トライツコンサルティング株式会社

営業情報をマーケティングに有効活用するポイントとは?

Businessman with case on abstract background, rear view

この記事を読むのに必要な時間は約 8 分です。

最近は、日本のB2B企業でもマーケティングは当たり前の活動になってきているように感じます。では、マーケティング戦略を策定する際に、どこからマーケティング情報を収集されているでしょうか。

従来は調査会社が定期的に発行する業界別の市場調査資料が一般的でしたが、最近はWebアンケートなどで独自にマーケット情報を収集する企業も増えてきたように思います。

ちなみに営業担当者が日々の活動の中で収集している情報はマーケティング情報の宝庫なはずですが、昔からマーケティング部門と営業部門の間には壁があったりして、なかなか活用されていないことが多いのではないでしょうか。

今回のトライツブログでは、営業情報をマーケティング情報に変えて有効活用するためのポイントについて考えてみます。

調査記事:営業部門がマーケティング情報のソースとして有効な5つの理由

イギリスに本社を持ち世界展開しているマーケティング企業Brandwatch社が定期的に発行している記事の中に、「5 Reasons Why Your Sales Team Are Your Most Valuable Qualitative Research Asset」(営業部門が最も価値のある定性調査のソースである5つの理由)というものがあります。読み物として面白いので、お時間のある方はぜひ本文をお読みいただきたいのですが、ここではポイントのみをご紹介します。

この記事では、マーケティング情報のソースとして営業部門が有効である理由として、以下の5つを挙げています。

1. 営業部門はマーケティング部門とは異なる視点で市場や顧客を見ている
2. 営業部門は商品・サービスを最後まで売り切るノウハウを持っている
3. 営業部門は商談を通じて日々大量の定性調査を行っている
4. 営業部門は本当に買ってくれる顧客のペルソナ(典型的な顧客像)を経験上知っている
5. 営業部門は顧客からの反応をもとに営業トークを磨いている

言われてみると当たり前のことですが、このようにまとめられると「ナルホド」と感じる内容です。このような調査レポートが出るということは、日本だけでなく海外でも営業部門の持つ情報がマーケティングに十分活用できていないということかもしれません。

事例:顧客の利用目的の深掘りから新しい市場を発掘

ある設備機器メーカーでの事例です。この企業が戦略的に伸ばしていきたいと考えていた商品の1つに、ハイエンド向け防災設備がありました。独自の技術を活用したハイスペックなもので、金融や自治体など高い安全性を求める市場向けという位置づけでした。しかし、それまでの商談を見たところ、当初想定していた市場以外からもかなりの数の引き合いが来ていたのです。

その理由を明確にしようと、営業担当者と商品担当技術者で「どのような用途・目的で使用しようとしているか」の聞き取り調査を行ったり、これまで営業担当者が聞いてきた話を整理したりする中で、当初はまったく想定していなかった「広告宣伝・ブランディング」という目的が浮かびあがってきました。「自社のビルは国内最高クラスの防災設備を導入しているので、安心してご利用ください」とテナントに訴えかけられるよう、「ビルの付加価値を高めたいビルオーナー向け市場」という新しい市場が見つかったのです。

早速その商品担当技術者は、新しく見つかった市場向けに特化した商品紹介資料を作成しました。ただし、ビルの付加価値を高めるという目的だと、手段は防災設備に限ったことにはなりません。ビルオーナーにしてみれば、最新型のセキュリティシステムや長時間の停電にも対応できる備蓄電源など選択肢はいろいろあります。従って、この市場で売るためには、これらのいろいろあるビル設備全般が競合になってしまいます。

そこで、ビルの防災設備の高度化がテナントの誘致にいかに効果的なのかをわかりやすく訴求する資料を作りました。それは限られた防災設備機器メーカーの中で特徴を伝えてきたこれまでの資料とは全く異なるものでした。その効果はてきめんで、新しく見つけた市場で大型案件を複数受注することができました。

営業部門だからこそ顧客インサイトを掴める

今回の流れを簡単に整理すると、

①商品・サービスの引き合い

⇒②これまでわかっていなかった商品・サービスの利用目的・用途

⇒③利用目的・用途から見た商品・サービスの市場(新たに定義)

⇒④これまでとは異なる競合の明確化

⇒⑤市場に合わせたアプローチ(販促/営業)

⇒(⑥必要に応じて商品・サービスのカスタマイズ)

というようになります。通常の営業活動においては、②のレベルで従来の営業のやり方で売れるかどうかを判断することが多いように思います。売れるようであれば顧客リストを作り横展開するということが行われます。

しかしここでは市場を定義しなおし、その市場における競合を意識した新しいアプローチを開発しています。これらの③~⑤はB2Bにおけるマーケティングの領域と言えるでしょう。

ちなみに調査会社に依頼すると「防災設備市場」「セキュリティシステム市場」などと、商品軸や「賃貸ビル市場」などという顧客を大括りにした市場の情報しか出てこないものです。それに対して、営業担当者は顧客の目的、用途、背景などまで直接話をして深掘りしたので、「ビルの付加価値を高めたいビルオーナー向け市場」というようなこの企業オリジナルの市場を定義することができたのです。これはまさに顧客インサイト(深層心理)を掴むからこそできるマーケティングだと思います。

営業部門も交え、顧客の深層心理からマーケティングを考えてみよう!

一般的に、商談情報等の営業情報は、「その商談をどうやって受注するか」ということに使われています。それはもちろん大事なことですし、これからも継続していくべきことです。

ただ、そのことだけを目的にした情報では、なかなかその背景や見えていない顧客の深層心理まで考えをめぐらすことは難しいものです。事例の企業でも、あえて営業担当者と商品担当技術者が集まって「マーケティング」という視点から自分達の持っている情報を元に再考したことで、新しい市場を発見することができました。

4月から新年度を迎え、マーケティング戦略を再考するB2B企業も多くあると思います。その際には、営業部門も交え、彼らが持っている商談情報を活用されてみてはいかがでしょうか。市場分類やマーケティング・ミックスなどで、新しい発見があるかもしれません。

 

参考「5 Reasons Why Your Sales Team Are Your Most Valuable Qualitative Research Asset」(Brandwatch, March 9 2017)

モバイルバージョンを終了