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経験を積んだ営業の方でも、見込客向けに電話をかけたりメールを送ったりするのが苦手という人は多いのではないでしょうか。
既存顧客とは距離感もまったく違いますし、共通の話題があることもまれ。展示会やセミナーにお越しいただいた後のフォローや、自社のWebページから資料をダウンロードされた方へのアプローチ、もしくはインサイドセールスのように相手のリストだけ渡されてそこに電話するときは、どうしてもハードルを高く感じてしまうものです。
このように難度の高い見込客向けの営業メッセージ作りですが、体系的に習ったという話はあまり聞いたことがありません。先輩に同行するなどして「そうやって話すのか」とトークの流れや口調を耳で習ったり、下手な鉄砲数打ちゃ当たるを繰り返し、自分なりのコツを掴んだりという方がほとんどではないでしょうか。
そこで今回は対面や電話、メールなどでの見込客向けの営業メッセージの組み立て方について、海外でベストセラーになっている営業本を参考にして学んでいきます。見込客向けの電話やメールに苦手意識をお持ちの方だけでなく、若手メンバーに体系的/構造的に指導したいマネージャーの方にも必見の内容です。それでは一緒に見ていきましょう。
アメリカの有名営業コンサルタントから学ぶ営業メッセージの組み立て方
今回ご紹介するのは、アメリカでは著名な営業コンサルタントであるジェブ・ブラント氏の最大のヒット作「Fanatical Prospecting」。日本語に訳すなら「商談発掘に熱狂しよう」でしょうか。
ブラント氏はセールスグレイビー社という営業研修会社のCEOで、様々なカンファレンスでも講演している有名人。営業の著作が15作もあるのに日本ではただの1作も邦訳されておらず、ほとんど知られていません。その中でも「Fanatical Prospecting」は特に見込客からの商談発掘(Prospecting)に特化した本で、定期的・習慣的に商談発掘活動をすることの大事さを説くことから始まり、電話のかけ方やメールの送り方、SNSやSFAの活用の仕方まで具体的に解説している、いわばB2B営業の教科書のような本です。
見込客向けメールの4ステップ
この本の中では見込客向けのメッセージの組み立て方を、場面別に具体的に解説しています。まずは、一番の基本形である「見込客向けのメール」バージョンから見ていきましょう。
1. 関心を引く(Hook):魅力的な件名と冒頭の文章で相手の注意を引きます。
2. つながりを作る(Relate):相手の問題を理解していることを伝え、信頼できる存在であることを示します。
3. 橋渡しをする(Bridge): 相手の問題に対して、あなたがどのように手助けできるかを結びつけます。顧客にとってのWIIFM(What’ in it for me=私になんの意味/メリットがあるのか)を説明しましょう。
4. 依頼する(Ask):相手に取ってほしい行動を明確かつストレートに伝え、相手がそうしやすいようにしましょう。
ステップ1. 関心を引く
相手にメールを開いてもらい、さらに読み進めてもらうために、最初の「関心を引く」が重要です。ブラント氏は関心を引く件名のポイントとして、短く簡潔で、スパムメールだと思われないような文体で、かつ相手の役職や業務に合わせることを勧めています。著書の中で示されている、銀行のCOO(業務最高責任者)宛のメールの文面の冒頭部分はこちら。
件名:COO – 銀行の中で最も難しい役職
ローレンス様
アーネスト&ヤング社が最近発表したレポートによると、銀行のすべての経営職の中でCOOが最も難しい役職だそうです。
ステップ2. つながりを作る
関心を引いた後は、相手のことを理解していることを示し、自分との間につながりを感じてもらうようなメッセージを続けます。先ほどのメールの続きはこちら。
私が一緒にお仕事をしているCOOの方々は、銀行業界を取り巻く環境の変化によって、ご自身の業務がより難しくなり、よりストレスがかかるものになっているとおっしゃっています。
ステップ3. 橋渡しをする
そして、相手の課題に対してどのような手助けができるかというメッセージへとつなげていきます。続きはこちら。
私どものチームではローレンス様のような銀行のCOOの方向けに、業務の複雑さとストレスを軽減して事業の成長力と収益性の最大化につながるよう、信用リスクの軽減、資産管理の効率化、そして規制対応コストの最小化をご支援しております。
ステップ4. 依頼する
ここまでしっかり相手の課題に寄り添い、どんな手助けができそうかを伝えた上で、メールの本題である「依頼」につなげます。メール例では電話会議のアポイントを依頼しています。
ただ、今の時点で貴行にとって私どもが本当に最適なパートナーなのかが明らかではありません。そこで、貴行ならではの課題について教えていただく、電話会議の場を設定できますでしょうか。この場でお話しする内容をもとに、より具体的な議論に進めるかどうかを一緒に判断できればと思います。
つきましては、来週木曜日の午後3時ちょうどではいかがでしょうか。
