トライツコンサルティング株式会社

「聞く営業」から「問う営業」になろう

この記事を読むのに必要な時間は約 8 分です。

「お客さんの話はちゃんと聞いている。課題も把握したつもり。なのに、提案がどうも刺さらない……」。こんな経験、ありませんか? ヒアリングシートも使って丁寧に聞き取りをした。議事録も共有した。それなのに、いざ提案すると「うーん、悪くはないんですが、ちょっと違うんですよね」と言われてしまう。聞き方が悪かったのか、それとも提案の組み立て方なのか。正直、どこを直せばいいのかわからない――そんなモヤモヤを抱えている営業担当者やマネージャーは少なくないはずです。 

実はこの「ちゃんと聞いたのにズレる」には、聞き方のスキルとは別の、もっと根本的な原因があります。米国の営業研修・コンサルティング企業Corporate Visionsが2026年1月に公開した記事「B2B Buying Behavior in 2026」の中に、その「ズレの正体」を解き明かすヒントがありました。一緒に見ていきましょう。 

売り手と買い手の「見ている課題」は半分以上ズレている 

Corporate Visionsの記事で紹介されているデータの中で、特に目を引くものがあります。 

この3つのデータが示しているのは、こういうことです。あなたがヒアリングで聞き取った「課題」と、お客さんが本当に感じている「困りごと」は、半分以上ズレている可能性がある。しかも、お客さん自身も検討を進める中で「そもそもウチの課題って何だっけ?」と揺れ動いている。 

ここが重要なポイントです。お客さんの中に「正解」がまだ存在していないのだから、どれだけ丁寧にヒアリングしても、「正解」は聞き出せない。これは「聞き方」の問題ではなく、そもそも「聞けば答えが出てくる」という前提が間違っている、ということなのです。 

「聞く営業」と「問う営業」――お医者さんに例えると 

この違いを、お医者さんに例えて考えてみましょう。 

「聞く営業」は、問診票を渡して記入してもらうやり方です。効率はいいのですが、患者さん(=お客さん)が自分の症状を正確に言語化できるとは限りません。「なんとなく調子が悪い」としか書けないことのほうがむしろ多い。問診票の回答をそのまま診断の土台にしたら、的外れな処方箋になってしまいます。 

一方、「問う営業」は名医の問診です。「いつから痛みますか?」「どんなときに悪化しますか?」と掘り下げることで、患者さん自身も気づいていなかった「本当の原因」を一緒に見つけていく。だから患者さんは「あの先生に診てもらうと、自分の体の状態がよくわかる」と信頼するのです。 

両者の違いを整理すると、こうなります。 

 

「聞く営業」 

「問う営業」 

スタンス 

情報を「もらう」 

課題を「一緒に見つける」 

前提 

お客さんが課題をわかっている 

お客さん自身もまだ見えていない 

商談後の印象 

「いろいろ聞かれたな」 

「自分たちの問題が整理できた」 

課題認識が平均3.2回も変わるということは、最初のヒアリングで聞いた「課題」はあくまで暫定版。それを最終的な提案の土台にしてしまうから、刺さらないのです。 

今日からできる「問う営業」への3つのシフト 

では、「聞く営業」から「問う営業」に変わるために、具体的に何をすればいいのでしょうか。明日の商談から試せる3つのコツをご紹介します。 

「具体的にどんなことが起きていますか?」を最初の一手にする 

お客さんが課題を話してくれたら、すぐにメモして次の質問に移るのではなく、「具体的に起きていることを教えてください」と事実情報を掘り下げてみてください。この問いかけで、課題が印象論から事実に基づく情報へと変化します。問診票に書けなかった「経緯」が浮かび上がり、表面的な症状の奥にある構造的な問題にぐっと近づけます。 

「ここまでのお話、整理してみてもいいですか?」で課題を見える化する 

お客さんの話を聞いていると、コストの問題、社内の反対、導入後の運用不安……と、いろいろな困りごとが一度に出てくることがあります。そんなとき、全部メモして持ち帰るのではなく、途中で「ちょっと整理させてください」と手を止めてみてください。そして「今のお話を図にすると、こういう構造でしょうか」と、ホワイトボードや手元の紙に課題同士のつながりを書き出してみる。「コスト増の背景には人手不足があって、その原因は属人化で……あ、ここが根っこかもしれませんね」。こんなふうに、お客さんと一緒に課題の地図を描いていくイメージです。霧の中を歩いていたお客さんにとって、課題の全体像がくっきり見えてくる瞬間は、何よりもありがたい体験です。これが、課題を「聞き出す」のではなく「一緒に見つける」ことの具体的な姿です。 

商談の最後に「今日の話で、課題の見え方は変わりましたか?」と聞く 

この一言は、お客さん自身に「課題認識の変化」を自覚してもらうための問いかけです。「そうですね、最初に思っていたのとは少し違う角度で考えられました」と返ってきたら、あなたの商談は大成功。その変化こそが、あなたが提供した価値そのものです。そしてこの問いかけは、次回の提案をどう組み立てるかの最高の手がかりにもなります。 

「ズレ」を恐れず、「ズレ」から始めよう 

ヒアリングで聞いた課題と、お客さんの本当の困りごとがズレている。それを知るのは、正直ショックかもしれません。でも、考え方を変えてみてください。お客さん自身も「本当の課題」がまだ見えていない。だからこそ、一緒にそれを見つけてくれる営業担当者には大きな価値がある。提案書の出来栄えでも価格の安さでもなく、「この人と話すと、自分たちの問題がクリアになる」――その体験こそが、あなたの最大の武器になります。 

あなたが日々の商談で感じている「なんかズレてるな」というモヤモヤは、営業としての感度が高い証拠です。そのモヤモヤを「問い方」を変えるきっかけにして、お客さんと一緒に課題を発見する商談を、ぜひ試してみてはいかがでしょう。 

参考:「B2B Buying Behavior in 2026: 57 Stats and Five Hard Truths That Sales Can’t Ignore」(Corporate Visions, 2026)

モバイルバージョンを終了