and Beyond」を見つけました。2020年に起こった購買・営業活動のオンライン化が継続することを前提とした上で、さらにどのような変化が起きるのかまで踏み込んだ予測をしていますので、ポイントを抜粋しながらご紹介していきます。

2020年のB2B営業では、各国政府の規制やソーシャルディスタンスによって、対面でのやり取りが減少しオンラインでの営業活動が伸びました。複数の調査レポートでは75%以上の購買担当者がオンラインでのやり取りを好んでおり、対面での営業を好むのは20%だけだというデータが明らかになっています。そのため、オンラインでの営業活動は今後も定着・継続することでしょう。

ピゼッロ氏の記事は、オンラインでの購買・営業活動が2021年以降も定着・継続する、という大前提からスタートしています。日経ビジネスが2020年8月に実施した「新型コロナウイルス感染拡大に伴う働き方の変化に関する調査」でも、75%以上のビジネスパーソンがコロナ収束後もリモートワークの継続を希望しているというデータが出ており、企業の購買活動および営業活動のオンライン化は、世界中で当たり前のものになりそうです。

ピゼッロ氏はこの購買活動および営業活動のオンライン化の定着・継続によって、B2B営業にいくつかの大きな変化がさらに起きると述べています。1つ目の予測は、私たちにとって身近なPowerPointについてのものです。

予測1:伝統的な営業ツールPowerPointの終わり

PowerPointは広く使われている営業ツールではありますが、それ単体ではオンラインはもちろんのこと、対面でも効果はありません。2021年となり、パーソナライズされた会話やインタラクティブなコンテンツに対する顧客のニーズはこれまでにないほど高まっています。このニーズに対応するためには、100ページものPowerPoint資料は捨てて、もっと見た目に分かりやすくシンプルでインタラクティブなものにし、顧客が自らの課題に基づいて読みたいストーリーを選べるようにすることが必要です。

「パーソナライズでインタラクティブな営業ツールが必要だ」「そのために動画をもっと活用しよう」という記事は多いのですが、この予測はそれに対応できない旧式のツールとしてのPowerPointが不要になるというところまで踏み込んでいます。PowerPointに限らず、今使ってる営業ツールは顧客に合わせてパーソナライズできるものか、インタラクティブなやり取りを生むツールになっているか、という観点から見直すことが大事でしょう。

予測2:マーケティングと営業の連携をより緊密にしないと顧客に嫌われる

2つ目の予測は顧客の購買活動がオンライン化したことによる、マーケティングと営業の関連性についてのものです。

顧客の購買活動がオンライン化し続けるため、マーケティング担当者と営業担当者はより緊密に連携する必要があります。(中略)マーケティングと営業が連携せずにばらばらになっていると、顧客はマーケティングと営業の断裂や引継の問題、コミュニケーションのトラブルなどに直面してしまうことでしょう。

この2つ目の予測の内容を理解するために少し補足します。Web広告などを使って見込客を自社Webサイトなどに引き寄せ、Webコンテンツなどによって育成する(ナーチャリング)まではマーケティングの役割、育成された見込客に会って商談化し受注するまでは営業の役割、という分業型の営業体制が海外では主流ですし、日本企業でもここ数年で増えてきています。これに対してマーケティングと営業の分業による引継不足やコミュニケーションロスといった問題は以前から指摘されており、その連携は以前から大きなテーマでした。ピゼッロ氏の指摘は、顧客の購買活動がすべてオンライン化するようになると、オンラインでの購買の途中でマーケティングから営業に引き継がれることによる違和感がより強くなるので、今まで以上に連携を強化するべきだというものです。

ではもうマーケティングと営業を統合してしまえば?とも思うのですが、この記事ではそこまでは語られていません。やはりオンラインであっても、最後は顧客と営業が直接コミュニケーションをとり、話をまとめたり、相手を動かしたりしていく必要があるようです。ただそこで情報の連携が上手くできていなかったりすると、目の前に営業が座っているのと異なり、画面の向こう側にいる顧客は簡単にストレスを感じてしまうので要注意ということだと思います。

