トライツコンサルティング株式会社

温故知新。今改めて『営業革新システムの実際』を読んでみる

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「温故知新」という言葉があります。「故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る」と読み、昔のことや過去の事柄を研究して現在の事柄に対処することを意味する言葉ですが、過去の書物を紐解くときにもよく使われます。

古典や名著には時代を超えて教えてくれる何かがありますが、それはビジネス本でも変わりません。SFAやCRMのような日々新しい技術が導入されている、ビジネスの中でも変化の激しい分野であっても同じです。時代が変われど、大事なことというのはそうそう変わるものではないからです。

今回のトライツブログでは、B2B営業・マーケティングの中でも変化の激しいSFA/CRM分野での古典(?)を温ねてみたいと思います。

タイムスリップ?2016年のセミナーでも話されているのは20年前と同じこと

9月21日に東京・大手町の日経ホールにて開催されました、日経BizGateセミナー「顧客管理を強化し売上を向上させる方法とは」に弊社角川が登壇し、「顧客の購買プロセスを促進させるSFA/CRM活用とは」というテーマでお話しいたしました。

このセミナーではトライツコンサルティング以外にも、富士ゼロックス総合教育研究所やソフトブレーン、マイクロソフトといったSFA/CRM業界での重鎮企業や、名刺管理サービスのSansanのように新たな商品・サービスを担いでSFA/CRM業界に売って出る気鋭の企業が講演し、SFAシステムの展開・定着のために大事なことや、実際にSFAを核にした全社的な営業改善の取り組み例などについて話をされていました。

角川の講演は最後のセクションでしたので、それまでに各社の講演を聞いていたのですが、とても面白かったです。何が面白かったのかというと、クラウドシステムやスマホなど世の中の技術はもの凄い勢いで進化を遂げているのに対し、SFAやCRMに対する企業の課題というのはその黎明期であった20年前とほとんど変わっておらず、まるでタイムスリップしたかのようでした。

角川が18年前に日経新聞出版社から発行した書籍に『営業革新システムの実際』(日経文庫)というものがあります。入れ替わりの激しいビジネス書の世界で18年前というと、古い本の部類に入り、ちょっとした古典のようなものです。セミナーが終わってから改めて読み返したところ、各社が話していた内容が見事なまでにこの本のままであることに驚きました。

さすがに全文を掲載するわけにはいきませんので、1章「なぜ、いま営業革新なのか」のうちの最初の節をご紹介いたします。「以前に読んだことあるよ」という方も、これが約20年前に書かれたものだということを頭の片隅にご記憶いただきながらお読みください。

営業革新システムの実際「1 情報システムを活用した営業革新とは」

営業組織を取り巻く環境は大きく変化しています。

インターネットの普及に象徴されるグローバル化や規制緩和に代表される「構造変革」の波がやってきたのです。当然、この大きな変化は個々の企業間格差を拡大させます。取引先の成長性を読む力が、よりいっそう求められるのです。競合他社に対して自社がどう優位となるかということだけでなく、生き残る力のある取引先を選んでビジネスをしていかねばならないのが「大競争時代」の本質なのです。

街には類似する商品があふれ、消費者は大量消費に飽きています。しかし、商品もサービスも明確な差異化のポイントはなく、価格ももう下げられない。そのような中で営業組織の果たすべき役割の重要性はますます高まっています。営業の役割とは、自社の商品やサービスの価格を下げずに安定的に売ることです。そのためには単なる商品紹介だけではなく、相手の立場に立った明確な購買理由を提案し、できるだけ高く売れるように付加価値を高めていかねばならないのです。

しかし、多くの企業がなかなか旧態然とした営業のやり方から抜け出せないでいます。明確な差異化をはかることができず泥沼の価格競争を展開し続ければ、企業の存続そのものが危うくなりかねません。バブル崩壊以降は、目先の利益確保のためにリストラクチャリングという名のもと人員削減を行ってきました。これは確かに一時の経営数字を改善させますが、やりすぎると企業の基本的な力を低下させてしまいます。いま求められるのは、いかにして少ない人数で確実に売るか、すなわち営業活動の生産性を高めるかということなのです。