と言うのがメールの文例です。アメリカ式のメールのため、日本のような本文冒頭の「初めてご連絡差し上げます。○○株式会社の□□と申します。」や、本文末尾の「どうぞよろしくお願いいたします。」といった文章がなく、多少ぞんざいだと思われるかもしれませんが、向こうではかなり丁寧な文体の部類に入ります。
この4ステップを意識して私たちに毎日届く営業メールを見ると、最近流行りのビジネス用語や汎用的な課題を使って「1. 関心を引く」ことは一応できていても、「2. つながりを作る」「3. 橋渡しをする」がないものが多いようです。特にこれらのステップでは、相手を具体化しその相手を主語にして現実感のある課題を提示することがポイントなのですが、メールの書き手が主語のまま「こんな実績があります」「こんな課題解決ができます」となっているので、売り込まれているように感じてしまうのです。
そうではなく、ちゃんと「関心を引いて」から相手を主語にして具体的な業務や課題に触れて「つながりを作る」。自分たちを主語にしてどのような手助けができるかを示すのはその後でよい、ということがよく理解できる例だと思います。
見込客向け電話の5ステップ
先ほどのメールの4ステップを応用したのが、次に紹介する見込客向けの電話。ここでは特に1~2番目のステップがメールとは大きく異なります。ブラント氏の本業である営業研修のセールスグレイビー社としてのトーク例が示されています。
1. 相手の名前を使って関心を引く: 「ジュリー様、はじめまして」
2. 自分の名前を名乗る: 「私はセールスグレイビー社のジェブ・ブラウントと申します」
3. 自分が電話している理由を伝える: 「本日お電話を差し上げた理由は、一度お打合せのアポイントをいただきたいからです」
4. 橋渡しをして相手が自分に会う理由を伝える: 「御社は今後1年間で200名の営業職を増やそうとされている、という記事をネットで読みました。御社の業界ではすでに数社が当社を使って営業職の候補者を採用しており、その結果に大変満足されています」
5. 依頼したら黙る: 「まずは、御社の営業採用の課題や目標についてお伺いするため、短時間で結構ですのでミーティングの場を調整できればと考えております。水曜日の午後3時頃ではいかがでしょうか?」
5つのステップもトークもとてもシンプルですね。こざかしさがなくて率直な内容ですので、このような電話だったらアポイントにつながらないとしても相手にとっての印象は悪くなさそうです。
このトーク例と普段私たちのオフィスにかかってくる電話の最大の違いは、事前の情報収集をどこまでやっているかに尽きるでしょう。
欧米ではLinkedInのデータをもとに架電先のデータを組み立てるのが当たり前。このため、日本であるような「○○のご担当者様はいらっしゃいますか?」を挟まずに、秘書がついている役員層以外ならダイレクトに相手と会話をしやすくなっています。また、その企業や架電対象者のニュースリリースやSNSでの最新情報を集める機能を使うことで、4番目のステップ「橋渡しをして相手が自分に会う理由を伝える」においても、その相手ならではの会う理由を組み立てることができます。
日本では欧米ほどにLinkedInなどが普及/活用されていませんので、どうしても個別に相手企業のニュースリリースやSNSでの発信を追いかける必要があります。本当に大事でこの手間をかける価値がある相手であれば、しっかりと事前準備をして、「その相手ならではの会う理由」を見つける。とても大事なポイントだと思います。
シンプルだけど使いやすい営業メッセージの組み立て方
ここまでメールと電話という2つの代表的な場面で、営業メッセージの組み立て方を見てきましたがいかがでしょうか。両方に共通しているのが、相手の関心を引いたうえで、自分が相手に連絡している理由を最初にきちんと伝え、相手が自分と会う理由(メリット)を伝えた上で、はっきりとアポイントの依頼をするというもの。シンプルではありますが、とても使いやすく、若手メンバー向けに営業トークやメール文面の基本として指導しやすい構成だと思います。
営業活動を見よう見まねの伝承から体系的で効率的な育成へと転換しよう
営業メッセージに限らず、営業活動の多くはなかなか体系的に整理されておらず、まるでひと昔前の伝統工芸の師匠と弟子のように見よう見まねで伝承されているものが多いように思います。しかも、企業の中で営業に携わっているだけだと、他の営業から「売り込まれる」という経験もあまりなく、狭い視野の中で試行錯誤を繰り返すことになりがちです。
しかもこのような決して効率的ではないと思われる環境下においても、続けていればそれなりの結果が出たりするので、「そんなものだ」と、まさに「下手な鉄砲数打ちゃ当たる」状態になっていることが少なくありません。
しかし、今回このブログのためにブラント氏の「Fanatical Prospecting」を読み返し、営業の生産性向上のためには、この「そんなものだ」にメスを入れ、営業活動のいろいろなことを体系化し、「自分で工夫しろ」「先輩から学べ」でなく、組織として効率的に育成が行われる環境へと転換していくことの重要性を感じました。
参考:「Fanatical Prospecting」(Jeb Blount, John Wiley & Sons, Inc., 2015)