トライツコンサルティング株式会社

B2B営業にリーダーシップ論を取り入れるということ

Businessman hand writing is Leadership in you on a transparent wipe board

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学問の世界では、昔からあった分野に別分野の考え方を取り入れる、いわゆる学際的アプローチで新しい発見が生まれることがあります。

例えば、経済学に心理学の考え方を取り入れた行動経済学、物理学の考え方を取り入れた物理経済学、生物学の考え方を取り入れた進化経済学など、元々の学問に別の学問を融合させることで新たな学際分野として誕生しています。昨年のノーベル経済学賞は、意思決定理論と経済学が融合して生まれたゲーム理論、そこからさらに派生した分野である契約理論の研究に対して与えられました。

そんな中、B2B営業とリーダーシップ論という学際的(?)なアプローチによる面白い調査結果が最近発表されました。

今回のトライツブログでは、「B2B営業×リーダーシップ論」について考えてみたいと思います。

顧客は営業行為とリーダーシップ行為のどちらを好むのか?

アメリカで企業向けにリーダーシップ教育サービスを提供しているPeople First社が、サンタクララ大学と共同で調査を実施しました。その内容は、530人のB2B購買担当者に一般的な営業行為とリーダーシップ論に基づいた行為とをランダムに見せて、どちらの行為をする営業担当者と会いたいか、どちらの行為をする営業担当者から購入したいかを尋ねるというものです。(People First:What Buyer Research Indicates You Can Do to Open and Close More Sales

調査結果:顧客は解決策を売り込まれるのではなく、共創したいと思っている!

調査結果1:B2B購買担当者は一般的な営業行為よりもリーダーシップ論に基づいた行為30項目すべての方が好ましいと感じ、そのような行為をする営業担当者とより会おうとするし、その営業担当者から買おうとする

調査結果2:リーダーシップ論に基づいた行為30項目の中で、B2B購買担当者が高い得点を付けたのは「解決策を創造することに巻き込む」こと

調査結果1についてレポート記事は「驚きはない(Not surprising)」とそっけないのですが、調査結果2についてはかなり熱のこもった調子で解説しているので、抜粋して紹介します。

購買担当者はてんこ盛りの解決策なんか求めていないし、売り込まれたくなんかない。営業担当者からの一方的な洞察なんかもとめていないし、どれだけ正確で賢明であったとしても売り手のアイデアに圧倒されたいとは思っていない。

 

お仕着せの洞察をもらうより、購買担当者は営業担当者と一緒にブレストして洞察を共創したいと思っている。営業担当者にとって、購買担当者のアイデアを受け入れて双方向の対話をおこなうことがより重要になっている。だから、購買担当者と信頼関係を構築し、真のつながりを作ることが営業担当者の利益となる。

C.K. プラハラードが『コ・イノベーション経営』(東洋経済新報社)で10年以上前に予測した変化に、B2B購買担当者もまた直面している。「消費者は、自分たちが欲しているものを作り出すことに参加できるビジネスへ乗り換えていくだろう」

今回の調査結果のポイントは
「顧客は、一般的な営業行為よりもリーダーシップに基づく行為の方を歓迎する」
「その中でもっとも歓迎するのが、顧客を解決策づくりに巻き込むこと」
の2つでした。

この結果だけを見ると、顧客は「売り込む」とか「提案する」ということよりも、リーダーシップを発揮して課題解決に向けてグイグイと引っ張って欲しいと思っているように受け取られがちですが、実はここにちょっとしたカラクリがあるのです。

リーダーシップには類型がある

一口にリーダーシップ論と言ってもさまざまな種類があります。書店のビジネス書コーナーで「リーダーシップ」の棚を見ると、たくさんの本が並んでいます。すべてを精緻に類型化するのは難しいのですが、分かりやすいのはハーシーとブランチャードのSL(Situational Leadership)理論です。この理論では、リーダーシップは以下の4つに分類されます。

People First社の調査で使われている「リーダーシップ論に基づいた行為」とは上の4分類のうち、「参加型リーダーシップ」に当てはまるでしょう。ベースとなっているのは日本語訳も出ているリーダーシップ論の名著「リーダーシップ・チャレンジ」(James M. Kouzes, Barry Z. Posner、海と月社 2014年)です。これは世界中のリーダーシップのベストプラクティスを30年以上の研究の末、10の原則にまとめたものです。この10の原則をもとに具体的な行為を30項目抽出し、インタビューしたのが今回ご紹介している調査です。

従って、調査対象になった顧客は「ちゃんと話を聞いてくれて、どうすれば良いか意思決定してくれるように支援してくれるのは好ましい」という反応だったと思われます。

B2B営業への学際的アプローチ:リーダーシップの考え方を取り入れる

一般的な営業活動をリーダーシップの4類型に分類すると、「教示的リーダーシップ」や「説得的リーダーシップ」に当てはまることが多いでしょう。それが上手い人が売れる営業担当者とされてきたように思います。
しかし、トライツは現場で営業のしくみづくりや実践支援をしている中で、「顧客と一緒に考える」というスタンスの重要性、有効性をお伝えしています。そこで大切なことは「顧客に動いてもらうために、顧客をリードする」という気持ちです。

ただその気持ちを「教示的」だったり、「説得的」に伝えてしまうと、「一緒に考える」というそもそものスタンスが崩れてしまいます。この調査結果を読んで、改めて我々が大切だと考えていたのは、リーダーシップ論という視点から考えると「参加型」であることが大切なのだと思いました。これは単に「一緒に考える」と言われるよりもわかりやすい面があるので、今後活用していきたいと考えています。

このようにB2Bの営業だからと言ってマーケティングやセールスの分野だけに着目するのではなく、今回のようにリーダーシップ論の知見を活用できる可能性が見つかったこと、これも我々にとって一つの発見でした。

営業のヒントは一見関係ない分野にも眠っている

リーダーシップには、相手を動かして変革に取り組み、チームとしての成果を上げるという大目的があります。そしてこの大目的は、顧客を動かして購買という新しい意思決定に取り組み、受け取った商品・サービスを活用して目的を達成する、と読み換えればB2B営業であっても同じだと言えるのではないでしょうか。そのように考えれば、B2B営業にリーダーシップ論の考え方が役立つというのはすんなりと理解できる気がするのです。

B2B営業というビジネス分野は、まだ日本では成長途上で参考になる書籍は多くありません。それに対し、リーダーシップは経営学の中でも相当に研究が進んでおり、さまざまな書籍が刊行されています。B2B営業で新しいヒントが欲しいとき、一度リーダーシップ関連のコーナーに立ち寄って、気になる本を手にとって見てはいかがでしょうか。「営業には関係ないや」と思っていたその本の中に、役立つヒントが眠っているかもしれません。

 

参考:「What Buyer Research Indicates You Can Do to Open and Close More Sales」(People First、Jan 25, 2017)

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