トライツコンサルティング株式会社

2024年版「生成AIがどのように営業を変えるのか」

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ある単語で日経新聞の記事検索をしてみたところ、直近1年(2023年10月1日~2024年9月30日)のヒット数は3,272件。その前の1年間(2022年10月1日~2023年9月30日)は1,314件。さらにその前の1年間(2021年10月1日~2022年9月30日)だとたったの9件でした。 

これは「生成AI」という単語での記事検索の結果です。2022年11月下旬にChatGPTが彗星のごとく登場し、今ではTeamsの会議の文字起こしをしてくれたり、資料の要約やアイデア出しを手伝ってもらったりと、仕事でも生成AIを使われている方が確実に増えているように感じます。 

そこで今回は、いよいよ私たちの仕事に浸透しつつある生成AIによって、これからの営業がどう変わっていくのかについて改めて考えてみたいと思います。このテーマはChatGPTが登場した2022年の年末から2023年の上半期にかけて、トライツブログでも何回か紹介してきました。今読み返しても大筋では外していないと思いますが、当時の熱気に多少浮かされているような様子も見えます。 

ChatGPT登場からもう少しで丸2年。斬新なものから身近なものへと変わってきた生成AIが実際にどこまで営業を変えられるものなのか、改めて見ていきましょう。 

生成AIがB2B営業を変容させる「3つの道」 

最初にご紹介するのはマッキンゼー社(McKinsey & Company)がこの9月に出した記事「An unconstrained future: How generative AI could reshape B2B sales」。副題にあるとおり、「生成AIがどのようにB2B営業を変容させるのか」についてまとめています。記事の中ではB2B営業にもたらす変容の可能性を、「3つの道」として紹介しています。少し長いのですが、比較しやすくするために3つまとめて見ていきましょう。 

第1の道:効率化 
(中略)現在、営業担当者は業界と製品についての深い専門的な知識を身に付けるために、莫大な時間を費やしています。生成AIの調査機能によって、これまで何時間もの調査や何年もの経験を必要としていた知識を、営業担当者がリアルタイムで簡単に手に入れられるようになります。 
また、ほとんどの事務作業や定型業務を自動化することで、営業担当者は、最も重要な業務、つまり顧客との信頼関係の構築に集中する時間が増えます。 

第2の道:成長の加速 
(中略)生成AIが作成するトークスクリプトなどを用いることで、適切なタイミングでそれぞれの顧客に理想的な営業活動を行えるようになります。また、オンラインのクチコミやSNSなどの社内外の顧客の反応を学習し、新製品開発や既存製品の提案、見積の方法を創り出します。 

第3の道:根本的な役割の再構築 
(中略)生成 AI が日々の営業活動の中心を担うようになります。人間による顧客対応は、優先度の高い商談に限定されます。見込客の発掘から価格等の条件交渉までの営業プロセスのほぼすべてを生成AIが担うことで、人間の介入を最小化します。人間による対応は、特に複雑な課題解決に限定されたプレミアム サービスになる可能性があります。そのため、営業担当者は、顧客の長期的な成果創出に集中して活動できるようになります。

3つの道をざっくりとまとめると、第1の道は「作業の効率化」、第2の道は「AIの助言による活動の質の向上」、第3の道は「AIとの役割分担」ということになります。そして、マッキンゼー社は記事の中で、「これからの営業がこの3つの道のどれを進むことになるのか、どの道を組み合わせたものになるのかは、現時点ではわからない」としたうえで、それに備えるための心構えを説いて記事をまとめています。 

が、他の記事を見ていると、どうやら第2の道「AIの助言による活動の質の向上」と第3の道「AIとの役割分担」を組み合わせた「B2B営業の道2.5」が現実になりつつあるようです。続けて、もう1つ別の記事を見ていきましょう。 

