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インサイト営業の「インサイト」とはなにか

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ここ数年で頻繁に見聞きするようになった営業用語として「インサイト」というものがあります。日本語訳では「洞察」とされることが多いようです。特に営業で使われる場合は「洞察したことで得られた顧客にとって未知で価値のある情報」のこと。顧客の業界や業務について詳しく理解していて、顧客も知らないようなトレンドや課題、解決策を伝えることで、専門家としての価値を高めようというものです。 

実はコレ、これまでも優秀な営業担当者であればやっていたこと。それをインサイトなんて言葉を使って新しいもののように紹介されるので、特別なもののように思われますが決してそうではありません。ただ、以前よりも情報が氾濫している中、本当に相手にとって価値のある情報をしっかり見極めて提供することの重要性が高まっているということで、注目されるようになったということだと思います。 

ただ、このインサイトが具体的にどういうものなのか深く知ろうとしても、具体的に記載されている文献が最近までなかったため、「最近流行りのインサイト営業のインサイトってどういうものですか?」と質問されても、なかなかスパッとお答えできずにいました。 

そんな中、このインサイトを定義・分類しようと試みた意欲的な書籍が最近発売されました。そこで今回は、インサイト営業の「インサイトとは何か」について整理していきます。顧客の信頼を勝ち取るインサイトとはどういうものなのか、一緒に見ていきましょう。 

インサイト営業の生みの親『チャレンジャー・セールス・モデル』 

そもそも、「インサイト営業」という言葉が登場したのは、Googleトレンドによると2017年ごろ。そのきっかけになったのが2015年の年末に訳出されたベストセラー『チャレンジャー・セールス・モデル』です。この本では、顧客ロイヤルティにつながる上位5つの営業活動をデータから抽出しています。それはこちら。 

1. 市場に関する独自の価値ある視点を提供してくれる

2. さまざまな選択肢を検討する助けになる

3. 継続的なアドバイスを提供してくれる

4. 「地雷」を避けるのに役立つ

5. 新しい問題や結果(解決事例)について教えてくれる

この結果から、顧客にとって価値の高い営業は、顧客がすでに知っている自社や業界の課題やニーズについてただヒアリングするだけでなく、顧客も知らないような貴重な情報であるインサイト(洞察)を伝えて、それをもとに顧客の意思決定を牽引/後押しするチャレンジャーなのだとしています。 

「インサイト」が具体的にどんなものなのかは示されず・・・ 

『チャレンジャー・セールス・モデル』では実に147回も「インサイト」という単語が出てくるほど。今どきの言葉でいうと「インサイト推し」なのですが、実はインサイトが具体的にどんなものなのかを整理・分類してはいません。「顧客に新しい考え方を教え、現在の視点やアプローチを見直させる」「実際に行動を起こさせる」「自社のソリューションに直結する」という条件は提示しているのですが、具体的にインサイトがどのような情報なのかは示されておらず、「各企業のマーケティング部門と営業部門が連携して見つけ出さなければならない」とあります。 

ちなみに、先ほどご紹介した上位5つの営業活動が一見するとインサイトっぽく見えますが、これはあくまでもデータから得られた傾向であり、この5つをもってインサイトだとは本の中で断言されていません。 

そのため、「インサイト営業」という言葉を見聞きした方から、「インサイトって具体的にどういう情報のこと?」と質問されても、スパッと簡潔に回答できない状況がしばらく続いていました。 

最新作「インサイト主導営業」が示す4種類のインサイト 

そんな中、『チャレンジャー・セールス・モデル』のオリジナルが発売された2011年のちょうど10年後、2021年に営業におけるインサイトがどのようなものなのかを網羅的に整理しようという意欲作が発表されました。それは『Insight-Led Selling』と言う本で、タイトルを直訳すると「インサイト主導営業」。この本の中で、営業に役立つインサイトは以下の4種類だと示されています。 

1. インダストリー(業界)インサイト:業界のトレンドや最新テクノロジー、業界全体におけるリスク、業界として取り組むべき課題を正しく把握している

2. エグゼクティブ(経営者観点)インサイト:顧客企業の課題とそれに対する解決策、期待される効果を経営者観点で端的に表現できる

3. ラインオブビジネス(部署別観点)インサイト:意思決定に関わる各部署の観点/言語で、課題解決の価値やリスク、各部署に求められることを表現できる

4. ファイナンシャル(財務観点)インサイト:財務観点で課題解決の価値やリスクについて表現できる

4番の財務観点インサイトは3番の部署別観点インサイトの中に含まれるのではないかとか、1番と比べて2~4番の粒度が細かくて分類として階層が揃っていないのではないかとか、気になる部分はあるものの、これまで網羅的に整理されてこなかった「インサイト」というものの全貌を捉えようとした試みは素晴らしいと思います。 

『チャレンジャー・セールス・モデル』で挙げられていた5つの営業活動は、この分類では1番の業界インサイトの中にすべて含まれるものであり、2~4番がこの本で新たに追加されたインサイトとなっています。 

相手に伝わるように発信されていない業界情報はインサイトではない! 

新たに追加された2~4番のインサイトは伝える相手が特定されていて、かつ相手の観点で表現できることが重要視されています。このことから、業界の課題や最新トレンドをどれだけ知っていても、それが顧客の経営者や意思決定に関わる各部署のキーパーソン、特に財務のキーパーソンに理解されるように発信されない限りはインサイトではない。顧客内の情報の受け取り手が受け取りやすいように表現されて初めてインサイトと言える、ということなのだと思うのです。 

「相手に伝わるように表現されているか」という観点で見直し、インサイト営業を推進しよう 

今回ご紹介した『Insight-Led Selling』の4分類が営業におけるインサイトの完成形ではありません。今後も新しいインサイトの分類が発表されることでしょう。それでも、『チャレンジャー・セールス・モデル』で取り上げられていたような業界の課題や最新トレンド/事例だけでなく、相手に合わせて表現や使う言葉を調整してインサイトを伝えるべきだという考え方はとても参考になると思います。端的に言うなら、「何を話すか」だけでなく「どう話すか」も大事だということですね。 

たとえば、皆さんのWebページやホワイトペーパー、提案資料などに書かれているインサイトは、ターゲットとしている経営者観点/部署別観点/財務観点から見てわかりやすく書かれているでしょうか。それぞれの観点で使われる表現や用語に置き換えられているでしょうか。ぜひ「この情報はこれを見るであろう相手がインサイトだと思えるものになっているか」という観点で見直してみてください。 

そして、そのインサイトを顧客に提供し、反応を伺って相手にとって未知で価値のある情報であったかを検証し、必要に応じて見直しをしていきます。そのサイクルがインサイト営業を推進する上で不可欠だと思います 

参考: 
「チャレンジャー・セールス・モデル」(マシュー・ディクソン & ブレント・アダムソン (著)、三木俊哉 (翻訳)、海と月社、2015年 
Insight-Led Selling」(Dr. Stephen G. Timme, Melody Astley, Lioncrest Publishing, 2021

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