トライツコンサルティング株式会社

あなたの組織は大丈夫?デジタルを最大限活用できる営業組織に必要な「文化」と「組織体制」

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今や待ったなしのデジタル活用。このトライツブログでも最新デジタルツールの紹介や、リスキリングの重要性などをこれまでご紹介してきました。ただ、営業のデジタル活用についてのこれまでの記事は、このブログに限らず全般的に「どんなテクノロジー/ツールを使えばいいのか」「そのために一人ひとりが身に付けるべきスキルは何で、どのように身に付けたらよいのか」という内容が多かったように思います。

ただ、実際にデジタル活用を進めようとすると、ツールの選択や個人のスキル以前に、組織の『文化』と『組織体制』がとても重要です。これがダメだとどんなに立派なツールを導入しても使いこなせませんし、研修を重ねても根付きません。

「一通りツールは導入しているし、研修もやっているのに、デジタル活用が思うように進んでいない」
「これから本腰を入れてデジタル活用を進めたいから成功のヒントが欲しい」
今回は、このようなお悩みを解決するために、組織の『文化』と『組織体制』にバッサリ切り込んでいきたいと思います。ぜひお読みください。

デジタルを最大限活用する営業組織に必要な「マインドセット&組織文化」と「組織体制」

日本を含む世界各国に展開しているコンサルティング企業として、ZSアソシエイツ社という企業があります。今回ご紹介するのは、その共同創業者であるプラバカント・シンハー氏らが、Harvard Business Reviewに寄稿した記事「B2B Sales Culture Must Change to Make the Most of Digital Tools」(デジタルツールを最大限に活用するために変えるべきB2B営業組織の文化)。

タイトルでは文化だけに焦点が当たっていますが、中身を読んでいただくと「個人のマインドセット&組織文化」「賃金制度」「組織体制」の3つがテーマになっています。「賃金制度」は日米で大きく異なっていてあまり参考にならないので、残りの2テーマ「個人のマインドセット&組織文化」「組織体制」について、それぞれご紹介していきます。

デジタル活用を妨げる「コントロールしたい」「共有しない」マインドセットと組織文化

まずは、「個人のマインドセット&組織文化」から見ていきましょう。記事の中でシンハー氏らは、生身のパーソナルな営業担当者特有のマインドセット&文化の問題点を指摘しています。

営業担当者の多くは顧客との関係をコントロールしたいという願望を持っており、自身の営業手法を周りのメンバーと共有せずにいます。

ここで出てくる「コントロールしたい」「共有しない」という個人のマインドセットや組織文化が、デジタル活用を妨げているというのです。

デジタル時代の営業ではプロセスもチャネルもコントロール不可能

まず「コントロールしたい」について補足説明します。
デジタル化以前の営業では、営業担当者が商談をスタートさせて顧客をリードしていました。しかし、顧客がWebなどを通じて様々な情報をどんどん得ている現在では、営業担当者が知らないところで顧客が購買活動をスタートしていて、製品のデモを見たいときや価格を知りたいときになってようやく営業担当者が顧客に呼ばれます。商談/購買プロセスの進め方を営業が無理やりコントロールしようとすると、顧客に嫌がられてしまい逆に前に進まなくなってしまいます。

また、顧客にとって営業担当者は数ある購買チャネルの1つにしかすぎません。マッキンゼーの調査によると、購買プロセスのフェーズにおいて66%以上の顧客は「対面」よりも「リモート」や「デジタル・自動」を選んでいます。そのため、顧客の購買チャネルが常に「営業担当者との対面」になるようにコントロールすることも、顧客の満足度を低下させてしまいます。そうではなく、顧客が自社のデジタルチャネルをうまく活用してくれるように、コントロールを手放して積極的にオムニチャネル化を推進するというマインドセットが必要になるのです。

デジタルの恩恵を受けるためには経験やノウハウの共有が大事

「共有しない」こともデジタル活用を阻害します。
SFAやCRMのデータ分析機能を使って営業の成功要因を抽出するためには、どんな顧客にどんな活動をしているかを包み隠さずSFA/CRMに入力してもらわなければなりません。また、最近流行りのAIから芯を捉えたアドバイスをもらうためには、顧客とどんなやり取りをしているかをすべてAIに伝えてあげる必要があります。デジタルの恩恵を受けるためには、これまでの個人の経験やノウハウを自分だけのものとして囲い込もうとするのではなく、積極的に共有しなければならないのです。

顧客のコントロールを手放して、自身の経験やノウハウを積極的に共有する。個人がこのようにマインドセットを変え、そしてそれを誰もが当たり前にやる組織文化として定着させる。確かに営業のデジタル活用において、大事なポイントだと思います。

