トライツコンサルティング株式会社

1on1をより効果的にする「データ活用型営業コーチング」とは

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突然ですが、マネージャー/管理職の育成課題のトップは何だと思いますか?

HR総研が実施しているアンケート調査「人材育成」によると、マネージャーなどの管理職が抱えている課題のトップは「部下育成力・コーチング力」(78%、複数回答)だそうです。研修などでコーチングについて学びはするものの、自らが育てられた経験も少なく、どのように進めたらよいかわからずに困っている、という方が多いようです。

このようにコーチング力の獲得がマネージャーにとっての課題となっている一方で、コーチングのやり方は日々進化しています。日本でも話題になった「1on1」などの新しい手法が開発されたり、「HRテック」と呼ばれるツールでは面談スケジュールの登録や進捗状況のマネジメントが簡単にできるようになっています。

そこで、今回のトライツブログでは海外で現在急成長中のB2B企業での例を参考に、最新の営業コーチングの考え方・手法をご紹介します。現在コーチングの導入を進めている企画・育成部門の方にも、実際にコーチングに取り組んでいる営業マネージャーの方にも参考にしていただける内容ですので、ぜひお読みください。

コーチングで大事な「話すきっかけ」

「最近、なんだか目の前の仕事に追われてばかりで、先を読んだ仕事ができていないように思うけど?」
「え?どこを見てそう思われるんですか?いろいろ考えてやってますよ。」
「うーん、なんとなくそんな感じがするんだけど、大丈夫?」
「はい。お客さんとのアポがあるので、もういいですか?」

マネージャーは自分の感じている印象をきっかけに話をしようとしていますが、部下はいきなり自分の仕事のやり方に文句を言われたように受け取り、その印象を否定するだけで会話が終了してしまっています。

マネージャーにしてみたら、「そうなんですよ~」と会話が始まることを期待していたのに、入口のところで大きく外してしまいました。かと言って「最近どう?」と漠然と聞いても、聞かれた側が何を答えていいのやら・・・と困ってしまうかもしれません。

コーチングの要素を営業現場における日常的なコミュニケーションに取り入れていこうとすると、このように話すきっかけを上手く見つけて、スムーズにスタートするというのは大きなポイントなのですが、それについて参考になる記事をみつけました。

先進企業での事例「より効果的な1on1コーチングのための基本パターン」

それはB2B営業についてのナレッジ共有サイトSales Hackerに掲載されている「How to Coach Your Team: Your Template for More Effective Coaching 1:1s」(より効果的な1on1コーチングのための基本パターン)。この記事を書いたのは、セールスエンゲージメントツールのリーディング企業Outreachで上級営業リーダーのBrooke Bachesta氏です。ちなみに、セールスエンゲージメントツールとは、電話やEメール、SNSでのメッセージやWeb会議など、顧客とのコミュニケーション全般を統合管理するツールのことで、例えば顧客A社とのコミュニケーション履歴をまとめて閲覧し、その中で見返したい場面を検索して再生できるなどの機能を持っています。コロナ禍によりリモートでの顧客コミュニケーションが主流になったことで、特に欧米での利用が増えている急成長市場です。

デジタル時代のB2B営業をリードする成長企業では何を大事にして営業コーチングに取り組んでいるのか、Bachesta氏は「担当者とマネージャーが一緒にデータを見て分析すること」が大事なポイントだと指摘しています。

効果的な営業コーチングとは、担当者が自らのすべての営業活動のデータにアクセスして分析できるようにすることであり、担当者の目標達成につながる生産的な対話の場をマネージャーがデータを活用して導くことなのです。

部下が自分自身で課題を見つけ、それを解決できるようになるためには、「最近の商談の中で上手くいったものとそうでないものがどれだけあるか」といった自分自身のパフォーマンスを知り、それぞれの商談で自分がどのように振舞ったのかを客観的に振り返る必要がある。そのために、自分の営業活動のデータを見て分析できるようにならなければならない、というのがBachesta氏の主張です。氏が所属するOutreach社の製品PRも含まれているのでしょうが、自分の営業活動を自分自身で客観的に振り返る、というのは確かに学びが多く有効であることは間違いないと思います。

営業研修でロールプレイをやったことがある人はよくお分かりだと思いますが、自分が記憶している自分の振る舞いと、実際に撮影され録画されている自分の振る舞いには天と地ほどの開きがあります。自分ではちゃんと回答したつもりでも会話が嚙み合っていなかったり、自分では何を喋ったか記憶にないけれど画面上の顧客が乗り気になる瞬間が撮影されていたりと、自分の商談を客観的に振り返ることで課題や今後の営業活動で使えるヒントが見つかるというのはよくあることです。

