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コロナ禍でリモートワークが広がり定着しつつある中で、メンバー一人ひとりとのつながりを維持し、業務面/精神面の両面でのケアができるコーチングに、改めて注目が集まっています。マッキンゼー・アンド・カンパニー社が7月1日に公開した記事「Five actions to boost your sales organization’s resilience」でも、「営業担当者がスピーディーにリモートでの営業方法を学習し実行できるようにするため」と「在宅勤務で孤立し疎外感を感じている従業員にコミットメントを示すため」という2つの目的で、営業マネージャーによるコーチングの必要性を訴えています。
ところが、実際に営業マネージャーやリーダーの方と話をしていると、「以前に研修は受けたがそれっきり」「具体的にどうやって進めたらよいか分からない」といった声をよく耳にします。皆さんコーチングの概要やその必要性についてはよく理解されているものの、具体的にどのようなアプローチで進めたらよいか悩んでいるようなのです。
そのような中、「B2B営業における営業コーチングのアプローチ」について分かりやすくまとまっている記事を見つけましたので、トライツでの実践例も併せてご紹介したいと思います。
海外記事「究極の営業コーチング・プレイブック」
今回ご紹介するのは、B2B営業分野における一大イベント「Sales 3.0 Conference」「Sales 3.0 Leadership Summit」を主催するSales 3.0 Conference社への寄稿記事「The Ultimate Sales Coaching Playbook: How to Help Reps Become MVPs(究極の営業コーチング・プレイブック:担当者がMVPになるのを支援する方法)」です。
どうしても「コーチング」と言うと、「研修もやったのだから取り合えずやってみて」となり、どうしたら良いのか分からずに活用されずじまいになりがちです。この記事が素晴らしいのは、営業分野のコーチングを3つのアプローチに分類して、アプローチごとに何をするかを具体化し、わかりやすくしていることです。
3つのアプローチとは、
・日々の数字を達成するための「パフォーマンスコーチング」
・担当者の能力向上のための「スキルコーチング」
・2つを組み合わせて中長期的なキャリアを形成していくための「1on1コーチング」
それぞれを具体的に見ていきましょう。
アプローチ①「パフォーマンスコーチング」
パフォーマンスコーチングでは、日々の営業活動を改善したり受注を獲得したりするのに必要な知識・ツールを提供し、効率化を支援します。
まず、1つ目の予算達成や受注獲得などの目標達成に焦点を当てる「パフォーマンスコーチング」ですが、記事では続けてその進め方を簡単に解説しています。
最初に、営業担当者の商談の全体像と受注までのプロセスを確認してください。それによって、どこで彼らが苦労していて、どのような支援が必要かが明確になるでしょう。優れたコーチはオープンな会話を通じて、担当者が直面している障害物や課題を明確にします。
目標達成することに焦点を絞り、進めることがポイントのようです。
アプローチ②「スキルコーチング」
スキルコーチングは、対人スキルや戦術スキルといった担当者の能力に焦点を当て、それを最大限に引き出したり新しいスキルを習得したりするのを支援します。
2つ目の短期的な育成の観点からスキルの習得/開発に焦点を当てる「スキルコーチング」については、B2B営業におけるスキルコーチングの対象スキルの例を3つ紹介しています。
「効果的なメッセージ」優れた営業担当者はストーリーを用いて信頼できる人物であることを示すのに長けています。そうなれるよう、様々な顧客に対して最適なメッセージを伝える方法を学ぶ必要があります。
「新規商談の発掘」営業担当者は顧客との関係性を分析し、アップセルやクロスセルの可能性を見つけなくてはなりません。担当者がより創造的になり、効率的に顧客を調査できるようになり、商談のパイプラインをいっぱいにできるようなツールを提供しましょう。
「効率的な商談予測」正確に商談の結論を予測できるようになることは、営業担当者にとって非常に重要な役割です。商談のコンバージョン率や商談期間などを正しく理解させましょう。
明らかに視点が変わっていますね。目の前の数字の達成ではなく、営業担当者の育成視点からアプローチしています。
