トライツコンサルティング株式会社

AI時代の今、営業が手間をかけてまで顧客の話を「ヒアリング」する価値とは

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机に置かれているアヒルのおもちゃへ、プログラマーが自分で書いたコードを一行ずつ説明する。すると、黙っているアヒルを相手にしているのに、自分で間違いに気づく。これは変わり者のプログラマーについてのお話しではなく、昔からある問題解決(デバッギング)の技術で「ラバーダック(おもちゃのアヒル)デバッギング」と呼ばれています 

商談でも、これと似た瞬間があります。お客さんが話の途中で少し黙り、「いま口にしてみて分かりました。問題はそこじゃないかもしれません」と言い直す。そんな場面に立ち会った人もいらっしゃるのではないでしょうか。 

一方、事前アンケートやAIでも、課題や予算、導入時期といった情報を集めることはできます。決まった質問を順番に聞いて記録するだけなら、「営業が時間をかけて聞く意味は?」と言われても仕方ありません。 

ヒアリングの価値は、回答欄を埋めることではなく、お客さんがまだうまく言葉にできていないことを、一緒に整理することにあります。そのために営業は何をすればよいのか。2つのコツを見ていきましょう。 

人は「説明するつもり」になると、考え方が変わる 

冒頭のシーンでプログラムの問題解決をしているのは、もちろんアヒルのおもちゃではありません。相手に分かる順番で説明しようとするプログラマーの脳内で問題の原因と解決策が浮かび上がっているのです 

心理学者のジョン・ネストイコ氏らは、文章を読む前に「後で人に教える」と告げられた学生と、「後でテストをする」と告げられた学生を比べました。前者は文章の重要なポイントをよく思い出し、元の文章に近い順序で内容を整理していました。 

この研究が示唆するのは、誰かに教えるつもりで文章を読むと、覚え方や整理の仕方が変わるということこれを営業の場面に置き換えてみましょう。営業担当者に説明しようとすることで、お客さんの頭の中で情報が整理し直され、重要なポイントが明確になりやすくなると考えられそうです 

だから営業担当者は、顧客が話すの黙って聞いているだけでは不十分。お客さんが具体的な出来事をたどり、自分の言葉で状況を組み立てられるように、問いと確認を返して脳内が整理されるのをお手伝いするのです 

最初の要望より、「そう思ったきっかけ」を聞く 

別の例を見てみましょう。 

図書館で利用者からの質問を受けて、蔵書を調べてくれるのが司書さん。その司書さんが調べものをするとき、利用者の質問をそのまま文字通りに捉えて調べ始めたりはしないそうです。米国図書館協会のガイドラインも、利用者に自分の言葉で十分に話してもらい、目的を確かめ、司書が理解した内容を言い換えて確認するよう勧めているのだとか 

商談なら、こんな具合です。 

お客さん:「業務を効率化したくて、ツールを探しているんです」 

営業:「効率化を考え始めたのは、何かきっかけがあったんですか?」 

お客さん:「先月、ベテランが一人退職して、その人の仕事が止まりかけまして……」 

営業:「実際に、どんなことが起きたのでしょう」 

お客さん:「月末の処理が二度遅れました。手順はあるんですが、例外への対応が誰にも分からなかったんです」 

営業:「すると、作業時間を短くすることより、担当者が替わっても例外に対応できる状態をつくるほうが先でしょうか」 

お客さん:「そうですね。まずは引き継げる形にしたいです。速さはその次です」 

「効率化」という言葉で考え始めていたら解決策はAIなどを使ったワークフロー周りのツール紹介で終わっていたでしょう。きっかけ、起きた出来事、影響の順にたどり、営業が自分なりに理解した内容を返して確認を求める。お客さんがそれをさらに直すことで、本当の問題がお客さん自身にも見えてきます。 

まとめる前に、さらに続きを話してもらう 

「最近、現場がバタバタしていて」と聞くと、「人手不足ですね」とまとめたくなります。ここで営業が答えのようなものを提示してしまうと、お客さんは営業の筋書きに合わせて答えることになり、自分で考える時間が短くなります。 

そんなときは、「バタバタというのは、最近のどんな場面でしょう」と具体的な中身を話してもらいましょう。お客さんが月末の作業、確認待ち、やり直しを一つずつ話した後で、「人数よりも、誰が確認するか決まっていないことが問題でしょうか」と仮の理解を返す。違っていれば、お客さんに直してもらえばよいのです。 

大事なのは、営業が正解を当てることではありません。お客さんと一緒に、話の焦点を合わせていくことです。 

「聞いた項目」ではなく、「一緒に整理できたこと」を残そう 

事実を集めるだけのヒアリングなら、WebフォームやAIでも扱える場面があります。だからこそ、営業が同じ仕事を人力でやるだけでは、価値にならないどころか営業にとっても顧客にとっても、時間の無駄になりかねません 

営業がその場にいる意味は、業界や社内事情の文脈を踏まえて問いを返し、お客さんの言い直しや迷いを受け止め、次に考えるべきことを一緒に決められる点にあります。 

次の商談では、最初の要望を聞いたあとに、「そう考えたきっかけは何でしたか」と少し先へ進んでみてはいかがでしょう。お客さんが続けて話した先に本当に喜ばれる提案の出発点が見つかるかもしれません。 

参考:
「The Pragmatic Programmer」(Andrew Hunt, David Thomas, 1999)
「Expecting to teach enhances learning and organization of knowledge in free recall of text passages」(John F. Nestojko, Dung C. Bui, Nate Kornell, Elizabeth Ligon Bjork, 2014)
「Guidelines for Behavioral Performance of Reference and Information Service Providers」(Reference and User Services Association, 2023)

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