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原材料費や物流費、人件費の高騰によって世界的に物価が上昇しています。米国の2022年1月の消費者物価指数の上昇幅は40年ぶりの+7.5%。日本の消費者物価指数(生鮮食品を除く)も1月は+0.2%で2月は+0.5%と、小幅ではありますが上昇基調にあります。1979年の発売当初から40年以上も10円という価格を維持していた、スナック菓子「うまい棒」の値上げはニュースとして大きく取り上げられていましたね。
また、私たちB2B営業に関わる者にとってなじみのある日本国内の企業物価指数も、1月が前年同月比で+8.6%と大幅に伸びています。
こうなると、営業に求められるのが「値上げ交渉」。まさに取り組んでいる真っ只中だという方もいらっしゃることでしょう。そこで、今回と次回の2回にわたって「B2B営業と値上げ」について考えてみたいと思います。1回目の今回のテーマは、経営トップが知っておくべき値上げ成功のポイント。物価高の時代に値上げを成功させるために経営トップに何が求められているのか、そしてB2B営業の現場ではそれをどのように実現していく必要があるのか、一緒に学んでいきましょう。
インフレ時代に値上げを成功させるための4つのポイント
今回ご紹介する記事は、経営トップをターゲットとしているWebメディア Chief Executive.netに最近掲載された寄稿記事「Leading Through Inflation: Ram Charan’s 4 Sales Team Essentials」。和訳すると「インフレを乗り越える:ラム・チャランが教える営業組織の4つのポイント」です。ここで「ラム・チャランって誰?」と思われた方が多いと思いますが、同氏はリーダーシップ論の大家で米国の経営者にとっては神様のような存在。「経営は実行」「徹底のリーダーシップ」「Talent Wins 人材ファーストの企業戦略」などの著書は日本でもよく売れましたので、書店で見たことがあるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そんなラム・チャラン氏が提唱している、インフレ時代に値上げを成功させるための4つのポイント。どんなものなのか、早速見ていきましょう。
1. 値上げ幅の設定は、営業組織に任せてはいけない。
彼らはこれまでに顧客の反発や値下要求を長年受けてきた結果、値上げそのものに心理的な嫌悪感を抱いています。
2. インフレの時期に値上げを遅らせることは災いのもと。
いつから、どの市場で、いくら値上げをすることで、市場シェアや売上高、利益率にどのような影響が出るのかといった、価格設定の具体的な内容を迅速に提示する必要があります。
3. 営業およびマーケティング部門の責任者が、値上げの計画に納得・腹落ちしているかの確認から始める。
4. 経営トップは値上げの実行を営業現場に丸投げしない。
営業およびマーケティングの担当者が確実に実行できるように、値上げ交渉の研修プログラムを作成・提供しなければなりません。例えば、私が関わっているある小売企業では最大の顧客であるウォルマートへの値上げに苦労していたので、そこの元役員を研修に招き、値上げ交渉のロールプレイに参加してもらいました。
4つのポイントについて、一つずつ見ていきましょう。
1番目の「営業組織は値上げに嫌悪感を抱いているので、価格設定を任せてはいけない」は、全員がそうだとは言い切れないものの、耳の痛い話です。値上げが自社にとって必要だとはわかっていつつも、目の前の顧客には良い条件で販売したいという気になってしまうもの。そのため、2番目にあるように、経営トップ自らが価格設定の根拠と見通しを検討・設計しなければならない、というのは理解できる話ではあります。
しかし、営業現場から離れた部署で作られた値上げ計画は、得てして営業組織から反発されてしまい、なかなか実行が進まないもの。そのため、3番目の「営業・マーケティングの責任者に腹落ちさせる」と、4番目の「研修プログラムを作成・提供する」など、着実に実行できるような準備をしてから値上げ交渉をスタートさせる、というポイントへと続きます。
このように考えると、この4つの項目が決してランダムに並んでいるのではなく、一連の思考手順に沿って整理されているものだということが、よりはっきりと見えてくるように思います。
「値上げ交渉の研修プログラム作成・提供」までトップが関わる
私も日本のB2B営業組織が値上げ交渉に臨む場面を何度か見てきましたが、多くの場合は経営企画部や資材部、営業企画部などから「価格改定のご案内」という1~2枚の資料が現場に降りてくるだけということが少なくないように思います。
付き合いの長い顧客や大口の顧客に対しては、担当者レベルで事前に話をつけておいてから、部長や営業担当役員に同行してもらって先方の部長・役員に説明をし、コロナ以前ならそのまま会食の場に席を移す、というのが、多くの企業でよく見られた光景でした。
これと比較すると、トップ自ら意思決定した値上げについて、各担当者がしっかり値上げの背景を説明して顧客に納得してもらえるようになるための、ロールプレイングも含めた研修プログラムまで準備するというのは、確かに必要なことですし、前々回のトライツブログでご紹介した「セールス・レディネス」、つまり、各担当者が営業活動を始める準備が整っている状態になっているか評価・確認しようという考え方にも、相通じるものがあるように思います。ここまでしっかり準備してから価格交渉に臨むのだという考え方は、私たちにも参考になる内容ではないでしょうか。
次回は値上げ交渉に臨む「スタンス」について学びます
経営トップ自らが値上げの根拠と、その結果の見通しを具体的に説明する。研修プログラムによって現場が着実に値上げ交渉を実行できるようにする。これらのラム・チャラン氏のアドバイスは、私たちにどのような手順で値上げに取り組めば良いかを教えてくれています。しかし、顧客との交渉に臨む際の「スタンス」については触れられておらず、何も教えてくれていません。
そもそも、定期的に価格が変動する石油化学系原料を使う業界や、半導体や魚介類・農産物などの需給トレンドが存在する業界以外では、バブル崩壊以降あまり値上げを経験することがありませんでした。そのため、提案の仕方は「課題解決型営業」や「コンサルティング型営業」などと時代に合わせて進化しているのに、値上げ交渉のスタンスは「ウチも厳しいので一つよろしくお願いします」といった浪花節のままアップデートできていない。それだけでなく、そもそも値上げは自社の努力不足によるもので悪いものだ、という意識も根深いように思います。
そこで次回は、現在のB2B営業において値上げ交渉に臨む際のスタンスや意識はどうあるべきなのか、SDGsやエシカル(倫理的に適切な)調達など、これまた変化の激しい調達側の観点から考えてみたいと思います。「値上げをお願いする営業担当者と、それを拒絶したり厳しい対抗条件を出したりする購買担当者」といった敵対的なシーンとしてイメージされがちな値上げ交渉の場面を、協力的なパートナーシップへと転換するために何が必要なのか。次回のトライツブログもお楽しみに。
参考:「Leading Through Inflation: Ram Charan’s 4 Sales Team Essentials」(Ram Charan, Chief Executive Group, LLC., February 14, 2022)