こうした環境変化の中、コンピュータネットワークの急速な発展と折からのパソコンブームを受け、営業活動にも情報システムを取り入れようとする動きがさかんになりました。「イントラネットで情報共有」「モバイルでスピーディーな意思決定」といった具合に新聞や雑誌に煽動され、パソコンや情報システムを導入すれば、その日から営業生産性が格段にアップするかのような幻想を持ったのです。米国でも九五年ごろからSFA(Sales Force Automation:営業情報武装)という言葉で注目を浴びるようになりました。

しかし、その夢から覚めるのにそう時間はかかりませんでした。流行にのせられてハードだけ導入した企業は、期待通りの効果を上げることができず、愕然とすることになります。「手書きなら五分で書けた日報が、キーボードに慣れていないため一時間もかかる」「日々の仕事が忙しく、使い方を覚えているヒマがない」「いったい何の情報を共有すればよいのかわからない」――こうした不満が現場の営業担当者にたまるばかりです。

これにはいくつかの原因があります。まず、現場の担当者の理解と情報リテラシーの不足があげられます。このため、実際に使っても効果が上がらず、さらにモチベーションが低下し、リテラシーが上がらないという悪循環を生み出しています。次に、導入効果の測定への誤解があります。勘定系システムならば「三日かかっていた決裁が三時間ですむようになった」といった具合に、その効果は即時に、だれにでもわかる形で現れます。しかし、営業システムはそう単純に効果の現れるものではないのです。これらの問題は、システムを使って何をするか、どういう効果を上げていけばよいのか、という明確なビジョンが経営者にないために起こっているのです。トップに目標がないのですから、現場の担当者が積極的に取り組むはずはありません。

システム導入を成功させるためには、具体的なメリットをあらかじめ想定しておかなければなりません。単なる作業の効率化だけではなく、多くの情報を使って、明日からの活動に向けての「何をすべきか」という具体的な次の一手が明確になることが大切なのです。「今日活用したことが、必ず明日の活動に役立つ」という状態をつくることが最重要課題です。

そのためには、単にシステムの機能に目を向けていても始まりません。まず、高付加価値な活動ができる営業のしくみを構築しなければならないのです。ビジネスチャンスをつかむための顧客との関係をつくり、商談を確実に受注に結び付けるためのシナリオをつくる。シナリオを計画的に実践するための運用ルールやマネジメント手法を確立する。活動実績データを集計・分析し、次に生かせるしくみを定める。これらを整理することで、明確な「成功のためのロジック」を作ることができるのです。

情報システムは従来までの「作業効率化」の道具ではありません。ロジックにもとづき「考えることを手伝う道具」にしなければならないのです。ネットワークとデータベースを有効に活用すれば、一人の担当者が百年かけて経験しないと蓄積できないノウハウを、百人でわずか一年間で蓄積することも可能です。これを使って考えられた「知恵」を生かすことができれば、確実にその組織の生産性は向上するのです。

売れないのは決して営業担当者だけの責任ではありません。市場環境と自社の商品、サービス、そして営業組織にあわせた「売れるしくみ」がないことに問題があるのです。これをつくるのは会社としての責任です。いままさに求められているのは、これに対するトップ主導型のアプローチなのです。

組織として営業のやり方を整理し、それにあった情報システムを導入して定着させ、これまでの「臨機応変なその場対応」から「目的を持った計画的活動」に、「結果重視の管理」から「プロセス重視のマネジメント」になるようにするのです。これが売れる担当者を増やすための第一歩です。組織としての営業生産性向上への近道であり、この道を進むことが「営業革新」なのです。

時は移れど、SFA/CRMで大事なことは変わっていない

お読みいただいていかがでしたか。

誰もが当たり前にPCやスマホを使いこなしている現在から見ると、「手書きなら五分で書けた日報が、キーボードに慣れていないため一時間もかかる」といった辺りはさすがに18年前だなと感じますが、営業組織や営業システム(SFA)における問題や課題は今でもそっくりそのまま通用するのではないでしょうか。

残念ながら現在は絶版となっていますので中古になってしまいますが、続きが気になる方はぜひ一度本書をお読みになってみてください。

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