トライツコンサルティング株式会社

「顧客と営業の信頼関係」が重要度を増していることを知っていますか?

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登録した覚えのない企業からの営業メールに、「●●のご担当者様」宛の営業電話、最近では企業のWebサイトの問合せフォームを使った無差別的営業手法「フォームアタック」など、私たちは日々膨大な量の「売込」にさらされています。しかもこのような営業手法を一部の悪質な企業だけでなく、世間的に名の知れた企業も行っていたりします。

このような「これっていいの?」と思ってしまうような営業手法が広まっていることについて、「ポスト・トラスト時代の営業」と評したLinkedInの投稿がバズったりもしました。ちなみにこの「ポスト・トラスト」と言うのは、政府や大学、大企業や自治体組織といった、これまでは当たり前に信用できていた社会の構成要素への人々の信頼が低下していることを表す用語。特に欧米でここ最近広まりつつあるようです。

とはいえ、社会的に希少なものには人々が価値を感じるようになる、というのが経済の大原則。最近では、B2B営業における「信頼」が注目される機会が増えてきているように感じます。そこで今回は、営業の基本のキである「顧客との信頼」について、考えてみたいと思います。なぜ現在の営業において「信頼」がキーワードになっているのか、顧客との信頼を高めるためにどうすればよいのか、一緒に学びましょう。

現代の営業で成功するために必要不可欠な前提条件となった「信頼」

今回ご紹介するのは、ヨラム・ソロモン氏の「The Trust Premium(信頼プレミアム)」という書籍。このソロモン氏はシリコンバレーで複数のスタートアップ企業の立上・成長と売却に関わった起業家としての一面もありつつ、テキサス大学ダラス校などの教授も務める研究者の一員でもあります。今回ご紹介する書籍は、ソロモン氏が研究者として様々な企業と共同で「信頼」について研究・調査した内容をまとめたもの。まずは、なぜ現代の営業において「信頼」が大事なのかから始めましょう。

現代の顧客は、Eメールなどによるひっきりなしのアプローチ、攻撃的な戦術、詐欺まがいの巧妙な最新テクノロジーに騙されなくなっています。その代わりに、接する企業やその担当者との信頼性に基づいて購入の意思決定をするようになっているのです。信頼はもはや自社の戦術として採用するか否かを選べるオプションではありません。現代で成功するための不可欠な前提条件です。

信頼が重要視されるようになっている理由は、詐欺まがいの営業手法に日々さらされているからだけではなく、現代の顧客には信頼を求める様々な理由がある、と言うのがソロモン氏の主張です。どういうことなのか続けて見てみましょう。

現代の顧客はこれまでより「信頼」に価値を感じるようになっている

信頼に価値を感じる顧客には、以下の共通する特徴があります。

知識と経験の不足:製品やサービスに不慣れな顧客は、解決すべき課題の特定や、解決策の品質評価に不安を感じています。彼らは売り手側が信頼できること、特に専門家による保証を得られることに価値を感じます。

リスク回避志向:慎重でリスク回避型の顧客は、発生するかもしれない損失や失敗を特に恐れているので、信頼できると思える売り手を求める傾向があります。

課題の重要性・深刻度:財務的であったり、個人のキャリア的に深刻かつ重要な課題に直面している顧客は、特に信頼に価値を感じる傾向が強く出ます。(中略)

信頼できる売り手は、顧客が感じるリスクを軽減し、顧客が購買しやすくします。リスクのある決断を、信頼が確信に満ちた決断に変えてくれ、時間・お金・エネルギーの投資を正当化するからです。人々は信頼できる人から購入することを好み、その信頼のために追加費用を支払うことも厭いません。

つまり、課題が複雑で目新しかったり、解決のために必要な商品やソリューションが高額/大規模になればなるほど、顧客は売り手企業との信頼によって購買先を判断しようとする、ということ。このように考えると、課題が複雑化・高度化・大型化している現在において、これまで以上に信頼が重視されるのは納得できるような気がします。

また、引用文の最後に「追加費用」とありますが、これは「The Trust Premium(信頼プレミアム)」という書籍のタイトルにもなっている、「信頼によって得られる金銭的価値・追加利益」のこと。こちらについてはもう少し先で解説するので、いったん忘れて続きをお読みください。

信頼関係の基盤となる4つの要素

この書籍が面白いのは、学術的でありつつも起業家らしく実際のB2B営業の場面で参考になるアドバイスが随所に記載されていること。まずは、氏が提唱する「信頼関係の基盤」の4つの要素から見ていきましょう。

信頼関係の基盤は、以下の4つ

1. 以下の3つの中から顧客が最も重視する関わり方
 ・波長を合わせる:顧客の考え方や好みに合わせる
 ・不足を補う:顧客特性に合わせて、バランスが良くなるように補う
 ・新しい切り口を示す:顧客にとって新鮮な視点を提供する

