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海外の調査レポートで頻繁に「セールスマンの死」というフレーズを目にします。これまでのトライツブログでも、AIの発展によって営業担当者としての仕事が奪われる可能性について考える際には、この「セールスマンの死」という言葉を使ってきました。ちなみにこの言葉、今から70年近く昔にアーサー・ミラーによって書かれた戯曲のタイトルが元になっていることをご存知でしょうか。
ただ、最近になって「B2Bセールスマンは死んでいない!」と言うものも増えてきています。一体、どちらなのでしょう。
今回のトライツブログでは、最新の海外の調査レポートをもとにこのテーマについて考えてみたいと思います。
最近話題の海外調査レポート「B2Bセールスマンは死んでいない!」とは
近年急成長している営業支援システム開発企業のShowpad社の最新調査レポート「The New B2B Buyer Experience」が、米国を中心に色々なB2B営業関連のビジネスブログで取り上げられています。そして、このレポートが紹介されるときには、必ずと言ってよいほど「B2Bセールスマンは死んでいない!」というリード文から始まっています。
この「B2Bセールスマンは死んでない!」というフレーズは、もともと名作と言われる戯曲・映画のタイトルである「セールスマンの死」に端を発するものです。
この「セールスマンの死」は1949年に初演された戯曲で、1951年と1985年にはアメリカで映画化されており、日本でも何度も舞台で上演されています。その内容は、都市化や資本主義化が加速する競争社会の息苦しさと、それによって隔絶してしまう家族、また自分自身であることの難しさや疎外感を描いたもので、家庭も仕事もうまくいかなくなった老セールスマンが最後には自ら死を選んでしまうという、かなり骨太な社会派の作品です。
そして最近では、AIの登場によりセールスマンをはじめとする様々な仕事が奪われるというオックスフォード大学の調査結果から、改めてこの戯曲/映画のタイトルである「セールスマンの死」という言葉がよく使われるようになってきたということです。しかし、その「セールスマンの死」というのは本当ではない、AIが普及してもセールスマンの仕事・役割はあるのだ、というのがこの記事のキーメッセージだと紹介されています。
以下、Showpad社の「The New B2B Buyer Experience」の概要を確認しながら、顧客の最新の購買活動がどのようになっており、顧客が営業へ何を期待しているかについて見ていくことにしましょう。
調査1:購買の意思決定に占める営業のウエイト
この調査レポートの根幹をなしているのが、顧客の意思決定に対して占める営業のウエイトです。
B2B顧客のうち30%がオンラインの情報のみで意思決定している
32%はオンラインの情報と営業担当者からの情報を組み合わせて(ほぼ対等に評価して)意思決定している
残りの38%がオンラインの情報よりも営業担当者からの情報を重要視して意思決定している
また、顧客の問合せ窓口としての営業の役割についても、調査レポートの中では言及されています。
オンラインで調査していて疑問が生じた場合、半分以上の購買担当者が営業担当者に問い合わせている
この結果をもとに、様々な記事では70%のB2B顧客が営業担当者からの情報を使って購買の意思決定をしており、半分以上の顧客が営業担当者に問い合わせをしているのだから「B2B営業担当者は死んでいない!」と意気軒高に宣言しているのです。
しかし、改めてこの調査結果が示しているのは、営業担当者がリード/コントロールできているのは約4割(38%)の顧客のみだということですし、半分近くの購買担当者はオンラインで調べ物をしていて疑問が生じても営業担当者に問い合わせをすることなく意思決定してしまう、というものです。
確かに、営業担当者の必要性は失われてはいないものの、営業担当者が顧客の購買の意思決定に与える影響力が、半分~4割程度にまで下がってしまったと捉えるべきではないかと私は思います。
調査2:膨大な量で難解なコンテンツに苦しめられている購買担当者
調査1で見たように、B2Bの購買担当者はオンラインの情報を駆使して情報収集を行っています。しかし、Webサイトやメールに動画など、日に日に増えていくオンライン・コンテンツに苦しめられている、と調査レポートは続けています。
5つ以上のコンテンツで購買担当者の42%は多すぎると感じ、10以上のコンテンツだとその割合は86%へと跳ね上がる
また、コンテンツの量だけではなく中身の難解さにも購買担当者は辟易している、という結果も出ています。
購買の意思決定が遅れる理由の第1位(38%)は価格が高いこと
第2位(33%)がコンテンツが難解なこと
このように、今や顧客がオンラインで情報収集するときに必ず目にするコンテンツですが、その量が膨大なものになってきており、かつ分かりにくいコンテンツが増えてきていることから、逆に顧客の意思決定を遅らせてしまっていることがあると言うのです。
このように顧客はオンラインで手に入れられる様々なツールやコンテンツを活用しながら購買の意思決定を行っています。
調査3:顧客が営業に期待する役割
最後に、調査レポートの中でB2B顧客が営業担当者に期待する役割について触れている箇所があったので抜粋します。
顧客は営業担当者に、コンテンツを提供してくれることではなく、賢く取捨選択して関連性や価値を示すことを期待している
単純にセールストークを駆使する情報提供者ではなく、課題解決のプロフェッショナルとしての役割を期待している
ここまで調査レポートを見てきて言えるのは、営業担当者とコンテンツ、それぞれに求めるもののが違ってきているということです。顧客のうち6割がオンラインでの情報を活用しながら、営業担当者に依存せずに主体的に意思決定を行っています。その一方でオンライン上での膨大なコンテンツに辟易しており、それらの中から正しい答えを見出すことや、課題解決のプロフェッショナルとしての役割を期待しています。
明らかに従来と営業担当者に求めるものが変わってきており、それに対応できないと存在価値がなくなるということをこの調査結果は改めて示しているのです。
「セールスマンの死」から学ぶ、変化に対応することの重要さ
このトライツブログを書くにあたって、改めて1951年版の映画「セールスマンの死」を観ました。
物語の大きな筋は、1つになり切れない家族であり、かつての栄華にすがる老セールスマンの苦悩なのですが、映画の中には挑戦する機会がありながらも変化に対応できなかったセールスマンの姿もしばしば現れてきます。
例えば、主人公には実業界で大成した兄がいてその幻影と何度も対話するのですが、そこで兄からアラスカやアフリカといった「新世界」の話を聞きます。しかし、主人公はその話を詳しく聞きたいとせがむだけで、そこに飛び込むことはせずにずっと昔ながらの人当たりの良さと過去の人脈に頼るセールスマンであり続けてしまいます。
また、主人公が仕事を失う直前のシーンで、当時の最新の電子機器である蓄音機に慌てふためく様子が描写されています。このシーンも、最新のツールや変化に順応できずに居場所を失ってしまう古いタイプのセールスマンをよく表しているように感じたのです。
このように見てみると、社会の変化に対応できない営業担当者が生き残っていけないと言うのは、最初に戯曲が作られた70年前から今に至るまで変わらない万古不易の真理なのだと思いました。
最近は顧客の購買活動の変化やAIの活用などで、大きな変化が訪れているがゆえに注目されますが、これは何も今に始まったことではなく、変化に対応できないB2Bセールスマンはその役割を失う=死というのはいつの時代も変わらないということなのだと、この70年前の戯曲は教えてくれているのではないでしょうか。
そして、今回ご紹介した調査レポートタイトルは「B2Bセールスマンは死んでいない!」でなく、「B2Bセールスマンはまだまだ死なない(変化に対応できない従来型のセールスマンは除く)」というのが正しいのではないかと感じました。
参考:「The New B2B Buyer Experience」(Showpad, Sep, 2018)