この記事を読むのに必要な時間は約 10 分です。
「いいですね。社内でも相談してみます」
商談でこう言ってもらえると、「これは進みそうだ」と期待するものです。ところが、翌週連絡しても「まだ社内で確認中です」。さらに時間がたっても返事は変わらず、営業会議では「感触はいいのですが、もう少しかかりそうです」と報告することになります。
追加の資料を送った方がいいのか、価格を見直すべきなのか、それとも今は待った方がいいのか。担当者が前向きなだけに、次に何をすればよいのか迷ってしまうのではないでしょうか。
こうした商談を考えるとき、手掛かりになるのが、顧客の社内で「何が決まっていて、何がまだ決まっていないのか」という視点です。担当者が気に入ってくれていても、社内で購入を決めるための確認が残っていることもあるからです。
そこで、今回はB2Bの営業・マーケティングを支援する6senseの調査記事をもとに、顧客が購入を決めるまでの「2段階の合意」と、営業ができることを考えてみます。
営業に会う前に、有力な候補が決まっていることもある
さて、みなさんは初めて会った顧客から、いきなり詳しい仕様や納期、見積の話をされたことはありませんか。こちらは会社紹介や課題のヒアリングから始めようとしているのに、相手はずいぶん先の話をしている。そんな場面です。
顧客は、営業と会う前から情報を集め、社内で相談していることがあります。こちらにとっての初回商談が、顧客にとっては、すでに選んだ候補を詳しく確かめる場になっているのです。
6senseが2025年に公表した記事では、3年間、約1万人のB2B購買担当者への調査を背景に、次の結果を紹介しています。
- 94%の購買グループが、営業と話す前に候補企業の優先順位をつけている。
- 営業と接触する前の選定段階で第一候補だった企業が、最終的にも選ばれる割合は77%。
ここでいう「購買グループ」とは、購入の判断に関わる人たちのことです。窓口の担当者だけでなく、実際に使う現場、技術面を確認する人、予算を承認する上司などが含まれます。
この数字を見ると、「営業が会うころには、ほとんど決まっているのか」と思うかもしれません。しかし、一方では社内の合意に役立った活動として最も多く挙がったのも、営業担当者との会話でした。
すでに有力な候補があるのに、なぜ営業との会話が必要なのでしょうか。その理由を、同記事では「合意する場面が2回ある」と説明しています。
「この会社がよさそう」と「この会社で進めよう」の間にあるもの
1回目は、「この会社を第一候補にしよう」という合意です。
営業と話す前に情報を集め、候補を比較し、社内で相談して「この会社がよさそうだ」と方向を決めます。
2回目は、「この内容・条件なら、この会社で進められる」という合意です。
営業とのやり取りや実物の確認、費用・導入条件のすり合わせを通じて、最初に選んだ候補で問題がないかを確かめます。同記事は、営業との対話が、この2回目の合意を支えると捉えているのです。
例えば、新しい設備の導入で、社内の関係者が「A社を第一候補にしよう」と合意したとします。それでも、発注に向けて話を具体化すると、「切り替えには何日かかるのか」「現場の操作教育はどうするのか」「見積以外に費用は発生しないか」といった確認が必要になります。
この段階では、A社の設備を評価していることと、安心して発注できることの間に、まだ少し距離があります。その距離を埋めるために、営業の説明や資料が必要になるわけです。
こう考えると、「社内で確認中です」という返事の受け止め方も変わります。まだ候補を比較しているのか、それとも候補は絞れていて、具体的な条件を確認しているのか。同じ言葉でも、営業が用意するものは違ってくるはずです。
担当者の反応に加えて、社内の関係者がどこまで話を進めているかにも目を向けると、次に手伝えることが見えてきます。
同じ「費用が気になる」でも、必要な説明は違う
顧客の社内事情を考えるとき、「現場は使いやすさ、購買部門は価格、上司は費用対効果」と、部署ごとに関心を分けて考えたくなります。
ところが6senseの調査では、購買に関わる役割が違っても、購入先を選ぶ際に重視する項目は似ていました。特に上位に挙がったのは、製品・サービスの機能、導入のしやすさ、価格です。
ただし、同じ項目を重視していても、確認したい中身まで同じとは限りません。ここからは、普段の営業の場面に置き換えて考えてみましょう。
