トライツコンサルティング株式会社

購買体験が売れる・売れないを左右する!AI時代に必須の「売り方の差別化」とは

この記事を読むのに必要な時間は約 10 分です。

とある営業本で紹介されていたのですが、顧客は「いつもの売り込みだ!」と認識すると、条件反射的に「今は特に困っていなくて」「新調する予定がなくて」と、普段から言い慣れている話法で断るというもの。インサイドセールスや飛び込み営業の経験がある方は、これらの断り文句を何度となく聞いてこられたのではないでしょうか。 

その本に書かれていたのは、「顧客の断り文句を呼び起こしてしまわないために、一般的な営業トークからの差別化が必要だ」というお話。商品・サービスだけでなく、売り方においても差別化が必要だというのは、特にB2B営業においては、よく見聞きするものです。 

そこで今回は特に「売り方の差別化」について考えてみたいと思います。「課題解決型の営業をしているはずなのに、最後は結局価格競争に巻き込まれてしまう」「もっと商談の中で競合より抜きん出た存在になりたい」とお考えの方はぜひお読みください。 

顧客から見て差別化できていなければ価格競争に巻き込まれてしま 

今回ご紹介するのはタイトルがそのものズバリの「差別化営業」(原題:「Sales Differentiation」)という営業本。まずは、営業においてなぜ差別化が必要なのかについて論じているところから見ていきましょう。 

顧客から「競合他社よりも価格が高い」などと言われた場合、問題は価格ではありません。それは本当の問題の症状に過ぎません。このフレーズで顧客が伝えているのは、これまでの提案に他社との違いを感じていないということ。顧客にとって価格以外の要素が同等なのであれば、価格でしか決められません。(中略)この本当の問題は、営業担当者が顧客の心に響くような売り方の差別化をしていない、ということなのです。

「売り方の差別化がされていないと価格競争になる」と言うのは、かなり耳の痛い指摘です。ちなみにここでの「売り方」とは、「顧客との様々な接点において、顧客にとって価値ある独自の体験を生み出す方法」のこと。つまり、より深くまで顧客の課題を把握できるヒアリング手法、ヒアリングした内容をもとに課題を整理する独自のフレームワークなど、商談の中で用いる手順や手法によって、顧客に価値ある体験を提供しなければならないということです。 

とはいえ、実際に価格によって決まることも多いのではないか、そう思われたことでしょう。しかし、この本では続けて、顧客が購買先を選ぶのに差別化が大事であることを示すデータを紹介しています。 

顧客の74%は差別化された提案を選んでいる 

コーポレート・ヴィジョンズ社の調査によると、顧客の74パーセントは、最初に価値と洞察を提供してくれた営業担当者の提案を選んでいます。

このデータは2つの大事なポイントを示しています。 

1つめは「最初に」。競合が何社も訪れた後におっとり刀で駆けつけて価値や洞察を提供しても、時すでに遅し。他社が顧客に呼ばれる前、顧客の中で購買のための案件が立ち上がってすぐ、可能なら案件化する前にアプローチし、自分達との会話によって顧客の中で案件化するくらいのスピード感が必要だということです。課題解決型の営業でよく「購買プロセスのできる限り上流にアプローチしよう」と言われるのは、このためです。 

そして2つめは「価値と洞察を提供」。顧客に言われたことだけをしっかりやる「御用聞き」だけでは差別化にならず、何かしらの価値を返さなければ差別化にならないということ。これも至極当たり前のお話ですね。 

営業の差別化戦略で大事なのは「売り方」 

商談での差別化について、最も端的に述べているのがこちら。 

営業における差別化戦略を考える際には、「売るもの」だけに注目してはいけません。顧客のキーパーソンが抱えている課題と、その解決に役立つ方法を考えてください。彼らの不満とあなたが提供するものとが上手くつながる「売り方」が、効果的な差別化戦略の基礎となります。

このことから言えるのが、売り方を組織として開発し磨き込むことの大事さ。つまり、商品・サービスだけでなく営業の手法やツールの開発やその教育のために時間や手間、コストといったリソースを投入し、自社流の売り方の差別化の型を作らなければならない、ということ。筋の良い営業担当者だけが我流で差別化しているのを良しとしてはいけないのです。 

