この記事を読むのに必要な時間は約 7 分です。
社会人として仕事をしていると、新たに出会った人とは必ず名刺交換を行います。一人の人と出会うと手元の名刺フォルダに1枚の名刺が追加され、自分の名刺が1枚減ります。ということは、当たり前のことですがその人が持っている名刺の数というのは仕事をしている中で出会った人の数です。
一般的に営業担当者というと、いろんな会社に訪問して名刺交換をするので、他の部署よりも人に出会う機会が多いはず。しかし、B2Bの営業において、特に販売ルートが決まっている「ルートセールス」と呼ばれる営業担当者においては、大手企業を何年も担当しているのに限られた相手にしか会っていないということが少なくありません。
今回のトライツブログでは、営業が顧客からもらう名刺の数から見えてくることを考えてみます。
事例:「長年担当している顧客の名刺が5枚だけ」
先日、ある会社(以下、A社)の営業会議に参加してきました。A社の営業担当者は、ターゲット顧客(以下、X社)での商談発掘のために、X社の既存窓口担当者向けにいろいろな興味付けをおこなってきました。その甲斐あっていくつか商談が出てきたのですが、小ぶりなものばかりだったので期待外れという結果でした。
この内容を営業会議で報告したところ、「既存窓口の商談は失礼ないように対応しつつ、もっと別の窓口に働きかけて、規模の大きな商談を発掘するように」という部長からの指示が。
そこで、可能性のありそうな窓口を棚卸ししようということになり、X社を担当して3年になる営業担当者に「X社の方の名刺を何枚お持ちですか?」と質問したところ、返ってきた答えが「今までにもらった名刺はこの5枚です・・・」と。
それを見せていただくと、日頃接している購買担当者とその上司、購買担当者がお休みの時に代理で対応してくれた購買部門の方、後は以前にトラブルが発生した際にお会いした開発担当者が2名という内容でした。
この営業担当者はとても真面目な方で、X社からの信頼も厚く、しっかり成果も上げてきていました。ちなみにA社の取り扱い商品はかなり幅広く、X社に対してはもっといろいろなルートから売れるチャンスを作れるはず。しかし、見せていただいた名刺からはそのような取り組みの形跡は全く見えなかったのです。
営業担当者の工夫で顧客の名刺は増える
ここで、改めて考えてみたいのですが、顧客の名刺が増えるというのはどういうことを意味するのでしょうか?
長年担当している顧客であっても、出来上がったルーチンで仕事を回しているだけだと、組織変更や担当替え以外で名刺が増えることはほとんどありません。逆に考えると、顧客の名刺を増やすことができているというのは営業担当者が日々の活動の中で何らかの新たな働きかけをしている証拠なのです。
たとえば先ほど紹介したA社は部品メーカーですので、自社商品・技術紹介の勉強会を顧客の研究所や開発部門向けにおこなうことがあります。このような場を設けることによって、今までに出会えなかった人からニーズを聞き出して新しい商談の種を発掘したり、今進めている商談に関係するキーマンと話をして商談の不安要素を取り除いたりしているのです。こういった工夫によって顧客の名刺が増えていきます。これが新たな働きかけの最初に目に見える成果です。
これに対して、そんなことを全く仕掛けられていない営業担当者に話を聞いてみると、「そんなことをしなくても売れてる」「忙しくてそんなことをしている余裕がない」「顧客が忙しい」「そもそも自社には今以上のことを期待されていない」「競合がしっかり入り込んでいるので無理」などいろいろな理由が返ってきます。もちろんいろいろ事情はあるでしょう。ただ、一つだけはっきりわかることは、顧客側から見た自社の営業活動はワンパターン化しているということです。もし工夫をしていれば、それは今までと違う人との出会いにつながりますし、それは名刺の数を増やすことになっているはずです。
このように考えると「顧客の新しい名刺の数は、営業の工夫のバロメーター」だと言えるでしょう。
ただの名刺コレクションでは意味がない
とはいえ、ただ名刺を集めることに意味はありません。
著述家・編集者の石黒謙吾氏は著書『7つの動詞で自分を動かす 言い訳しない人生の思考法』の中でこのように述べています。
”人脈は『作って』から仕事するんじゃない。仕事して『残る』もの”
「ご挨拶だけさせてください」と言って名刺交換はしたものの、本当にご挨拶しただけになってしまった顧客の名刺や、短時間でたくさんの人と名刺交換する社外の勉強会や交流会でもらった名刺など、集めはしたものの名刺ケースの肥やしになってしまっている沢山の名刺。これらの多くは人脈と呼べるものではありません。
顧客と苦労して製品開発したとか、トラブル対応した、共同で大口顧客を攻略したなど、一緒に仕事をすることで本当の人脈となり、ヒジネスの広がりにつながるのです。名刺交換はあくまでもそのための最初の一歩、入り口です。
従って、名刺を集めることに意味はありませんが、名刺の数は新しく顧客のドアをノックしたり、新たな働きかけをすることで、最初の一歩を踏み出したか、入り口に立ったかどうかのバロメータとして見ることができるのです。
「最近、新しい名刺もらっている?」
そこで、売上が伸び悩んでいる営業担当者に「工夫しているか?」と聞くのではなく、「新しく名刺が増えているか?」と聞いてみてはいかがでしょう。「工夫しているか」と聞かれて「工夫していない」という営業はほとんどいません。そうではなく、新しく増えた名刺の数やその内容(部署、役職)を確認することで、その営業担当者が工夫をしているか、それが上手くいっているかを知ることができます。
ただし、くれぐれも要注意なのは、いつの間にか「名刺を集める」ということが目的化してしまうこと。目標管理制度の導入で何でも数値化して測れるように・・・と徹底している会社がありますが、目的から外れてしまうことによる弊害も沢山出ています。
あくまでも営業の工夫の結果としての名刺の枚数に着目することをお忘れなく。