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米国に本社を置く、B2Bマーケティングのリサーチ団体であるITSMA。2017年に向けた世界各国のB2Bマーケティング部門の抱える課題についての調査を行っています。それについて米国のBusiness 2 Communityで面白い記事 (You May Be Surprised at the #1 B2B Marketing Responsibility of 2016) を見つけましたので、今週のトライツブログではその記事を紹介しながら一緒にB2Bマーケティングにおける課題を考えてみたいと思います。
記事の冒頭ではこのように記載しています。
ITSMAが最近行った調査で、世界各国のB2Bマーケティング部門の85%が、2年後には「顧客を理解すること」が最重要項目になると考えていることがわかりました。
トップ3にはそのほか、「マーケティング技術・ツールの管理(76%)」、「市場や競合企業の分析(75%)」 が上がっています。
マーケティング部門が利用できるテクノロジーの数は膨大であり(米国のマーケティング専門家スコット・ブリンカー氏によると2015年2月の段階で1,876社)、ITリサーチ会社であるガートナー(Gartner)社の「2017年までに、CMOはCIOよりも高い費用をITに使うようになる」という見解と合わせれば、「マーケティング技術・ツールの管理」が上位に入ったのも納得です。
驚きを隠せないのは、2016年の重要事項として「顧客を理解する」ことがトップに躍り出たことでしょう。2014年11月の時点でのトップ3が「ブランディングとポジショニング」「見込み客の発掘」「顧客とのコミュニケーションによるブランド強化」であったことを考えると、この変化は大きなものです。
確かに改めてB2Bマーケティングにおける重要事項が「顧客を理解する」ということになったのは驚きです。それだけ顧客が変わっている、理解できていないという認識があるということです。
なぜ、今「顧客を理解する」が重要なのか
更にこの記事ではこのように書いています。
調査結果を読み解く1つの観点として、B2Bの購買活動が根本的な変化を遂げたということがあります。
フォレスター(Forrester)社やガートナー(Gartner)社といったリサーチ会社は「現在の購買部門は、よりデジタル化され、より複雑になった購買活動を行っている」と述べています。「B2Bの購買には、平均で7人が関与している」と、IT調査会社のIDCは言います。また、アバディーングループ(Aberdeen Group)という調査会社は、売り手とコンタクトを取りながら、市場にある商品の調査を買い手が独自に行う「隠れたセールスサイクル(hidden sales cycle)」という言葉を生み出しました。
米国でもB2Bの購買には平均7人が関与しているとのことですが、組織の階層が深く、縦割りな日本企業では更にその人数は増えるのではないでしょうか。その多くの人が関係する複雑な意思決定プロセスが、営業担当者には見えることなく、ここでいう隠れたセールスサイクルとして進んでいくのです。だからこそ、あえて「顧客を理解する」ということが重要だと感じているということのようです。
その上で、Webと従来からのF2F(Face to Face)の営業をどのように複合させて、顧客の購買活動を支援していくかを考えていかねばならないのです。
変わりゆく顧客の購買活動の中で、営業担当者の存在価値をどう考えるか
そこで思い出したのが、クリントン政権下でゴア副大統領の首席スピーチライターを務めたダニエル・ピンク氏の著書である「人を動かす新たな三原則」です。彼はこの本の中で、このようなことを書いています。
優れたセールスパーソンは問題解決に長けた人だと、長年にわたり言われてきた。見込み客のニーズを見積もり、窮状を分析し、最前の方法を打ち出す。このような問題解決能力は今でも重要だ。しかし、特定の人だけではなく誰もが情報を豊富に入手できる現代社会では、その能力の重要性は以前よりも低い。要するに自分の問題を正確に把握していれば―あるタイプのカメラを買いたいとか、三日間の休暇をビーチで過ごしたいとか―たいていは誰の助けも借りずに、自力で必要な情報を探して決断を下せるものだ。一方で、本当の問題を取り違えているとき、はっきり把握していないとき、あるいは皆目見当がつかないときに、他者の助けは大いに役立つ、そのようなとき、人の心を動かすために重要なのは、他人の問題を“解決”する能力よりも問題を“発見”する能力なのである。
このように問題を発見する能力の重要性を述べています。確かにこれは人間がF2Fでコミュニケーションしたり、知見のある人が現場を見て回ったりすることでしかできることではありません。
Webと営業担当者が連携して顧客の購買活動を支援する
そこでは従来の営業担当者において重要だと言われてきたこととは少し異なる「専門性」が重要になると思います。それを一人で全て持ち合わせるというのは簡単なことではないので、今まで以上にチームで仕事をすることの重要性が高まるでしょう。
また、コンサルタントやアドバイザーと違ってあくまでも「営業担当者」なので、その「専門性」を活かして顧客の役に立つだけでなく、自社の商品・サービスの売上につながるように導かねばなりません。実はそこがF2Fで一番難しいところであり、かつ面白いところでもあり、そしてなかなか誰も教えてくれないことでもあるので、営業部門としてまだまだ探求しなければならない課題のように思います。
これからのB2Bマーケティングを考えていく上で、変わりゆく顧客の購買活動を理解し、片方ではWebを中心にそれに合わせた情報発信をしていくか。そしてもう片方でF2Fでしかできない付加価値を提供できるように営業担当者の専門性を高めていくか。この両方を追求し、顧客の購買活動を自社商品・サービスの購買へと導いていくことが重要なのです。