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営業の常識が覆る!システム化されたパーソナライゼーションが逆効果になる理由

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この数年のB2B営業のトレンドを3つ挙げるとすれば、「AI活用」に「DX」、そして見込客一人ひとりに対する「パーソナライゼーション」でしょう。このトライツブログでも何度も最新の営業トレンドとしてご紹介してきました。顧客がLinkedInやFacebookなどのSNSに載せている情報を使ったり、自社Webページで見ているページの遷移情報にアクセスの起点となった検索ワードなどを組み合わせることで、一人ひとりにフィットした文章のEメールやダウンロードコンテンツを提供しよう、というものです。 

このB2B営業・マーケティングにおける「パーソナライゼーション」の重要性は、なかば当たり前の常識となっていますが、それに警鐘を鳴らすドキッとするような調査結果が最近発表されました。その内容はなんと、「パーソナライゼーションが顧客の不満を3倍に高める」というもの。パーソナライゼーションが顧客の不満を高めるとはどういうことなのか。不満を高めないパーソナライゼーションの方法はあるのか。MAやSFAのデータを使ってパーソナライゼーションに既に取り組んでいる方も、これから取り組もうとしている方も、一緒に見ていきましょう。 

世界的な調査会社Gartner社のマーケティングイベントで発表された「パーソナライゼーションによる悪影響」 

今回ご紹介する調査結果は、世界的な調査会社Gartner社が2024年の年末に世界5か国(英米加豪とニュージーランド)のB2B購買担当者1,464人を対象に実施し、2025年6月3日に「Gartner マーケティング シンポジウム/Xpo」という自社主催イベントにて発表したもの。そこでの発表内容がこちら。 

最近の購入プロセスでパーソナライゼーションを経験した顧客は、そうでない顧客と比べて 
・パーソナライゼーションを提供した企業に対し高い価格で購入する割合が1.8倍高い 
その一方で 
・受け取った情報に圧倒される割合が2倍高い 
・購入を迫られるプレッシャーを感じる割合が2.8倍高い 
・購入を後悔する割合が3.2倍高い

このように、パーソナライゼーションには良いことばかりではなく、見込客にとってプレッシャーをかけてしまい、悪影響をもたらすものになっている、ということなのです。このデータについて、イベントで講演したGartner社のシニアアナリストであるオードリー・ブロスナン氏は以下のように述べています。 

顧客の53%が難しい課題解決のための購入プロセスの過程で、一般的なパーソナライゼーション戦術に少なくとも1回は急かされるなどの不愉快な経験をしたと回答しています。購買活動での一般的なパーソナライゼーションには顧客に悪影響を及ぼす可能性があり、マーケティング組織はより繊細で顧客から受け入れられやすい戦術を考えなければなりません。

「受動的」パーソナライゼーションと「能動的」パーソナライゼーション 

ここで言う「一般的なパーソナライゼーション」とは、普段私たちが体験しているパーソナライズ・マーケティングそのものです。Eメールの宛名に自社の社名と自分の名前が書かれており、最近ダウンロードしたコンテンツや見ていたWebページに関連する文章が書かれていて、オンラインデモや担当者とのWebミーティングが提案されているようなものを想像してください。 

このようなパーソナライゼーションは、顧客が一方的にEメールやホワイトペーパーといったコンテンツを受け取るものなので、ブロスナン氏は「受動的パーソナライゼーション」と呼んでいます。これと対比して、顧客のリアクションを引き出し、それに対してさらに適応しながらコミュニケーションを続ける「能動的パーソナライゼーション」を行うべきだと主張しています。 

「能動的パーソナライゼーション」の3ステップ 

それではこの「能動的パーソナライゼーション」がいったいどのようなものなのか、ブロスナン氏は3つのステップで解説しています。 

1. 購買プロセスの落とし穴を特定する 
購買プロセスを進める上での障害があると、受動的パーソナライゼーションが逆効果になります。そのため、どのような落とし穴に直面しているのかを特定します。 

