トライツコンサルティング株式会社

顧客は営業の合わせ鏡?商談の成功を阻む最大の要因は「営業の感情」にあった

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目標達成のために顧客にもわかってしまうほど必死に売り込んでしまい、相手に避けられてしまう。高圧的な態度の顧客に接すると、必要以上にへりくだって無理難題を持ち帰ってしまう。ついやってしまうそんな「癖」に悩んでいる方もいらっしゃると思います。 

実はそこには「営業担当者自身の感情」が大きく影響しています。前回のトライツブログ「商談が進まないのは「自動思考」のせいだった?営業が知っておくべき顧客心理の罠」では、顧客の心理や感情を理解することで、商談の停滞を防いで前進を促そうというテーマでお伝えしましたが、今回は営業担当者自身の心理状態や感情を理解/コントロールすることの重要性について考えます。 

よく「相手は自分の合わせ鏡」とも言いますし、社会心理学の実験ではグループ内のメンバーの感情がグループ内に伝わり(感情伝染し)、パフォーマンスに影響を与えることが明らかになっています。つまり、営業担当者自身の感情が顧客に伝わることで、商談を停滞させる要因になることがあるのです。商談の場や客前で不安になってしまう人、メンタルを強化したいとお思いの人は、ぜひお読みください。 

「Sales EQ」が強調する「営業担当者自身の非生産的な感情」という営業成功の最大の阻害要因 

今回の参考書はこのトライツブログで頻繁に登場する、ジェブ・ブラント氏の名著「Sales EQ」です。EQとは感情的知能指数などと訳され、自分と他者の感情を理解・管理・活用する能力のこと。日本でもダニエル・ゴールマン博士の「EQ こころの知能指数」という本が今からおよそ30年前の1996年に出版されて一大EQブームが到来しましたので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。 

特に「営業」で「EQ」となると、相手の感情や心理状態を理解しそれをうまくコントロールして商談を優位に進めようという、怪しげな本のようにも思われますが、まったくそんなことはありません。相手の感情や心理状態の理解についても触れられてはいるものの、ページ数の多くは営業担当者自身の感情をうまくコントロールする必要性について書かれています。いくつか抜粋します。 

営業担当者が失敗する最もよくある理由は、非生産的な自身の感情をコントロールできないことです。焦り、恐怖、自暴自棄、必死さ、疑念、理由のない願望、不安、エゴなど、これらの非生産的な感情は正確な状況認識を妨げ、営業プロセスの手順を無視してしまったり、見当違いのことをやってしまったりする原因となります。

非生産的な感情に支配されてしまうのは、セールスEQが低いことの表れです。そうなってしまうと成功に必要なことに思考を集中させられなくなってしまいます。その代わりに、失敗したらどうなってしまうのかということに意識が集中します。その結果として、自尊心が低下し、自信がなくなり、恐怖を感じ、不合理な行動をとり、意思決定がうまくいかなくなります。 

このような状態では、顧客はあなたの絶望感を察知します。困窮し、自暴自棄になっている営業担当者は、自然と敬遠されます。その代わりに、彼らは自信を漂わせる営業のプロフェッショナルに引き寄せられます。誰も自暴自棄になっているような人からは買わないのです。

このように、ブラント氏は営業における最大の敵は自分自身の心の持ちようだということを、書籍の中で繰り返し述べています。では、どのようにすればこうした「非生産的な感情」にコントロールされてしまうのを防げるのでしょうか。 

非生産的な感情に対する一番の予防策は「事前準備と練習」 

書籍の中では「自身の感情をコントロールする」という章の中で、 
・自分の中で非生産的な感情が起きる「個人的なきっかけ」を理解する 
・得たい前向きな結果を頭の中で描く 
・普段から自分に対して話しかけている「セルフトーク」の内容を前向きなものにする 
・すぐに反応するのではなく、いったん立ち止まって感情を整理する 
などの予防策や対処法を提示しています。これらの中でも、一番大事だと書かれているのが「準備すること」です。 

非生産的な感情をコントロールする最も効果的な方法は、事前の準備と練習です。商談相手のことを調べ、相手の立場に立って考え、質問されることを予測するなど、前もって準備する時間を取りましょう。その次は練習です。事前にデモやプレゼンを何度も繰り返したり、上司や同僚とロールプレイしたりしましょう。最悪のシナリオも想定し、万が一の事態に備えましょう。

当たり前な結論となってしまいましたが、結局は事前準備と練習に力を入れ、「ここまでしっかり準備したのだから大丈夫なはずだ!」と自分で自信を掻き立てて商談の場に臨むということ。世の中には「すべての状態をカバーした完璧な準備」というものはありませんが、自分を納得させて安心させるために「やれることはやり切った」と思える状態を作らなければならない、ということだと思います。 

私が数年前に見たお笑い芸人のYouTubeチャンネルの動画で、若手の芸人の悩みに先輩格の芸人がアドバイスをしていました。その悩みとは、実力のある他の芸人と一緒にTV番組を収録すると、焦りや不安に駆られてしまって、一歩引いたスタンスで収録に臨み実力を発揮できないでいる、というもの。それへの先輩格の芸人のアドバイスは「不安で泳いでしまう目の動きを止めるための努力をしているか」でした。 

番組が収録前に用意するアンケートにしっかりエピソードを書く。自分たちの冠番組の中で進行役などに挑戦してスキルを高める。そんな事前準備と練習が必要だというのは、バラエティ番組のような芸能でも、B2B営業でもそう変わりはないのだと感じたことを覚えています。 

顧客が前向きでない要因の1つは営業担当者の感情が見られているから 

私がコンサルタントとしての書籍上での師だと勝手に仰いでいる、G・M・ワインバーグ氏の著書「コンサルタントの秘密」の中に「パーソンの特異性原理」という法則が記されています。 

相手が奇妙な行動をとっていたら、たぶん奇妙なものに反応しているのだ。それはたぶん自分である。

この「相手」を「顧客」に置き換えると、それはまさに上手くいっていない商談の場面そのものです。顧客が乗り気でない、興味関心を示さないといったときに顧客が反応しているのは「顧客の課題にフィットしない商品・サービス」「予算枠を大きくはみ出した価格表」だけではありません。 

必至に売り込もうとしている様子を感じて、「こうまでして売らないといけないということは商品か担当者に問題があるのかも」と思わせてしまっているのかもしれません。焦っていたり不安に駆られたりしている様子から、「提案/商品に自信がないのだ」と判断されている可能性もあります。営業担当者の感情や心理的状態が、商談を前に進める上での一番の障害となってしまっているのです。 

自分の感情を理解・コントロールし、顧客の感情に寄り添って営業しよう 

ぜひ今回ご紹介した内容をもとに、ご自身のそして周りの商談の様子を振り返ってみてください。自分自身の感情の動きを意識し、それをコントロールすること。その上で、前回の記事「商談が進まないのは「自動思考」のせいだった?営業が知っておくべき顧客心理の罠」でご紹介した顧客の感情を理解しそれに寄り添うことの重要性を再認識するきっかけにしていただけたら嬉しく思います。 

参考:「Sales EQ: How Ultra High Performers Leverage Sales-Specific Emotional Intelligence to Close the Complex Deal」(Jeb Blount, John Wiley & Sons Inc., 2017)

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