トライツコンサルティング株式会社

停滞を打破する「顧客とともに描く『商談の登山計画』」

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担当者との打ち合わせでは「ぜひ導入したい」と前向きな言葉をもらっている。PoC(実証実験)の手応えもいい。なのに、そこから先がピタッと止まる……。「何が詰まっているんだろう?」と首をかしげたまま数ヶ月が過ぎ、催促するのも気が引ける。 

大企業向けの営業をしていると、こんなもどかしさは日常茶飯事ではないでしょうか。 

実はこの「見えない停滞」の原因は、担当者のやる気不足ではありません。「登るべき山の険しさ(社内プロセス)に対して、ルート図と装備が足りていないこと」にあります。 

海外では、売り手と買い手がゴールまでの道のりを共有する手法をMAP(Mutual Action Plan=共同推進計画)と呼びます。今回は、顧客を迷わせない「商談の登山計画」の立て方についてお伝えします。 

最大の敵は「競合」ではなく「お客さんの社内」 

大企業向けの商談で最も手強い相手は、競合他社ではありません。お客さんの「複雑な意思決定プロセス」そのものです。 

たとえば、AIを活用した業務効率化システムを導入しようとすると、想像以上に多くの「関所(ステークホルダー)」が現れます。 

特に新しいテクノロジーの導入では、お客さん自身も「どの順番で、誰に話を通せばいいのか」の正解を知らないケースがほとんどです。だからこそ、プロである私たちが「一緒に地図を描きましょう」とガイドすることに価値があるのです。 

商談の「登山計画」を逆算して描こう 

この共同計画を「登山」に例えてみましょう。 普通の営業活動が「とりあえず歩き始めて、分かれ道が来たら考える」ハイキングのようなものだとすれば、共同計画を用いた営業は「山頂から逆算して、途中の難所や天候の変化をあらかじめ想定したルートをお客さんと一緒に引いてから出発する」本格登山です。 

その威力が顕著に出るのが、導入前の「お試し(PoC)」の設計です。 

一般的な営業は、PoCを「製品がうまく動くかの確認」と考え、「まずは現場で工数が20%くらい減れば成功ですね」と、目の前の小さな目標を立てがちです。しかし、これでは仮に成功しても、後から「経営判断を下すにはインパクトが足りない」と却下されるリスクが残ります。 

一方で、一流の営業は「経営層がハンコを押せる基準」から逆算します。「全社導入の決裁には50%の削減実績が必要だ」と最初からゴールを見据え、PoCを「組織として本導入を決めるための合意形成の場」と位置づけるのです。 

もし実験で目標に届かなかったとしても、「期間を延ばして再チャレンジしましょう」と濁すのではなく、「原因はここにあるので、こう改善すれば山頂に届きます」と即座に次の一手を示せる。この視点の差が、停滞を打破する推進力になります。 

今日からできる「登山ガイド」3つのコツ 

大きな計画書を作らなくても、次の3つの視点を持つだけで商談のスピードは劇的に変わります。 

  1. 「この先の岩場」を予告する  
    たとえば製造業なら、「今はDX推進部でのお話ですが、この後、現場から『今のやり方を変えたくない』という声が出るはずです。今のうちに現場のキーマンをルートに組み込んでおきませんか?」と提案する。これだけで、あなたは「モノを売る人」から「遭難を防いでくれるガイド」へと信頼が昇華します。

  2. 「重い荷物(資料)」を代わりに持つ  
    稟議書のドラフト、セキュリティ回答案、投資対効果(ROI)の計算シート。お客さんが社内説明で必要になる資料を「たたき台」として用意します。工場のネットワーク制限が壁になりそうなら、あらかじめ構成図を用意しておく。登山でいえば、重い装備をこちらがザックに詰めておくようなものです。 

  3. 「反対」の中身を分解する  
    「社内で反対が出ている」と言われたら、その正体を一緒に掘り下げます。「技術的な不安」なのか、「コストの懸念」なのか、「現場の抵抗感」なのか。原因が分かれば、打つべき手も明確になります。 

AIを「登山の副操縦士」にして地図を描く 

また、実際に「山頂から逆算してルートを描く」といっても、初めての業界や慣れない規模の商談では、どこに岩場(難所)があるか予測しづらいものです。そんな時こそ、AIを「登山の副操縦士」として活用してみてください。 

たとえば、生成AIに次のような指示(プロンプト)を出すことで、計画立案が一気に具体化します。 

AIへの指示出し(プロンプト)の  
「あなたはB2B営業の戦略コンサルタントです。〇〇業界の企業に△△システムを導入する際の『登山計画』を作成してください。 

AIの回答をベースに、あなたの経験で肉付けしていく。これだけで、顧客に提示できる「精度の高いルートマップ」が完成します。 

「合意形成」という専門スキルに誇りを 

大企業営業における「社内調整の支援」は、決して泥臭いだけの仕事ではありません。お客さんが「何が課題になるかすら分からない」と立ち止まっているとき、先回りして道を示し、無事に登頂(導入)まで導く。これこそが、大企業向け営業における最も付加価値の高い専門スキルです。 

次の商談で、ぜひこう切り出してみてください。 「御社のゴールに向けて、一緒に最短ルートを描いてみませんか?」 

その一言が、あなたを「出入りの営業」から「最も信頼できる登山ガイド」に変える第一歩になるはずです。

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