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文化の違いがマネジメントや人材育成に与える影響~ハイコンテクストとローコンテクストの文化の違いがもたらす組織運営のヒント~

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「魚は水中に居て水を知らず」という言い回しがあります。自分が日常から慣れ親しんでいる習慣や文化は、かえって自分では気が付かないもの。結婚してから実家の習慣が独特だったのだと気づいたり、別の地域に引っ越してから以前は標準語だと思って使っていた言葉が方言だったと気づいたり。このような経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、2023年4月末にアメリカで開催された人事・育成系カンファレンス「UNLEASH AMERICA 2023」の参加レポート第2弾として、「文化の違いがマネジメントや人材育成に与える影響」をご紹介します。業務の標準化や職務定義書(ジョブディスクリプション)など、いわゆるアメリカ的な施策が私たち日本企業にも導入されているものの、しっくりきていない職場も多いように見られます。なぜしっくりこないのか、そしてどうすれば受け入れられるものになるのか、一緒に考えてみましょう。

ビジネスに影響を与える文化について知ろう

今回ご紹介するのはUNLEASH AMERICA 2023の講演「Cultural Intelligence: The Power of Building Successful Multicultural Teams」(文化的知能:成功する多文化チームを構築する)。講演者はINSEAD(欧州経営大学院)で組織行動学を研究・指導するエリン・メイヤー教授。2015年に日本でも『異文化理解力~相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養~』という書籍が発売されましたので、ご存じの方もいらっしゃるかもしれません。

カンファレンスでの講演は2015年の『異文化理解力』に最新の研究を付け加えた内容で、国同士の文化の違いによってどのように働き方や考え方に違いが生じて、どのような摩擦が起きてしまうのか、そしてどうすればそれを軽減できるのかについて。外国の人とコミュニケーションを取る中で感じていたちょっとした違和感の理由を知ることができる、気づきの多い講演でした。

組織内で共有するコンテクスト(文脈)の高低でコミュニケーションが変わる

メイヤー氏は2,000人以上のビジネスパーソンを対象に調査を行い、その結果としてビジネスに影響を与える文化の要素を8つ抽出・整理しています。その中でも私が一番面白いと感じたのが
「メンバー同士のコミュニケーションがハイコンテクスト(文脈依存型)か、ローコンテクスト(文脈不在型)か」
という要素です。ここでいうハイコンテクストな文化では、メンバー同士には共通の知識や暗黙の了解があることをベースにしてコミュニケーションをとるので、繊細で含みを持たせて伝え、聞き手は話し手の真意を行間や空気を読んで受け取ります。その一方でローコンテクストな文化では、メッセージはシンプルで明確で、話された言葉の通りに受け取られますし、大事な内容であれば何度も繰り返して伝えられることも普通です。

ちなみに、講演の中で使われていたスライドを日本語にしたものが下図です。

この図によると、アメリカが世界で一番ローコンテクストな文化で、日本が一番ハイコンテクストな文化だとのこと。アメリカの人とコミュニケーションをとったことがある人には、納得の結果ではないでしょうか。ちなみに、この図は2015年の『異文化理解力』の図から一部の国が追加されたり、微妙に位置が変わったりしているそうです。

ハイコンテクストとローコンテクストが混在するチームへの3つの処方箋

このような事例を踏まえて、メイヤー氏による「ハイコンテクストとローコンテクストの文化が混在するチームへの処方箋」は以下の3つ。

ハイコンテクストとローコンテクストの文化が混在するチームでは、ローコンテクスト向けのコミュニケーションに合わせる。

ローコンテクスト文化の人には、できる限り簡潔に伝え、書面化/明文化する。

ハイコンテクスト文化の人には、明確に質問するように頼み、こちらは同じ内容を繰り返すのをやめる。そして「空気を読む」力をつけるように頑張る。

もちろん3つ目の処方箋の最後は受け狙いのオチなのですが、その手前の1つ目と2つ目の処方箋の内容の方が、私にとっては非常に面白かったのです。というのも、このハイコンテクストとローコンテクストというお話が、日米のマネジメントや人材育成のあり方に大きく影響を与えているように思われたからです。

ハイコンテクストな日本企業ならではの仕事の仕方

そもそも、なぜ日本が世界一のハイコンテクスト文化なのか。メイヤー氏によるとそれは日本の地理と歴史に要因があるとのこと。ほぼ単一民族の島国で長い歴史を共有する中で、互いに言外のメッセージを読み取る能力に秀でるようになったとのこと。それとは対照的に、アメリカは建国からわずか数百年の歴史しかなく、世界各国からの移民で成り立っている国なので、共有するコンテクストがほぼない。そのために、できる限り明確・簡潔に伝える世界一ローコンテクストな文化になったということです。