予測3:オンライン化する顧客の購買活動を後押しする「簡素化」と「財務的正当性」

3つめの予測は、顧客のオンラインでの意思決定を支援するための2つのキーワード「簡素化」と「財務的正当性」の重要性についてです。

顧客はストレスを感じると、現状維持のバイアスが高まります。(中略)パンデミック以前は、企業は多数の異なるオプションを顧客に提示して選ばせることができていました。しかし、2021年以降の企業は顧客に示すオプションを簡素化し、顧客の購買プロセスを難しいものではなく分かりやすいものへと変えなければなりません。

売り手はビジネス上の価値と財務的な正当性を、早期かつ頻繁に顧客に提供する必要があります。顧客が予算を削減したり、支出を凍結したりしているような場合には、財務上の正当性に目を向けさせなければなりません。(中略)売り手が提案するソリューションがどのように顧客のコスト削減や効率化、リスク低減、ビジネスの成長に貢献するのかを定量的に示して伝えることが不可欠なのです。

顧客の購買活動がオンライン化することにより、営業の役割が「商談を通じて顧客をリードすること」から「顧客の購買プロセスを後押しすること」へと、変わりつつあります。上記の「簡素化」と「財務的正当性」は、オンライン化している顧客の購買活動を後押しするキーワードとして、覚えておく価値があると私は思います。

このピゼッロ氏は「財務的正当性」に関するテーマで、複数の本を書いています。氏は著書の中で、顧客がWeb等を通じて様々な情報にアクセスでき、財務的な正当性を確かめた上でないと購買しなくなっている現代の状況を「Fruganomics」(フルーガノミクス:Frugal(倹約的)とEconomics(経済)を組み合わせた造語)と呼んでいます。このFrugalという言葉はケチん坊や吝嗇家というよりも、合理的に計算して無駄なものを買わないというニュアンスがあります。つまり、顧客がより多くの情報にアクセスできるようになり、合理的・定量的にシビアな判断をするようになっているので、それをサポートする情報提供をしようというのが、この「財務的正当性」の話なのです。

2021年をB2B購買・営業のオンライン化が次のステージへ進む「前進の一年」に

ここまで、2021年のB2B営業に起こる変化として、「非パーソナライズで非インタラクティブなPowerPointの終焉」、「マーケティングと営業の連携をより緊密にしないと顧客に嫌われる」、「顧客のオンラインでの意思決定を支援するための『簡素化』と『財務的正当性』の重視」という3つの予測をご紹介してきました。これら3つの変化が本当に起こるのかということも気になりますが、私がこの記事を読んで思ったのは、「B2Bの購買・営業活動のオンライン化は次のステージに進もうとしている」ということです。

2020年の緊急事態宣言の発出により、半ば強制的に購買・営業活動のオンライン化が加速させられました。Zoomなどを使ってリモートで商談するようになり、社内のやり取りもTeamsやSlackなどに置き換えられ、私の周りを見ていると程度の差こそあれどすべての企業がオンライン化に適応することができています。

しかし、今回ご紹介した記事で予測されている3つの変化は、単にオンライン化に適応するためのものではありません。購買・営業活動のオンライン化を前提として、それを維持・継続して成果を出せるように「営業ツール」「組織体制」「顧客との関わり方」という営業活動のインフラやプロセス自体に手を入れなければならない、そして、これらを再設計できる人材を組織内で育成しなければならない、ということを意味しているのです。

そのように今回の記事を解釈すると、B2B営業にとっての2021年は元に戻る「回復の一年」と言うよりも、今の状態を維持・継続した上で成果を出すために次のステージへと進む「前進の一年」と捉えるべきだと私は思うのです。

1月から新年度を迎えている会社の方も、4月に新年度を迎える会社の方も、この2021年を購買・営業のオンライン化に適応するだけでなく、これを維持・継続した上で成果を出すために何が必要なのか、営業ツールや組織体制、営業のプロセスを見直して再設計する一年に、そしてそのようなことができる人材を育成する一年にしてはいかがでしょうか。
今年のトライツブログでも、これら営業のデジタルトランスフォーメーション、およびそれを実現する人材育成について情報収集・発信していきますので、どうぞご期待ください。

参考:「Making Sales in 2021 and Beyond」(Mediafly, Chief Evangelist Tom Pisello, December 21, 2020)