例えば、「費用が気になる」と言われたときも、競合他社より高いことが気になるのか、導入後まで含めた総額がわからないのか、それとも上司に金額の妥当性を説明できずにいるのかで、必要な対応は変わります。
上司への説明に困っているのであれば、現在の費用との違いや、導入後に減らせる作業を一枚にまとめると役立つかもしれません。追加費用が心配なのであれば、見積に含まれるものと、別途費用がかかるものを明確にする必要があります。
「導入のしやすさ」も同様です。現場の担当者は操作を覚える負担を気にしている一方で、管理職は切り替えによって業務が止まらないかを心配しているかもしれません。
大切なのは、「価格が課題」「導入に不安あり」という言葉から、もう一歩踏み込むことです。誰が、何を確かめられれば判断できるのか。 そこまでわかると、説明すべき内容が具体的になります。
次の商談で確かめたい、3つのこと
では、いつもの商談で何を聞けばよいのでしょうか。まずは、返事待ちになっている案件を一つ思い浮かべ、次の3つを確認してみてください。
1.今、どこまで決まっているのか
最初に、顧客が候補を選んでいる途中なのか、選んだ候補について具体的な条件を確認している途中なのかをつかみます。
例えば、こんな聞き方ができます。
「今は各社を比較されているところでしょうか。それとも、ある程度候補を絞って、具体的な条件を確認されているところでしょうか」
候補を比較しているなら、選ぶための判断材料が必要です。候補が絞れているなら、残っている疑問や条件を一緒に確認することが、商談を進める助けになります。
2.この後、誰が何を確認するのか
担当者から「上司に相談します」と言われたら、その上司が何を確認するのかまで聞いてみましょう。
「上司の方は、今回の件ではどのような点を確認されそうですか」
費用なのか、導入する必要性なのか、切り替えの時期なのか。それがわかれば、担当者が相談するときに使える材料を用意できます。
利用部門や技術部門の確認が必要な場合も同じです。関わる人と、その人が気にしていること、まだ確認できていないことを、手帳や案件メモに書き留めておくだけでも、次に聞くべきことが整理できます。
3.社内で説明するために、何が足りないのか
営業の説明を聞いて納得できても、担当者が同じ内容を社内で説明できるとは限りません。商談で使った資料を、そのまま渡せば十分とも限らないでしょう。
そこで、こんな質問を添えてみます。
「社内で説明されるときに、今の資料で足りないところはありますか」
比較のポイントがわかる一枚なのか、切り替えまでの日程なのか、費用の内訳なのか。担当者が困っているところを聞き、一緒に説明の準備をするのです。
この3つの中で、今の案件について答えがわからないものを一つ選んでみてください。それが、そのまま次の商談で聞いてみる質問になります。
顧客が「社内で決められる状態」をつくる
商談が具体化する前から、役立つ情報を届けたり、問い合わせに丁寧に答えたりすることは、「相談するなら、この会社」と思い出してもらうための積み重ねになります。そして商談が始まった後は、顧客が安心して判断できるように、残っている疑問や懸念を確かめていくことが大切です。
もちろん、確認の結果、条件が合わないとわかることもあるでしょう。そのときは、難しい点を率直に伝え、条件の変更や別の方法を一緒に考えることも必要です。
普段行っている説明資料づくりや、導入時の質問への回答、関係部門との打ち合わせも、「顧客の社内で、どの判断を助けるためなのか」を考えると、目的がはっきりします。
「提案した」「見積を出した」という営業側の進み具合に、顧客側の「何が決まり、どの確認が残っているか」を重ねてみる。そうすると、返事を待つ間にも、手伝えることが見つかるかもしれないのです。
そこで、次に連絡するときは「ご検討状況はいかがですか」に、もう一つ質問を添えてみてはいかがでしょう。
「社内で進めるうえで、今、どの点の確認が必要でしょうか」
その答えによって、次に持っていく資料や、一緒に話したい相手が変わってくるはずです。
参考:「Getting to Yes: Why Vendors Win & How Buying Groups Agree」(Kerry Cunningham, Sara Boostani, 6sense, 12 November, 2025)