私の考えでは、このハイコンテクストな日本の文化は伝統的な日本企業にもそっくりそのまま見受けられます。新卒で一括採用されると終身雇用で定年まで勤めあげるのが多数派でしたし、ひと昔前までは従業員の家族も招いての社員旅行や運動会など、濃密な人間関係が職場の外でも続いていました。私の両親は四国に本社のある地方銀行で働いていたのですが、社宅全員で参加する新年会に、四国の地銀同士での野球の対抗戦、東京ディズニーランドへの団体旅行など、非常に濃密な人間関係の中にいたことを今でも覚えています。

伝統的な日本企業の多くがこのような環境だったため、業務手順の標準化や研修を整備するよりも先輩後輩の人間関係を通じたOJTでの育成が主となり、職務定義書(ジョブディスクリプション)に定めなくても、お互いに空気を読み合ってカバーし合いながら業務が進むというハイコンテクストな仕事の仕方になっていたのだと思うのです。

その一方で、アメリカでは日本のような新卒一括採用はあるものの人数としては多くなく、数年単位で職場を変えることが当たり前。かつ、移民やその子孫も多いため文化的バックグラウンドもまちまちなので、共有できるコンテクストが企業内になかなか育たない。そのために、業務プロセスを標準化・型化してそれを研修プログラムにまとめ、職務定義書もしっかり明文化するという仕事の仕方になったとも考えられます。

このように見てみると、アメリカ発の仕事の仕方がこれまで日本企業でしっくりきていなかったことがよくわかります。わざわざ標準化したり明文化しなくとも、人間関係や連綿と培ってきた組織風土によってカバーできていたのですから。

共有できるコンテクストが減っていくこれからはローコンテクスト的な仕事の仕方が必要に

それでは、アメリカ的なマネジメントをすべて捨て去って、昔ながらのハイコンテクストな仕事の仕方が安泰かというと、そうではなくなりつつあります。日本でも少しずつですが外国人労働者が増えてきていますし、ビジネスのグローバル化により海外とのやり取りも増えてきています。また、政府も労働市場の流動性を高めることを目指していますので、今後は中途採用や副業といった働き方をするメンバーの数も増えてくることでしょう。ワークライフバランスという考え方も広まり、プライベートの時間も会社の仲間とべったり一緒に過ごすということはなくなりつつあります。

つまり、日本企業も少しずつ共有するコンテクストが少なくなってきており、アメリカのように業務プロセスを標準化・型化し、職務要件を明文化するという、ローコンテクスト的な仕事の仕方が求められるようになってきているのです。

とはいえ、ハイコンテクストなコミュニケーションや働き方は私たちの文化になっているので、なかなか変えるのは難しいもの。ですが、ローコンテクストな仕事の仕方を取り入れるヒントは、メイヤー氏の講演の中にありました。日本は世界一合意での意思決定を大事にし、一度決めたことはなかなか変えようとしない文化だそうです。そのルールに従うという文化を生かして、業務プロセスの標準化や型化、職務定義書などを明文化する取り組みを部分的にスタートさせ、それを徐々にルール化していくのです。

私のクライアント企業の中に、人材育成の標準化・型化に成功した営業組織があります。そこでは、各マネージャーが独自にメンバーを育成していたため、使われている用語も仕事の進め方もバラバラ、型化や標準化に強い抵抗がありました。しかし、新入社員向けにその会社の営業のイロハをまとめた業務マニュアルと研修を開発・提供したところ、現場の育成にかかる負荷が軽くなった上に、新人が一人で商談できるようになる独り立ちの時期が早まるという成果が出ました。そのため、今ではその組織ではあらゆる階層・職種での業務標準化と、育成プログラムの開発・提供が当たり前の事業ルールになっています。ローコンテクスト的な施策を部分的に導入し、成功事例をてこにして事業ルール化していったのです。

UNLEASH AMERICAで仕入れた情報は5月24日のセミナーでご紹介します

アメリカのカンファレンスでたまたま知ることになった、アメリカと日本の文化の違い。それを紐解いていくことで、なぜこれまで日本企業にはアメリカ型の仕事の仕方がしっくりこなかったのか、そしてどう対応すればいいのかを知るいいきっかけとなりました。

今回ご紹介した以外にも、UNLEASH AMERICAでは営業人材育成に役立つ情報をたくさん仕入れてきました。その内容は5月24日の弊社セミナー『営業幹部/マネージャなら知っておきたい!ChatGPT時代に活躍できる営業人材を育てるには』にてご紹介しますので、ご興味ある方はぜひご参加ください。

参考:「Cultural Intelligence: The Power of Building Successful Multicultural Teams」(Erin Meyer, INSEAD, Unleash America 2023, April 27, 2023)

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