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全国を対象に出されていた緊急事態宣言が一部地域で解除になるなど、急ブレーキがかかっていた経済活動が徐々に再開し始めています。私の周りでも、7月以降の事業の進め方についての社内での議論が本格化している、という話を各所から聞くようになりました。
それでは、すべての地域で緊急事態宣言が解除されて、密集を避けるなどの制約条件は維持しつつも皆がそれぞれの仕事を再開するようになるとき、単純にビフォーコロナの世界に戻るのでしょうか。それとも、この数か月間の自粛期間で起こった変化を引き継いだ「ニューノーマル」の世界へ進むのでしょうか。そして、ニューノーマルの世界に進むのだとすると、B2B営業におけるニューノーマルとはいったいどのようなものなのでしょうか。
今回は、コロナ収束後のB2B営業のニューノーマルの世界と、そこで求められるものについて考えてみたいと思います。
海外調査レポート:コロナで起きたB2B営業の変化と垣間見えるニューノーマル
マッキンゼー・アンド・カンパニーがこのコロナの期間中もB2B向け調査「パルス」を定期的に実施しています。そのうち、欧州や中国、米国の一部地域で経済活動が再開された5月上旬に発表された調査結果「Survey: US B2B decision-maker response to COVID-19 crisis」を読むと、B2B営業のニューノーマルの姿を垣間見ることができます。
米国の意思決定者は楽観視しているものの、その度合は低下している:
2~3か月で経済が回復すると信じているのは50%だが、4月上旬の55%から減少している。
オンラインでの購買が従来型の取引の2倍以上を占めている:
セルフサービス型のオンライン購買の優先順位が高くなっている。
リモート営業が標準となり、効果を上げている:
B2B営業をおこなう企業の96%が営業モデルをリモート型に変更しており、新しいモデルは以前と同等以上に効果的であると65%の企業が感じている。(4月上旬の60%より増加している)
営業モデルの変化が継続すると予想されている:
コロナ終了から12か月以降先にこれらの変更が継続している可能性について、32%が「非常に高い」、47%が「ある程度高い」と回答している。
このデータを見ると、B2B購買のオンライン化が以前より加速するとともに営業活動そのものもオンライン化/リモート化しており、そしてその変化が定着すると予見されていることが分かります。つまり、この調査結果から見えるB2B営業のニューノーマルの世界とは、顧客がオンラインでセルフサービス型の購買活動を進め、それを営業担当者がリモートで支援する、という世界なのです。
日本でも進む購買/営業のオンライン化/リモート化
では、日本のB2B市場も、このニューノーマルの世界に変わっていくのでしょうか。顧客も営業担当者もこれまで以上にオンラインを中心に活動するようになるのでしょうか。
「連休明けに仕事を再開した人で電車が混んでいた」というニュースが流れていた日本で、本当にオンラインの購買/営業が普及するのかと感じる方もいらっしゃるとは思いますが、私は今回のコロナ禍をきっかけとした、購買/営業のオンライン化/リモート化の加速・定着という大きな潮流は日本でも変わらないと考えています。
というのも、日本にいる私たちの生活はものすごいスピードで世界と等質化しているからです。かつてガラパゴスと言われた国内の携帯電話市場も、筐体はAppleの一強体制となって久しく、各社ばらばらだったOSはiOSとAndroidの2つに集約されています。また、ZoomやMicrosoftTeamsを使って仕事の打ち合わせをし、UberEatsを使って食事を注文し、NetflixやAmazonPrimeで映画やテレビ番組を見る、という生活をこの自粛期間中に多くの人が体験しています。行政や金融機関を中心とする「紙とハンコの文化」など、なかなか変わらずに残っているものもありますが、私たちの生活の多くの場面は米国を中心とする世界標準に急速に等質化しています。それは、SalesforceやMarketo(Adobe)、HubSpotなど海外資本のシステムが続々と導入されているB2B営業においても同じだと思うのです。
それでは、そのニューノーマルの世界の顧客から選ばれるために、私たちには何が必要なのでしょうか。私は「オンラインコンテンツ」「デジタルツール」「営業マニュアル」の3つだと考えています。
B2B営業のニューノーマルに必要なもの①「オンラインコンテンツ」