これからの営業組織に必要な「バウンダリースパナー」と「アーリーエクスペリエンスチーム」

記事の後半では、デジタルを最大限活用できる組織に必要な「体制」について述べています。続けて見ていきましょう。

営業組織がこの変化し続ける環境で成功するためには、「バウンダリースパナー」と「アーリーエクスペリエンスチーム」という役割が不可欠です。(中略)

デジタルチャネルと営業担当者の結びつきを設計し、進化させるという仕事は、決して簡単なものではありません。パーソナルセリングとテクノロジーの両方を理解する「バウンダリースパナー」は、営業組織がこの道を歩む上で重要な役割を果たします。(中略)

今日の急速な変化のペースでは常に何か新しいことを試す必要があるため、新しいツールや手法を試験的に使用するアーリーエクスペリエンスチーム(EET)の利用が特に有効です。EETはツールや手法の使い勝手、機能性、全体的な使用感についてのフィードバックを提供し、それによってツールや手法を改善や導入方法が磨かれます。

「バウンダリースパナー」「アーリーエクスペリエンスチーム」という耳慣れない言葉が出てきましたので、手短に補足します。

「バウンダリースパナー」はパーソナルな営業とデジタルツールとの橋渡し役。両方についてよく理解しているので、どのようにデジタルツールを導入すればよいか、どのように使わせれば無理なく使い続けてもらえるかを設計することができます。ビジネス業務とデジタルの両方を知っていてつなぐ役割のことを「スーツギーク」などとも呼びますが、その別名称だととらえていただくのが良いと思います。

また「アーリーエクスペリエンスチーム」はいわゆる「パイロット部隊」。本格導入する前に、このチームを使ってテスト実践して課題を洗い出し、ベストプラクティス/成功事例を創出する役割を担います。

有志の片手間から、ちゃんとした組織役割として明確化・固定化する

これら2つの役割は特段目新しいものではありません。営業組織の中でもデジタルに明るい人が自然とバウンダリースパナー役をこなしたり、SFAを全体導入する前に、アーリーエクスペリエンスチームとして特定の部署で部分的に先行導入したり、ということは皆さんの組織でも普通に行われているでしょう。この記事が画期的なのは、これらを組織図の中にある部門/チームとして明示化・常態化する必要があるということです。

最近ではチャットGPTなど、デジタルツールの進化がさらに加速しています。その進化に追いついて自分たちの武器にするためには、ベストセラー「両利きの経営」の中で言われている『探索』を常に行い続けられる組織にならなければなりません。そのためには、バウンダリースパナーやアーリーエクスペリエンスチームといったこれまで有志が片手間でやっていた業務を、ちゃんとした組織役割として明確化・固定化する必要がある。実際に実現するのはかなり難しいとは思いますが、耳を傾ける価値のある提言だと思います。

デジタルを最大限活用できる組織にふさわしい「マインドセット/文化」と「組織体制」になっているか

これまで、デジタル活用のために必要なものとして、導入するデジタルツールや、個人のスキル向上に注目が集まっていました。そして、日本のB2B営業現場でも当たり前にデジタルツールが導入され、スキル向上のための研修や動画コンテンツなどが充実するようになってきました。

その先の「デジタルツールを最大限活用し続けられる営業組織」になるためのヒントとして、今回ご紹介した「『コントロールを手放し』『共有する』マインドセットと文化」と、「『バウンダリースパナー』と『アーリーエクスペリエンスチーム』という組織役割」は十分参考になる内容だと思います。

最近読んだ「神経症的な美しさ」という本に、日本とアメリカの社会文化を近代史の観点から対比・解説している箇所がありました。アメリカは規模の拡大/スケールが主な規範となっていて、その達成のためにテクノロジーの導入が当たり前になっている。一方、日本は、規模やスケール以上に従順さや無批判、決められたことを守り続ける献身ぶり、集団主義、排外的な島国精神の方が優先されるため、テクノロジーなどによる根本的変革はなし崩しにされる、と論じていました。

このような国民的な思考が背景にあり、基本的に日本企業はデジタルツールを既存の業務にオンしようとしてしまうのですが、今はデジタルツールに合わせた組織や業務の改革を行い、飛躍的に生産性を高めていくことが求められる時代です。一度ツールをどう使うか、どうスキルを身につけさせるか、というところから離れ、「自社の営業組織のマインドセット/文化はデジタル活用に適しているか」「デジタル活用の進化を常に起こし続けられる組織となっているか」を振り返ってみてはいかがでしょうか。

参考:「B2B Sales Culture Must Change to Make the Most of Digital Tools」(Prabhakant Sinha, Arun Shastri, and Sally E. Lorimer, ZS Associates International, Inc., Harvard Business Review, March 15, 2023)

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