アプローチ③「1on1コーチング」
一対一のコーチングは、担当者の継続的な成長や関係性の構築などに関するものです。一貫性があって信頼される関係をはぐくむために、パフォーマンスコーチングとスキルコーチングを組み合わせて行います。
そして3つ目は、中長期的なキャリア開発のための「1on1コーチング」です。このアプローチの特徴は、「週1回30分」などのように定期的にコーチングの場を設けることにあります。記事では、その特徴によってどのようなメリットが生じるかを詳しく説明しています。
1on1コーチングは、実施頻度と1回当たりの時間が一定なので、担当者は支援されていると常に感じられます。優れた1on1コーチングは担当者の声を聴き、心理的な安心感を示す最善の方法でもあります。また、担当者の最大の支援者であり続けることが重要です。それによって、彼らが課題を克服し、自らのスキルを開発し、キャリアを成長させるのを、あなたが献身的に支援している様子を示すことができるのです。
このように、B2B営業において担当者の成長を後押しできるテーマとして「目標達成」「スキル習得」「キャリア開発」の3つを明確にすることによって、個々の担当者とのコーチングで何をテーマにするかを考えやすくなることに、この記事の大きな価値があります。
そして、このことから派生させると、1つのテーマでコーチングをして上手くいかない場合は、別のテーマを使ってアプローチし直せば良いのではないか、というアイデアも出てきます。最近、まさにそのような出来事が起こりましたので、続けてご紹介します。
トライツ取組事例:1on1コーチングをきっかけに担当者のスキルアップを後押しする
つい先日、各営業担当者のスキルアップについて悩んでいる営業マネージャーから相談を受けました。各担当者とも自分のスキル課題について認識はしているが、日々の業務の中で同じようなことを繰り返し指摘されることが続いていて、成長する様子が見えないというのです。そのマネージャーと2時間ほど話をした結果、各担当者とは目標管理面談を半期ごとに行っており、個別の商談を通じてスキル習得に向けた指導をしているものの、長期的なキャリアという観点での話をしていないということが分かりました。
そこで、トライツがその部署の全営業担当者に対して、「将来の目指す姿」「そのために伸ばしたいスキル・経験」「そのスキル・経験を今の仕事でどのように獲得するか」を言語化する1on1コーチングを実施しました。その結果、将来の目指す姿を言語化できたほとんどの担当者で、ミスを指摘される回数が減ったというのです。数も少なく、他の条件を一定にすることもできないため正確に検証することはできませんが、1on1コーチングの中で日常の業務よりも一段レベルの高い目標を担当者が自ら設定したことで、自分の業務のクオリティについてより意識するようになり、その結果としてスキルアップが後押しされたということのように私は思います。
このように、コーチングでは1つめのアプローチで進めたものの行き詰ってしまった場合に、別のアプローチを試すことでブレークスルーすることがあります。「3つのアプローチ」は、そのような場合に私たちが陥ったとしても、別のアプローチがあることを教えてくれるものだとも捉えられるのです。
営業コーチングの第一歩は3つのアプローチについて話をすることから
コーチングを一言で言うならば、「対話を通じて相手が自ら成長できるように支援すること」です。そして、営業という分野においては、担当者は「目標を達成する」「業務に必要なスキルを身につける」「今の仕事を通じて将来のキャリアを形成する」という、3つの成長に至るアプローチがあります。相手の成長を支援するために、どのアプローチに焦点を当てるのかを考え、それについて担当者と話し合うこと。それが営業コーチングを始める第一歩だと思います。
トライツコンサルティングは、テレワーク時代の営業改革の一環として、コーチングを活用した営業人材の育成を支援しています。「営業担当者が自律的に成長できるように促したい」「部下育成のためのマネージャーのコーチング力を高めたい」という方はぜひご相談ください。
参考:
「Five actions to boost your sales organization’s resilience」(McKinsey & Company, July 1, 2020)
「The Ultimate Sales Coaching Playbook: How to Help Reps Become MVPs」(Lessonly, June 4, 2020)