2. 顧客の視点で世界を見て共感する

3. 顧客独自の詳細な違いについて理解し尊重する

4. 操作的な営業テクニックや嘘、ハッタリ、大ぶろしきや空約束をせず、正直に接する

1番目の中にある「波長を合わせる」「不足を補う」「新しい切り口を示す」という3つの関わり方についてですが、日本企業の営業担当者を見ていると「波長を合わせる」「不足を補う」という関係づくりを得意とする方が多いように感じます。それはすなわち、この関係を求める/重要視する顧客がこれまで多かったことのあかしでもあります。ただ、先ほど見たように顧客が直面する課題が困難なものになり、さらに顧客として知見のない分野の場合は「新しい切り口を示す」ことが求められるようになります。ぜひご自身や自社の営業組織がこの3つの関係性のどれでも対応できるようになっているか、強化すべき箇所がないかをご確認してみてはいかがでしょう。

日々の振る舞い/商談の様子をチェックする6つの観点

また、ソロモン氏は信頼関係にダメージを与えうる6つの要素についても触れています。

以下の信頼の6要素を自己分析の指標として活用しましょう。

1. 能力:知識・経験・スキルが不足していると見られていないか。期限や納品品質を守れているか。

2. 性格の相性:顧客が不快に感じたり、顧客の価値観や性格と合わない自身の行動や特性がないか。

3. バランス:不平等や不公平な関係だと感じられていないか。顧客よりも多くを得ていると思われていないか。

4. 態度:顧客とのやり取りが否定的だったり、自己中心的だったりしていないか。相手を軽視していると思われていないか。

5. 時間:顧客と十分な時間を過ごしているか。

6. 親密度:コミュニケーションは明確で頻度も十分か、親しみやすいと思われているか。

これらの6つに問題があると、どれだけ相手にとって新鮮な視点を提供していて、共感を示しつつ正直に接していたとしても信頼関係を構築することは難しいでしょう。網羅性高いリストになっていると思いますので、自分自身の日々の振る舞いをチェックする観点として日々のコーチングの中などで参考にしてください。

抽象的で定性的な「信頼」の価値を定量的に換算した「信頼プレミアム」の妥当性

最後に、これまで説明を後回しにしてきた、書名でもある「 The Trust Premium(信頼プレミアム)」、つまり信頼関係によって得られる価値・利益をソロモン氏が算出したデータがこちら。

信頼されている売り手企業に対して顧客は、信頼性の低い代替品に切り替えるよりも、同じ製品やサービスに対して29.6%までなら高い価格を支払ってもよいと考えている。この数値(29.6%)を「信頼プレミアム」と呼ぶことにする。

このデータで注意すべきは「顧客は信頼に対し、金額換算すると平均して本体価格の29.6%分の価値を感じている」ということで、「信頼されていれば無条件に3割近い値上げが無条件に通る」ということではありません。信頼という抽象的で定性的な価値を、定量的に換算したということに意味のあるデータなのです。

皆さんもご存じのとおり、信頼の価値は「多少の高値でも通る」ということではありません。お互いに無理のない取引条件で、よほどのことがない限りは確実かつ安定的に受注・納品することができ、満足した顧客から顧客の社内外の知り合いに紹介してもらえる、という長期的な共存共栄の関係が作れることにあります。このように考えると、本体価格の3割という「信頼プレミアム」は信頼関係の本当の価値をすべて捉え切れていないようにも感じます。これが、本のタイトルにもなっていた「信頼プレミアム」のデータを示すことを後回しにしていた理由です。

「ポスト・トラスト時代」だからこそ顧客にとっての「信頼されるパートナー」を目指そう

AIによって作られる大量のコンテンツに、機械的に送信される大量の営業EメールにSNS投稿。私たちの周りには「ポスト・トラスト時代」とも言えるような営業慣行が広まっています。そんな中、顧客に共感し、顧客独自の細部を注目・尊重して、顧客が求める役割を「波長を合わせる」「不足を補う」「新しい切り口を示す」の3つから選んで提供することができれば、現代において希少な「信頼されるパートナー」になれるでしょう。

ぜひ大事な顧客との最近のやり取りやその時の顧客の反応や表情、コミュニケーションの頻度や量などを、今回ご紹介した6つの要素を使って振り返って分析してみてください。現在の関係を改善し、さらに良い信頼関係を構築するためのヒントが見つかるかもしれません。

参考:「The Trust Premium: How to Attract Loyal Customers Who Want to Pay More」(Yoram Solomon Ph.D, The Innovation Culture Institute, 2025)

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