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B2Bマーケティングについてさまざまな調査結果が世界中で発信されています。それらの調査結果を見ると、数年前は最新のトレンドであったコンテンツマーケティングは、B2Bオンラインマーケティングの領域で着実に根を下ろし、さらに発展していく気配を見せています。
が、それは本当の姿なのでしょうか?
今回のトライツブログでは、最新の調査結果を参考にしつつ、国内B2B市場でのオンラインマーケティングの実態と今後について考えてみたいと思います。
「オンラインマーケティング」「コンテンツマーケティング」は2016年も注目のキーワードだが…
オーストラリアのオンラインマーケティング代理店であるGreen Hat社が、ADMA(オーストラリアマーケティング協会)と共同で実施した調査レポート「2016 B2B Marketing Outlook Report」を発表しました。B2B企業448社のマーケティング担当者に対してさまざまなアンケートを取ったところ、オンラインマーケティング特にコンテンツマーケティングの重要性がより高まっているということです。
以下、レポートの主なデータを抜粋してご紹介します。
- 2016年のマーケティング予算が2015年より増えると回答したのは40%(2015年と同等と回答したのは51%)。
- マーケティング予算全体のうち、従来どおりのオフラインマーケティングに対するものは19%のみ。残りは、オンラインマーケティングが31%、コンテンツマーケティング17%、マーケティングオートメーション9%など。
- 94%が、B2Bマーケティング戦略の中でコンテンツマーケティングは「とても重要」まはた「重要」と回答している。
トライツブログではアメリカの調査レポートをご紹介することが多いのですが、このようにオーストラリアでもオンラインマーケティングそしてコンテンツマーケティングの隆盛は確かであり、今後注目のキーワードであることは確実なようです。
しかし、ご紹介した「オンラインマーケティング」や「コンテンツマーケティング」の「伸び」「重要性」という表現には、日本の現状を知っている我々からすると少し『違和感』をおぼえます。
国内B2B市場でオンラインマーケティングは様子見モードに?
ちなみに、国内のB2B市場において、新聞や雑誌で成功事例が紹介されたという話はほとんど耳にすることがありません。また、6月29日~7月1日に開催されたコンテンツマーケティングの展示会『コンテンツ東京 2016』にも足を運んでみたのですが、大手広告代理店などの大手企業の出展数が少なく、以前のような「新しいトレンドがまさに今ここで生まれている!」という熱気はあまり感じられませんでした。
海外と国内のこの差は何?と驚くほどです。もちろん日本でも一部の企業は既に取り組んでいますが、それ以外のほとんどの企業は「様子見モード」に入ってしまっているように見えます。
オンラインマーケティング導入の温度差の原因はしくみの違い
この根本的な原因はB2B営業・マーケティングにおける「しくみ」の差であると考えています。
アメリカは広い国土に多くの大都市があり、主要な企業がさまざまな都市に散在しているという地理的環境があります。そのため、DM(ダイレクトメール)やテレマーケティング、展示会などのシステマチックなB2Bマーケティング手法が主流でした。大量に仕掛けて(または集めて)その中から反応のよい見込み客を、セールスレップと言われる営業がフォローするというやり方です。
そんなアメリカではWebがどんどん普及する中で、DMの高い発送費用や年々低下するレスポンス率、高まる個人情報保護への意識などにより、コストが安く、注目度の高いオンラインマーケティングに切り替わるというのは自然の流れだったわけです。これはマーケティングの責任者で意思決定できることですし、その効果もわかりやすいものでした。
それに対して、日本は国土が狭く、かつ東京や大阪などごく一部の都市圏に主だった企業が集まっています。そのため、狭いエリアを効率的にフォローできるチャネル営業網が発達してきました。そのチャネル営業が普段の営業活動もやりながら、新規問い合わせへの対応などのマーケティング活動もフットワーク軽くおこなってきたのです。もちろん日本のB2B企業もDMやテレマーケティング、展示会をやっています。しかし、実質的な商談の創出はチャネル営業に大きく依存している企業が多いというのが現実です。
チャネル営業体制は自社のグループ会社であったり、グループ会社でなくても資本が入っていたり、長年の付き合いや人的交流があったりと、他の施策が良さそうだからといってマーケティング担当者の判断で容易に置き換えられるものではありません。DMや展示会のような一回こっきりのコストではなく、マーケティングのしくみそのものが自社にとって大きな固定資産になっているのです。
その上で新しいことをやろうとすると、既存のしくみとは別に追加で導入する「アドオン施策」としての導入になるので「費用対効果は?」「エビデンスは?」などという話になってしまいます。そこが上手く乗り越えられないので、結果として「様子見モード」になっている企業が多いのではないでしょうか。
顧客の購買の変化に合わせた、日本独自のしくみを考えよう
メリットを比較してマーケティング担当者の判断でバッサリと置き換えのできるアメリカと、追加投資に見合った成果を見えるようにしないと導入の意思決定ができない日本。これは日米のマネジメントの違いではなく、これまで構築してきたB2B営業・マーケティングのしくみの違いによるものであると考えるととてもわかりやすいように思います。
しかし、これまでのトライツブログでも述べてきたとおり、日本でも顧客の購買のしかたは変わってきており、よりWebの情報を活用するようになってきています。企業としてWebを使った情報発信の重要性が高まることは間違いないでしょう。
そのため、日本のB2B市場では、アメリカ流のオンラインマーケティングやコンテンツマーケティングをそのまま移植したものではなく、Webとリアルのチャネル営業網をうまく融合させた日本独自のしくみを考えなくてはいけないように感じています。例えばいきなりエンドユーザー向けにコンテンツ提供を行うのではなく、チャネルの営業担当者向けに教育の一環や、客先でのコミュニケーション・ツールとしてコンテンツを提供するというようなこともユニークで日本らしいのではないでしょうか。
また、形骸化しているチャネルのしくみなどをリストラし、新しいB2B営業・マーケティングに取り組めるコストを捻出することができないか考えてみることも大切なことだと思います。
B2B企業として、これまでの資産をうまく活用しつつ、Webを重視する顧客に合わせたコミュニケーションのやり方を見つける必要があるのです。