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2019年にB2B営業・マーケティングの分野でメガヒットした書籍が出版されました。オラクルやセールスフォース・ドットコムに勤め、マルケトの代表取締役社長であった福田氏による「THE MODEL」で、発売から1年半が経過した今でも、Amazonの「セールス・営業」の売れ筋ランキング1位となっています。この本の中では、マーケティング・営業の段階ごとに役割・部門を分けて活動することと、そのために情報を可視化・共有することの重要性が書かれています。

実際にこの本を参考にして、営業組織を
・Webサイトに来た顧客などにメールや電話でコンタクトして商談化させるインサイドセールス
・対面での営業活動を通じて商談を受注するフィールドセールス
・受注した顧客をサポートし継続/拡大受注を目指すカスタマーサクセス
などに分業化した、またはそれを検討したという企業がたくさんあったようです。

しかし、今や新型コロナウィルスによりビジネス環境は大きく変化しており、それはこの分業型のB2B営業モデルにおいても同じです。そこで今回は、コロナの影響で分業型のB2B営業モデルにどのような変化が起きているのか、その変化に対応するために営業担当者一人ひとりに何が求められているのかについて、海外の調査レポートを題材に考えてみたいと思います。

「THE MODEL」を読んで分業型の営業モデルに興味があった方も、初めて知ったという方にも参考になる内容ですので、ぜひお読みください。

海外調査レポートから見る顧客の意識の変化

今回ご紹介する調査レポートは、世界でも屈指の調査会社であるForrester Research, Inc.が2020年8月に発表した「The Democratization Of B2B Sales」です。コロナの影響により企業の購買活動がどのように変化しているのか、それに対応するためにB2B営業には何が必要なのかについて書かれています。15ページほどの薄いレポートではあるのですが、中に文字がびっしりと書かれていて全部に目を通すのは大変なので、その中でも特に力を入れて書かれている分業型の営業モデルに関する部分だけ、抜き出してご紹介します。

レポートでは、対面での商談および分業型の営業モデルに対する顧客の意識の変化について、取り上げています。

2017年の早い時期に実施した調査では、企業の購買担当者の5人に1人が営業担当者と直接会いたくないと答えていましたが、2020年5月の調査では、38%の回答者が対面での商談の価値が相対的に低下していると答えています。ホワイトカラーの従業員の多くが在宅勤務となり、飛行機の路線や便数が削減され、二酸化炭素の排出抑制により自動車での移動も規制され、顧客企業のオフィスを訪れる際の手続が煩雑なものとなっていることから、対面での商談は特別な時だけに行われる例外的なものとなるでしょう。

細分化された営業モデルは顧客の期待に応えられるものではありません。コロナの影響で購買にかかる期間が長くなり、社内の関係者が増えていることから、顧客の購買担当者は、さらなる利便性の向上、短期間化、自分たちの好みに応じたチャネル選択の柔軟性を求めています。B2Cでの購買体験がB2Bにも広がりつつあり、B2Bの購買担当者もこれまでの購買チャネルよりも利便性の高い購買体験に価値を感じるようになっているのです。

調査レポート:インサイドセールスとフィールドセールスの境界があいまいに

このような顧客側の変化によって、これまで海外では主流だった分業型の営業モデルに大きな変化が訪れているというのです。

インサイドセールスとフィールドセールスの境界線があいまいになっています。すべての営業担当者の活動がますますデジタル化しています。(中略)フィールドセールスもインサイドセールスも同様に、デジタルチャネルで顧客に対応し、顧客との関係をもとに新規の商談を獲得しています。B2B組織においては営業担当者も購買担当者もデジタルツールによって支援されており、営業担当者がインサイドなのかアウトサイド(フィールド)なのかの区別は、もはや重要ではなくなりつつあります。

調査レポート:今求められている「営業のオムニチャネル化」

結論として、インサイドセールスとフィールドセールスに分業化されていたものが再び1つのものになろうとしている現在、営業モデルについて改めて設計しなおす必要がある、とレポートでは述べています。

インサイドセールスとフィールドセールスの区別が無意味になった現在、無意味な分業を取りやめてすべての営業担当者を1つのものとして考えるべきです。今日では、すべての営業担当者が動画を作成し、ソーシャルメディアを活用し、顧客と協働して解決策を共創できるようになる必要があります。
(中略)顧客に共感的に接してくれて、テーラーメイドで対応してくれ、リアルとデジタルの両方を使うオムニチャネルで対応してほしい、という顧客からの期待に営業担当者が応えられるように、スキルアップへの投資をしなければなりません。

このようにレポートでは、営業の分業化を今すぐやめて「オムニチャネル化」する必要があると述べています。オムニチャネルとは「リアル・デジタルの区別なくあらゆる経路(チャネル)を統合・連携させて顧客との接点をつくり、購入の経路を意識させないようにすること」。

つまり、このレポートでは、今までの「インサイドセールスとフィールドセールスの分業」から「フィールドセールスにインサイドセールスとしての機能・活動を追加してリアル・デジタルの区別をなくす」という、さらに難易度の高い営業が求められる時代になっていることを示しているのです。

マーケティングを含めた営業活動全般のオムニチャネル化が不可避のテーマに

このレポートを踏まえて、皆さんの顧客および営業組織を見直してみてください。

東京や大阪などの都市圏にある企業では、依然として出社制限が続いており、多くの顧客が在宅でも仕事をしています。そのため、営業担当者もZoomやTeamsなどのWeb会議システムを使って顧客対応することに慣れてきていることでしょう。商談への対応というフィールドセールスが担当する業務についてはデジタル化ができていると言えます。

これに対し、多くの展示会が中止になっていますし、各企業が会議施設を使って開催していた個別セミナーも、一部はオンラインで開催されていますが、その多くは中止に追いやられています。商談や顧客を発掘するマーケティングというインサイドセールスが担当する業務においては、デジタル活用について模索はしているものの、コロナ前と同等のパフォーマンスを上げるに至っていない営業組織が多いように感じます。

そのような状況を踏まえて、再度Forrester社のレポートを読み返すと、インサイドセールスとフィールドセールスという分け隔てなく、営業組織としていかにデジタルチャネルでのマーケティングに取り組むのか、そのために営業に必要なスキルが何なのかを示唆してくれているように私は思います。

皆さんの営業組織は、具体化した商談への対応だけでなく、マーケティングにおいてもオムニチャネル化しているでしょうか。デジタルチャネルで見込客に働きかけ、商談や顧客を発掘することができているでしょうか。コロナの影響でリモートワークが進み、デジタルチャネルで人とコミュニケーションすることが当たり前になっている現在では、マーケティングを含めた営業活動全般のオムニチャネル化というテーマは、避けては通れないものになっているのです。

トライツコンサルティングは、営業活動・マーケティング活動のオムニチャネル化と、そのための業務プロセスの設計や人材育成・スキル強化を支援しています。「デジタルチャネルを使って商談や顧客を発掘できるようになりたい」「そのために営業担当者に必要なスキルを見直して、それを身に付けさせるプログラムを開発したい」とお考えの方はぜひご相談ください。

参考:「The Democratization Of B2B Sales」(Forrester Research, Inc., August 3, 2020)