2. 感情の変化を促進する
顧客が目標を明確にし、複雑な意思決定を自信を持って進められるように動機付けをします。

3. 顧客と共創する
顧客独自のニーズや背景/文脈情報を共有し、購入に至るプロセスがパーソナライズされるように顧客と共創します

トライツのブログやセミナーをご覧になっている方はピンと来たことでしょうが、この3つのステップは常日頃からブログやセミナーでトライツが主張している「顧客中心営業」「コンサルティング型営業」そのものです。そして、この3つのステップを経験した顧客は、「購入の意思決定に対して自信を持っている割合が2.3倍高いため、顧客満足度と将来の購入可能性が大幅に改善される」というのがブロスナン氏の主張です。 

マーケティング文脈からも「顧客中心営業」「コンサルティング型営業」の有用性が検証 

この調査結果並びにブロスナン氏の講演からわかることが、大きく2つあると考えています。 

1つは、B2Bマーケティングの文脈においても、顧客の購買プロセスの課題を解決し、購買の意思決定を支援する「顧客中心営業」「コンサルティング型営業」の有用性が検証された、ということです。 

欲しいのは「システム化された」ではなく「人間扱いしてくれる」パーソナライゼーション 

そしてもう1つは、顧客はパーソナライズの前提として人間としての扱い(ヒューマナイズ)を求めているのだということ。 

私たちは顧客のSNS情報や自社のWebサイトでの振る舞いから情報を得て、それをもとにシステマチックに「●●に興味をお持ちの方には、○○ソリューションのデモがお勧めです」と次のアクションを推奨するEメールを自動で大量に作成・送付できます。ただ、このように一方的かつシステム化された「お勧めの情報」「お勧めのアクション」を受け取っても、特に難しい課題に直面している顧客はそれを嬉しいと思えない。むしろ自分に提案やアクションを押し付けてくるように捉えるため、プレッシャーに感じてしまうのです。 

システム化された受動型パーソナライゼーション(Systemized/Passive Personalization)ではなく、購買プロセスのどの部分でためらっていて、何に不安を感じているかを解きほぐしてくれて、一緒に解決策を共創してくれるという、血が通った人間扱いしてくれる能動型パーソナライゼーション(Humanized/Active Personalization)を嬉しく思う。当たり前の話ではありますが、具体的に言語化・ステップ化してくれて、さらにその価値を調査によって定量的に計算したということに、今回の調査結果および講演の価値があるのだと思います。 

能動型パーソナライゼーションには生身の営業担当者が不可欠 

そして、このヒューマナイズされた能動型パーソナライゼーションを提供しようとするならば、生身の人間である営業担当者の役割が絶対に必要です。Gartner社の講演でも3つのステップについて紹介する際に「顧客に直接」という言葉が頻出していました。デジタルという飛び道具ではなく、生身の人間が直接/PCの画面を通じて相対し一緒の時間を共有するという、人間しかできない関わりが大前提となっているのです。 

デジタルやAIによってB2Bの営業活動は大きく変化しています。顧客情報を整理要約したり、打合せの議事メモをまとめたり、提案の骨子を考えたりといったことが生成AIによって短時間に一定の精度で実現できるようになりました。そこで浮いた時間を顧客との対面の時間に充てられるようになっています。つまり、全ての営業活動をハイテク化・自動化するのではなく、効率化・省力化することで捻出できた時間をハイタッチな営業活動に割り当て直す、というように考える。これがB2B営業におけるAI活用の1つの基本形なのではないでしょうか。 

トライツブログではこれからも「これまでの当たり前」に疑問を投げかけます 

今回はこれまで当たり前のものとされていた「パーソナライゼーション」について、Gartner社の調査結果および講演から、複雑で困難な購買活動に取り組んでいる顧客に悪影響を及ぼす「システム化されたパーソナライゼーション」と、そのような顧客にこそ満足してもらえる「ヒューマナイズされたパーソナライゼーション」の2つに分解・整理しました。 

また、後者のパーソナライゼーションが「顧客中心営業」における「コンサルティング型営業」そのものであること、そしてそのような活動の時間を増やすためのデジタル/AI活用の考え方も見えてきたように思います。 

トライツブログでは、今回のような「これまでの当たり前に疑問を投げかける」トピックを、今後も積極的に取り扱っていきます。皆さんの「これって本当にそうなのかな?」に答えられるブログであるように、これからも調査しますのでぜひ引き続きお読みください。 

参考:「Gartner Survey Reveals Personalization Can Triple the Likelihood of Customer Regret at Key Journey Points」(Gartner, Inc., June 3, 2025

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