データを活用したコーチングのための事前準備

営業活動データを一緒に分析するコーチングにおいて、大事なのが営業マネージャーの事前準備です。Bachesta氏は以下の3点が欠かせないと記しています。

・営業担当者がSFA/CRMやセールスエンゲージメントツールで営業活動データを分析するのを支援できるように、利用法を理解しておく

・失敗した商談とその想定要因を事前に抽出しておく

・担当者の今後の商談全体を一覧するデータを用意しておく

ここで大事なのが、営業活動データの分析を担当者任せにせず、必要があればマネージャー自らが操作して課題や解決策を見つけられるようになっておくということ。マネージャーがこれをできないと、コーチングの場が担当者が事前に想定した手ごろな課題についてやり取りするだけの「避難訓練のようなものになってしまう」と記事では警鐘を鳴らしています。

データを活用したコーチングの質問文例

そして記事では続けて、コーチングの場面で対話すべき話題を質問文形式でリストアップしています。

「今月の進捗はどうですか?」
「顧客との商談や打合せはどれくらいありましたか?」
「自身の実績数字についてどのように思いますか?」
「具体的にどのような支援が必要ですか?次の商談へ進む割合や、意思決定者へたどり着く割合など、営業活動のどこに問題がありますか?」
「自分の活動データの中に、解決策のヒントとしてどのようなものがあると思いますか?」
「これからに向けてどのような準備をすればよいと思いますか?」

上記の質問文はいわゆる普通のコーチングでやり取りされる内容で、特段の新鮮味はありません。シンプルに要約すると「直近の活動から課題を見つけ、解決策を探り、次のアクションにつなげる」という一文でまとまってしまいます。しかし、ここでの最大のポイントが「営業活動データ」を中心にこれらの対話がなされるということです。

これらの質問をきっかけにして担当者とマネージャーが一緒になってデータを眺め、個々の商談の場面を再生して確認する。このような一連のやり取りをイメージしていただくと、この記事が主張する「営業活動データを一緒に分析するコーチング」がどのようなものかがより分かりやすくなるでしょう。

これは冒頭の「マネージャの印象」を元に会話をスタートさせるのと比べ、「データ」という事実を元にしているので、それが正しいか正しくないかということより、「なぜそうなっているのか」「これからどうするか」ということに思考が進むように思います。

日本のB2B営業でも進みつつある営業活動データの蓄積・活用

ここまで、Outreach社での事例をもとに、営業活動データを活用したコーチングをご紹介してきました。もちろん、日本ではまだOutreachのようなセールスエンゲージメントツールは普及していないので、今すぐにすべての営業コーチングがこの記事のようになることはないでしょう。しかし、いつの間にか多くの営業組織でSFA/CRMの利用が当たり前になっており、インバウンド主体の営業組織ではMiiTelなどの自動音声記録ツールが進んでいます。また、普段私たちがWeb会議に使っているTeamsにも会議を録画/録音する機能が付いており、大事な商談は録画しているという企業も少しずつ増えてきているようです。

つまり、日本のB2B営業でもトレンドとして、後から参照・分析できる営業活動データの種類が徐々に増えており、その活用が進んできています。このことを考えると、今回ご紹介した「データを担当者とマネージャーが一緒に分析するコーチング」もまったくの夢物語ではなく、近い未来に営業マネージャーの必須スキルとなっている可能性があると思うのです。

管理職研修・リスキリングでデータ活用力・課題解決力を高めよう

そのような未来に、皆さんの営業組織は上手く対応できるでしょうか。営業マネージャーはSFAやTeamsなどのデータを活用したコーチングができるでしょうか。

「PCの操作はExcelやPowerPointどまり」「データ分析と言われてもやったことない」という方からすると来てほしくない未来でしょうし、そのような方が多い組織ではマネージャー自身でどうにかするというのも難しそうです。では、どうすればよいのか。どうすれば営業マネージャーがデータを活用して部下の課題解決を支援できるようになるのでしょうか。

その答えの1つが、冒頭で触れた管理職研修でしょうし、今話題のリスキリングでしょう。自社としてパイロット的に試行錯誤した内容をまとめて、「SFAを活用した課題解決型コーチング」という講座を開発し管理職研修の中に含める。営業マネージャーから担当者までが任意で受けられるカフェテリア型研修の中に、「SFAを用いた課題解決の仕方」というプログラムを用意する、といったことが今後必要になるのではないかと私は思います。

10月4日の日本経済新聞の朝刊記事「社長100人アンケート」で、社員のリスキリングに取り組んでいると回答した企業が67%あり、学習内容として最多は「デジタル・プログラミング」だというデータが紹介されていました。最近のDXブームにより、Pythonなどの言語を使ったデータサイエンス/機械学習や、RPAツールの活用などが注目されているようです。しかし、もっと大事なこととして、今回ご紹介したような今導入されているシステムのデータを取り出して分析し、営業などの課題解決に活用する、というものがあるのではないでしょうか。

これまで「コーチング」と「SFAなどのデータ活用」はそれぞれ別に語られることが多かったように思いますが、これを組み合わせて学ぶというのは、身近なリスキリングのアプローチの一つだと思います。

参考:「How to Coach Your Team: Your Template for More Effective Coaching 1:1s」(Brooke Bachesta, Sales Hacker, September 28, 2021)

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