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明日の商談に向けて、提案書を作り込む。あれもこれもと盛り込んで、徹夜で仕上げる。なのに本番、ひと通り説明したあとのお客さんの反応は——「いいとは思うんですが、なんかちょっと違うんですよね……」。
あれだけ作ったのに、なぜか刺さらない。心当たり、ありませんか。
前回のブログで、世界最大の営業研修「サンドラー・トレーニング」をご紹介しました。プレゼンで「見せすぎない技術」というお話です。今回はその続編。
サンドラーが「提案」について教えていることを、もう一歩深掘りします。手がかりは、大型案件の攻略法をまとめた一冊。この本の中に提案を成功させる8つのヒントが書かれています。
「完璧な提案書」を、一人で作っていませんか?
8つのヒントには、新鮮な事例を使う、その顧客に合わせて解決策を作り込む、その会社ならではの言葉を盛り込む……といったものが並びます。並べて眺めると、共通する一つの考え方が見えてきます。「提案書は、こちらが完成させて納品するものではない」。
8つのヒントはどれも、提案を顧客と一緒に「仕立てる」ためのコツなのです。
イメージは、オーダーメイドのスーツ。既製服を渡すのではなく、お客さんの体に合わせて仕立てる。その仕立て方は2つあります。
- プロセスで寄り添う:採寸や仮縫いのように、作る“過程”にお客さんを巻き込む
- 内容で寄り添う:生地や仕立てのように、“中身”をお客さんに合わせ込む
あなたの提案書は、どうでしょう。順番に見ていきましょう。
「空席」と「仮縫い」――作る“途中”にお客さんを入れる
まずは、プロセスで寄り添うコツです。
サンドラーは、提案書づくりの社内会議について面白いことを言います。「会議室の椅子を、一つ空けておきなさい」。その席は、お客さんの席です。
本人がいなくても「お客さんならどう言うだろう」と意識しながら提案を組み立てる、という教えです。
ここで、トライツとしての提案です。空席を“意識する”だけでなく、書きかけの叩き台を、実際にお客さんに見せてしまいましょう。完成させる前に、未完成のうちに「これ、一緒に見てもらえますか」と机に広げ、その場で一緒に直していく。つまり、椅子にお客さんに座ってもらうのです。
よくあるのは、その逆です。
営業:「(社内に持ち帰って)よし、あとは完璧な提案書に仕上げるだけだ」
完成版を渡す日まで、お客さんは一度も登場しません。提案は、営業チームだけのものになってしまいます。
この「叩き台を見せて、一緒に作り込む」やり方を、サンドラーは「クライアント・フィンガープリンティング」と呼びます。出来上がった提案に、お客さん自身が関わった跡——いわば“指紋”——を残してもらう、という考え方です。
営業:「提案書、まだ途中なんですが……方向性だけ、少し見ていただけますか。ズレていたら、いま直したいんです」
お客さん:「あ、ここに書いてあるのはむしろ逆ですね。うちの本当の悩みは、納期がいつも読めないことで……」
オーダースーツの「仮縫い」と同じです。出来上がってから「サイズが違う」では、一から作り直し。途中で袖を通してもらうから、ぴったりに仕上がります。
指紋がついた提案は、もう「営業が勝手に作ったもの」ではありません。提案書を出す前から、お客さんは半分、あなたの味方になっています。
その提案書、“よそ行きの言葉”でできていませんか?
次は、内容で寄り添うコツです。
サンドラーは、提案書の中身についても具体的に求めます。新鮮でその案件にふさわしい事例を使い、他社に出したものの流用ではなくその顧客のために作り込む。そして、顧客の悩みにまっすぐ応える価値を、その会社ならではの言葉で示す。
この4つは、一つの問いに集約できます。「この提案書、よそでも通用する一般論になっていないか?」
営業:「こちらが弊社の導入事例集です。いろいろな業界の成功事例をまとめています」
立派な資料でも、お客さんはそこに自分の姿を探せません。
オーダースーツが体の寸法から作られるように、提案書はお客さんの言葉から作ります。ヒアリングで出てきた「見積もりまで、何度も社内をぐるぐる回っていて」という言葉を、そのまま書き込む。それだけで、お客さんは「これは、うちの話だ」と感じます。
中身がお客さんの現実でできているか。そこが、読まれる提案書と、放置されてしまう提案書の分かれ目です。
提案書は、一人で抱えなくていい
提案書を一人で完璧に仕上げようと頑張る。その時間も労力も、決して無駄ではありません。お客さんのために本気で考えている証拠です。
ただ、あなたのその力の向け先を、少しだけ変えてみてください。「一人で完成度を上げる」から「お客さんと一緒に仕立てる」へ。採寸から仮縫いまで一緒に進めれば、提案書はあなた一人の作品ではなく、お客さんとの共同作業の成果です。
提案書は、仕上がったものを最後に手渡す“納品物”ではありません。お客さんと一緒に作り上げる“プロセス”そのものです。次の提案では、完成させる前に、書きかけの叩き台をお客さんに見せてみてはいかがでしょう。
まずここから変えてみよう
そして最後にもう一つ、あなたの提案書の「1ページ目」を思い浮かべてみてください。
表紙をめくると、「この度は提案の機会をいただきありがとうございます。よろしくご検討ください」といった挨拶ページを入れることが、当たり前の習慣になっていませんか?
「なぜそれを入れているの?」と質問すると、多くの人から「そういうものでは?」という答えが返ってきます。しかし、そこには「提案はへりくだってお願いするもの」というスタンスが、無意識のうちに表れてしまっているのではないでしょうか。
これは、今回ご紹介した「提案は顧客と一緒につくるもの」という考え方とは、大きく乖離しています。
対等なパートナーとしてお客さまと素晴らしい提案を仕立てていく。そのためには、まずこの「変にへりくだったスタンス」から、意識を変えていく必要があるのかもしれません。
参考:「Sandler Enterprise Selling」(David H. Mattson & Brian W. Sullivan, Sandler Training)