1つ目の「オンラインコンテンツ」は自明でしょう。顧客はオンラインで情報収集し、購買プロセスを進めます。最終的に営業担当者に連絡する必要があるとしても、それまでにできる限りの情報を集めたいと思っており、そのためにはオンラインコンテンツの充実は不可欠です。
ここで大事なのが、このトライツブログでも紹介してきた「バイヤーイネーブルメント」という考え方です。これは「診断」「比較」「実験」などの機能を自社のオンラインコンテンツに持たせて、顧客がより良い購買の意思決定をできるようにサポートしようというものです。このバイヤーイネーブルメントは、新規コンテンツの作成や既存の見直しを考える際に有効なアプローチだと私は考えています。
B2B営業のニューノーマルに必要なもの②「デジタルツール」
2つ目は「デジタルツール」です。その中でも今後重要になるのは、オンライン化する顧客接点に対応するためのもの。ホームページ上での顧客の動きをもとに企業単位でのナーチャリング状況をモニタリングしたりするABM(MA)ツールや、顧客の問合せに24時間365日対応できるチャットボット、オンラインセミナーや個別のオンライン商談をおこなうためのビデオカンファレンスツールなどがこれに当てはまります。
これまでの営業デジタルツールの多くは、「社外からでも入力・確認できる」「見込客の商談可能性をスコアリングできる」など、営業担当者が今おこなっている業務を便利にする/効率化する、というものであったように思います。そうではなく、今後のニューノーマルに備えて顧客接点のオンライン化に対応することが必要なのです。
B2B営業のニューノーマルに必要なもの③「営業マニュアル」
そして、3つ目が「営業マニュアル」です。ここまで見てきたように、ニューノーマルの営業活動はこれまでの営業活動と大きく変わってきますし、様々なデジタルツールを使いこなす必要もあります。しかし、営業マニュアルが必要な理由はこれだけではありません。顧客接点がオンライン化することによって、従来型のOJT主体の育成が困難になるからでもあるのです。
顧客とWeb会議システムで打合せをしたり、チャットツールでやり取りをするとなると、今までのように横に上司や先輩がついていて、手取り足取り指導するというわけにはいかず、どうしても担当者個人で対応せざるをえません。また、前回のトライツブログでも触れましたが、オンラインで顧客とコミュニケーションを取るメリットとして「短いスパンで次のアポイントが取れる」ということがあります。そのため、毎週の営業会議の場での様子を聞いてフィードバックするだけでは間に合いませんし、だからといって毎日ミーティングするのも非効率です。大事なのは誰かが横につくことや後からフォローすることではなく、担当者個人のスキルを高めた状態で顧客接点に立たせること。そのために、事前にやるべきことを体系的に整理していて、それを読んだ担当者が実行できるような営業マニュアルづくりが必要不可欠なのです。
経済活動再開に向けて「アフターコロナのB2B営業の三種の神器」を強化しよう
まだまだ油断は禁物ですが、日本でもこれから経済活動が段階的に再開されます。そして、そこでのB2B営業の姿はビフォーコロナの頃とは異なります。多くの顧客がよりオンラインで購買活動を進めるようになり、それにオンライン/リモートで対応できる企業が選ばれる世界になることでしょう。
そのようなアフターコロナのニューノーマルにおいて「オンラインコンテンツ」「デジタルツール」「営業マニュアル」は、いわゆる三種の神器のような当たり前のものになると思います。私が小学校に入ったのは1983年ですが、その頃にはカラーテレビとクーラーと自動車という新・三種の神器は、それぞれが当たり前に1家に1台はあるものでした。それらと同じように今後のB2B営業では、先ほどの3つが欠かせないものとなるのだと思うのです。
現在多くの企業が、アフターコロナの事業再開に向けた準備をしているかと思いますが、営業活動はただ再開すれば良いわけではなく、アフターコロナの世界に適応し、売上を回復、拡大していかなければなりません。その時に、この「アフターコロナのB2B営業の三種の神器」をヒントにしてください。今先んじて踏み出す一歩が、将来きっと大きな差になるはずです。
トライツコンサルティングは、アフターコロナの時代に即した営業の再構築を支援しています。「営業のデジタル化を進めたい」「オンライン化が進む顧客から選ばれる営業組織を作りたい」とお考えの方はご相談ください。
参考:「Survey: US B2B decision-maker response to COVID-19 crisis」(McKinsey & Company, May 2, 2020)