売り方の差別化で重要な2つの場面 

それではどのような差別化が有効なのでしょうか。本の中で特にページ数と熱意を込めて解説されているのが以下の2つ。 
「課題への理解と解決策の立案において、顧客が新たな視点/アイデアを持てるようにヒアリング/質問する」 
「顧客の解決策選定の基準や意思決定のプロセスを作成/改善する手助けをする」 
つまり、営業プロセスの中でも特に「ヒアリング/課題把握」の場面と、解決策を顧客に提案する前後の「購買の意思決定支援」の場面が特に重要だというのです。 

ここから先は、実際にトライツがこの2つの場面でどのようなお手伝いをしているかを、ご紹介します。 

場面1:ヒアリング/課題把握では顧客と課題・解決策を「共創」しよう 

1つめの「ヒアリング/課題把握」において、大事にしているのは顧客と一緒に課題や解決策を「共創」するというもの。顧客の課題認識をただ聞くだけでなく、課題の仮説をこちらで決め打ちしてプレゼンテーションを浴びせかけるのでもなく、顧客の課題認識を顧客にも見えるように書き取りながら、「実際にどんなことが起きているのか」「どうなっていればいいのか」「どのような解決策に取り組みたいのか」を深掘りしていく「共創型ヒアリング」というセッションです。 

「じっくり聞く」「顧客の話を紙に大きな字で書き取る」という普段の営業活動とは異なる手法のため、これを身に付けるためには事前のロールプレイ/研修が欠かせません。しかし、実際にこれを顧客の前で行うと、重要な課題が絞り込めて、顧客から「これをやりたい」と言ってもらえるといった、まさに差別化された状態/関係性を作れるようになるのです。 

場面2:意思決定支援では、意思決定のロードマップを顧客と一緒に「可視化」しよう 

また2つめの「顧客の意思決定支援」で大事にしているのは、顧客の購買の意思決定の手順をロードマップとして顧客と一緒に「可視化」するというもの。主要な会議に登場するキーパーソンを特定し、その人がどんな観点/規準で解決策を評価するのか、それをクリアするために何が必要か、を言語化して提案の中にその対策を盛り込んでいくのです。 

実際にこれを顧客に対してトライしてみた商談では、その営業担当者がこれまでに参加したことがなかった顧客社内の関係者が集まる打合せに呼ばれて意見を求められるなど、まさに顧客の意思決定メンバーの一員として優位に商談を進められるようになりました。これも売り方の差別化の典型的な例だと言えるでしょう。 

それぞれの具体的な手法については、セミナーなどでご紹介しております。また「お問合せ」からご連絡いただけましたら、いつでもご紹介のための場を持たせていただきますので、ぜひご連絡ください。 

AI時代の営業では顧客との関わり方そのものが差別化のチャンス 

今回は営業における「売り方の差別化」についてご紹介しました。AIの発展と普及により、顧客や顧客が属する業界の課題は簡単にレポートとして手に入るようになり、提案書などの資料作成の自動化や効率化も進んでいます。ただ、このAI活用は皆さんの競合企業の営業担当者でも簡単にできる、いわばコモディティ化されています。 

それに対し、今回ご紹介した共創型ヒアリングや、顧客の意思決定のロードマップの可視化などは、顧客の購買体験のデザインであり、生身の営業担当者が顧客と対面で行うことに意味があります。つまりAI時代においては、提案書の巧拙などではなくヒアリングや顧客とのディスカッションといった、人と人との関わりこそが競合には真似のできない差別化の対象になる、ということなのです。 

差別化するか、さもなくば・・・ 

B2Bマーケティングの大家であるジャック・トラウト氏の著書名に「Different or Die」(差別化するか、さもなくば死ぬか)と言うものがあります。「死」はさすがに大げさですが、差別化できないままだと価格競争に巻き込まれて、売れても赤字続き、なんてことにもなりかねません。しっかり利益を確保するために、「売り方の差別化」から逃げてはいけないのだと思うのです。 

参考:「Sales Differentiation: 19 Powerful Strategies to Win More Deals at the Prices You Want」(Lee B. Salz, Amacom Books, 2018 

モバイルバージョンを終了