生成AIの「助言」と「役割分担」が実現する「B2B営業の道2.5」 

次にご紹介するのは、生成AIによる営業活動の効率化/自動化で先陣を切っている注目の企業アルティウス社(Alltius Inc.)の最新の記事「AI in Sales: Revolutionizing the Art of Selling in 2024」。自社が持つAIの助言機能と顧客対応の自動化機能を組み合わせることで、営業プロセスにおける営業の役割が大幅に変わるとしています。具体的にどうなるのか、早速見ていきましょう。 

「こんなに商談が短いのは非現実的」「見積作成がない」「タスク管理は営業プロセスなのか」などツッコミどころは満載ですが、下段のAI強化型営業での営業担当者とAIアシスタントの役割分担をご覧ください。見込客のリスト作成や、電話やEメールでのコンタクト、提案トークの準備に顧客の懸念点対応など、かなりの部分を自動化できると謳っています。 

その中でも、「③初回面談」の際の見込客の課題/ニーズ調査や、「④次回面談」でのパーソナライズされた提案トーク作成をAIが代わりにやってくれるのであれば、マッキンゼーのレポートであったように、業界経験が長くない営業担当者の底上げにもつながりそうです。 

このプロセス図を見ていると、マッキンゼー社が予測している生成AIによる営業活動の変容も、まったくの夢物語ではなく、とても実現性の高い未来図であるように思います。 

いまだに生成AI活用で出遅れている日本企業 

しかし、AI強化型営業が本当に日本の営業組織にも訪れるのか、不安になるデータもあります。総務省が7月に発表した2024年情報通信白書によると、企業が生成AIを業務で利用している割合は46.8%と半数未満。アメリカ(84.7%)、中国(84.4%)、ドイツ(72.7%)に比べて圧倒的に低く、さらに今後の活用方針でも「積極的に活用する方針」はたったの15.7%。中国(71.2%)、アメリカ(46.3%)、ドイツ(30.1%)とはまったく温度感が違うことが浮き彫りになっています。 

日本全体で見ると哀しくなってしまいますが、考え方を転換すれば生成AIを積極的に活用しようと思って取り組みを始めるだけで、日本企業の上位16%に駆け上がるチャンスだとも言えます。 

CRMのデータを読み込ませて次のアポを取るメール/電話の文面を考えてもらう。顧客の業界トレンドをもとに訪問時にするべき質問を考えてもらう。提案書の下書きを作ってもらうなど、実際に普通のChatGPTだけでも面倒な業務/作業を効率化できるようになっていますし、経験が浅いメンバーであれば質の向上にもつながります。営業の生産性向上を実現できるかどうかは、思い切って飛び込んでみるかどうかだけなのです。 

生成AIが身近になってきた今こそB2B営業での活用方法/役割分担を考えてみよう 

トライツでもブログ作りや、プロジェクト資料の作成、データ分析などで生成AIを活用しています。短期間で質の高い資料を作ったり、大勢のメンバー一人ひとりに対する分析レポートで考察を書いたりすることは、生成AIなしではやれません。まさに仕事のアシスタントとして納得の働きをしてくれています。 

日本も金利のある世界に戻り、次の経済/産業の課題は生産性向上だと言われています。そして、特にB2B営業はこれまで自動化や省人化といった生産性向上がほぼなされてこなかった職種でもあります。ぜひ今回ご紹介したアルティウス社のAI強化型の営業プロセスを参考に、自分たちなら生成AIとどんな役割分担が可能なのかを考えてみてください。そして、それを実現するために積極的にAIを活用しようと腹を決めることができたら、他社から抜きん出ることができるチャンスが眼前に広がってくる。そんな未来が待っているのかもしれません。 

参考: 
An unconstrained future: How generative AI could reshape B2B sales」(Lareina Yee, Richelle Deveau, and Steve Reis, McKinsey & Company, September 16, 2024 
AI in Sales: Revolutionizing the Art of Selling in 2024」(Vibs Abhishek, Alltius Inc., September 27, 2024

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