トライツコンサルティング株式会社

第二回「営業マネージャー/営業企画のための統計活用入門」統計の基本『統計量』とその落とし穴

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今回のトライツブログも、前回より続けて「営業マネージャー/営業企画のための統計活用入門」として、実際の営業現場で使える統計学の手法/ツールについてです。

第二回の今回は、統計の基本である『統計量』の使い方と、知っておかないと陥りがちな落とし穴をご紹介します。営業現場でよくあるシーンをケースとして解説していきます。あなたのこれまでの「常識」の間違いに気づくことになるかもしれません。

シーンその1:イベントのアンケートの集計で「平均」を使っていませんか?

営業担当者:今回の展示会は、前回と比較するとお客さんの反応が良かったですね。
課長  :どうして?
営業担当者:いつもの来場者アンケートの結果をまとめたんですが、満足度平均が0.4ポイント高かったんですよ。
課長  :おおそうか、それは良かったな。ごくろうさん。

このような会話はよくあることではないでしょうか。

展示会の来場者にアンケートを配布し、その満足度を「とても満足、やや満足、どちらでもない、やや不満足、とても不満足」という5つのどれかにチェックしてもらうというようなやり方は日常的に行われています。
そして、「とても満足」を5点とし、そこから4、3、2・・・「とても不満足」を1点として平均点を算出していることは少なくないように思いますが、実はこれが大問題なのです。

このデータは統計的には「順序尺度」というものになります。「やや満足」よりも「とても満足」の方の満足度が高いことは明確なのですが、それぞれの間隔は同じであるかどうかはわからないというのが特徴です。

仮に、展示会に来た人に一通りの説明が終わって、担当した営業担当者に「アンケートへのご記入お願いします」と言われ、引換に景品を貰えることもわかっていたとしたら・・・よほど悪い印象を持たない限り、「とても満足」「やや満足」のどちらかにチェックする人が多いのではないかと思います。

ただ、その状況にも関わらず、「やや不満足」「とても不満足」というチェックをつけているとしたら、そこには何か大きなマイナス要因があった可能性があります。従って、顧客心理という面から考えると、「やや満足」と「どちらでもない」の間隔よりも、「どちらでもない」と「やや不満足」という間隔の方がずっと広い可能性が高いのです。このようなシーンで無理やり「平均」を使うと、顧客のこの心理的な間隔の違いを全部ごちゃ混ぜにして計算することになり、顧客満足度の実態とは異なるものになってしまいます。そのため、順序尺度のデータでは「平均」は使えず、「最頻値」や「中央値」を見ることになります。

ここで「最頻値」と「中央値」についてですが、「最頻値」とは最も数が多いデータのことで、「中央値」とはデータを上から下まで並べたときの真ん中のデータのこと。先ほど例で挙げた展示会の満足度への回答件数が計11件あり、その内訳が「とても満足 : 1人、やや満足 : 4人、どちらでもない : 3人、やや不満足 : 1人、とても不満足 : 2人」の場合、「最頻値」は一番回答数が多い「やや満足」になります。その一方で、上から数えても下から数えても6番目の「中央値」は「どちらでもない」です。「最頻値」は単純に最も数が多いものを見ているだけですが、「中央値」は全体のバランスを見ているので「とても不満足~やや不満足」と3名が回答していることを含んだものですので、より正確に実態を捉えていると言えます。

シーンその2:営業生産性を分析するときに安易に「平均」を使っていませんか?

営業企画部長:自社の営業の生産性はどうなっているんだろう?打ち手を考えたいんだけど、組織ごとに違いはあるの?
メンバー  :東日本営業部と西日本営業部で以前分析したときは、営業担当者一人当たりの売上高はほぼ同じでしたよ。
営業企画部長:それってそれぞれの部の売上高の平均ってこと?
メンバー  :そうです。
営業企画部長:じゃあ、傾向はほぼ一緒か。まとめて実施できる施策を考えよう。

このように全国に営業組織を持っている会社であれば、拠点ごとに営業担当者個人の売上高や利益額を見比べるということをやっているところも多いでしょう。そのようなときに、手っ取り早いからと「平均」だけを見てしまっていると、大きな落とし穴が口を開いて待っているということがあります。

このシーンで出てきた「売上高」は、先ほどのアンケートとは異なり「比尺度」と言われるものです。数の大小という順序関係だけでなく、間隔にも意味があって四則演算することに何の問題もありませんので、統計量として「平均」がよくつかわれます。しかし、その「平均」がデータの実態を適切に表していない、ということがよくあるのです。

上の2つのグラフが、西日本営業部と東日本営業部の営業担当者一人当たり売上高の分布だとします。どちらも平均売上高はほぼ一緒ですが、分布のカタチが異なっています。西日本営業部は大勢のアベレージヒッターがいて、ずば抜けて沢山売る営業担当者もずば抜けて売れない営業担当者もそんなにいないチームです。一方で、東日本営業部は平均より高い売上を稼ぐ営業が西日本より多くいるものの、大半の営業担当者の売上は平均未満というチームです。

このようにデータの分布のカタチがかなり違うのに、「平均」の値はほぼ同じということが起こります。この2つの営業部を「最頻値」や「中央値」で見ると、西日本よりも東日本の方が全体的な売上が低い傾向にあるので、西日本営業部には「平均」付近に固まっている営業担当者に向けた施策が向いているでしょうし、東日本営業部には平均未満の営業メンバー向けを底上げするような施策が必要になってくることが分かります。分布のカタチによっては、「平均」がデータの特徴を適切に表さないということがあるのです。

このような統計量の分析のミスマッチを防ぐために大事なのが、分析を始める前に分布のグラフを描いてみて、分布のカタチを確認するということだと私は考えます。分布の山がグラフの真ん中にあるのか、それとも偏っているのか、そもそも山の数は1つだけなのか、複数あるのか、そもそも山のないグラフなのかなど、分析のカタチをチェックしておくことで、データの実態を適切に表現するための統計量を正しく選べるようになります。

「いちいちグラフを書くのは面倒くさい」と思われるかも知れませんが、統計解析は料理と同じで下準備が味の決め手。下準備を怠るとその後にどれだけ頑張っても不味くなってしまう料理があるように、統計でも最初の一手間がトンデモな分析結果を出してしまわないために大事になってくるのです。

安易な「平均」の使用には要注意

今回ご紹介した統計量とは、データの特徴を知るための数値のこと。その統計量の代表格がこれまで2つのシーンで取り上げてきた「平均」です。「平均」は理解しやすく計算も簡単なのでついつい深く考えずに使ってしまいがち。しかし、今回見てきたように、アンケートの満足度などデータの種類や、左右に大きく偏って分布しているデータなどでは、「平均」を使うことでデータの特徴が正しく見えなくなる、という落とし穴に陥りかねません。

「平均」などの統計量を使うときは、自分がこれから分析しようとしているデータがどういう種類のデータなのかや、分布がどうなっているのかということを意識するのが何よりも大事なのです。

これからの営業担当者にとって、「統計」は絶対に武器になると思います。そして、もしご希望がありましたら、こちらでご紹介しているような内容での社内勉強会なども承ります。下記よりお気軽にご相談ください。

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