トライツコンサルティング株式会社

人材育成に「使える」スキルマップのつくり方・使い方

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いよいよこの3月期から有価証券報告書の提出義務がある企業4,000社を対象に、人的資本の開示が義務化されるようになります。開示対象となる項目案として、男女間の賃金格差や育児休業の取得率などが話題に上がることが多いですが、資本価値の向上に直結する人材育成ももちろん大事な項目です。

これに合わせて、最近では従業員のスキルレベルを評価するためのスキルマップ作りが話題になっています。スキルマップに関する新しい書籍が続々と出版されていますし、昨年の秋以降は日本経済新聞でも、各業界でのスキルマップ策定の記事が掲載されています。

そこで今回のブログでは、トライツのこれまでの経験をもとに一歩先を行くスキルマップ作りと運用の仕方をご紹介したいと思います。今まさにスキルマップ作りに取り組んでいる方にも、いったんは出来上がってこれから運用フェーズに入るという方にも参考にしていただける内容ですので、ぜひお読みください。

そもそもスキルマップとは?

そもそもスキルマップがどういうものなのか、簡単におさらいしましょう。

スキルマップとは、業務で必要な各スキルに対して従業員が現在どの程度の能力を持っているかを一覧にしたものです。例えば、営業1課の一山さんという営業担当者のスキルを評価したものが下図左。営業1課全員分をまとめたのが下図右です。

このように各個人や組織が現在どのスキルレベルにあるか、という現在地を測るのが一般的なスキルマップです。似たようなものをお持ちの営業組織も多いのではないでしょうか。

「あるけど使えない」スキルマップが増えている

ところが、最近では「スキルマップは作ったものの、うまく使えない」という相談を受けることが増えてきました。
「取り扱う商品や営業スタイルが事業で異なるのに、営業全体が十把ひとからげに定義されていてフィットしていない」
「スキルレベル(横軸のE~A)の定義が抽象的で、何をしたらスキルアップできるのかわからない」
「測定してみると不足しているスキルの数が多くて、どれから手を付けたらいいかわからない」
といったものです。

このような悩みをお持ちの方に、「では今はどうしているんですか?」とお聞きすると、「とりあえず人事から求められるので現状の評価だけはやっている」との答えが返ってきます。

人事として現状のスキルがどうなっているかという調査としては機能しているようですが、現場へのフィードバックもなく、やる側は負担が増えるだけでメリットや効果を何も感じないという話もよく聞きます。

このようになっている原因は、往々にして人事や有価証券報告書にのせるIRのためのしくみとして全社的に設計したものを無理やり各現場で使おうとしている、ということにあるようです。会社としての汎用性や共通性、しくみとしての整合性を優先した結果、個々の部門でのフィット感がなくなってしまっていたり、「人材育成」という視点からその運用をきちんと設計されていないことにも問題があると感じています。

使えるスキルマップへの進化ポイント①「育成という視点で運用を設計する」

そのような状態から使えるスキルマップにするための第一の進化ポイントは、「人を育てる」という視点から運用を見直すというものです。

多くの会社ではスキルマップの評価をそれぞれが行った後、育成面談を実施していると思います。ただ、それは担当者とマネージャの間で閉じていて、全社で分析した結果から「今期の重点強化スキルはこれだ」「重点強化スキルの育成施策はこうする」などというフィードバックがないことが多いのではないでしょうか。

これでは模擬テストを受験した後、先生と答え合わせをしただけと同じです。自分が他の学生と比べてどうなのか、弱点はどこか、志望校の合格可能性は・・・などとフィードバックがなければ次に活かせません。

スキルマップは、「こういうスキルを身につけてほしい」という思いを具現化し、現状を測ることができるものですが、そのデータを集約・分析することで、人事部門だけでなく、現場のマネージャや営業担当者にも大きな気づきにつながるものです。スキルマップを核にして、そのデータを活かして現場のスキルが強化され、成果につながっていることが見えるまでの「運用」がしっかり考えられていることが大切なのです。

使えるスキルマップへの進化ポイント②「営業スタイルに合わせて具体化する」

また、このような運用をしていこうとすると、次に問題となりがちなのが、組織全体で運用することを前提としていて、実際の営業スタイルに合っていない、ということです。その際は「事業ごとの営業スタイルに合わせて、スキルレベル/項目を具体化する」という方向で進化させましょう。

例えば「関係構築スキル」であれば、ただ「顧客と良好な関係を構築できる」とするのではなく、「こちらから連絡すれば会える」とか「継続的に相談される関係を作れる」などのように目指す状態を具体的に示す。また、「顧客」も「担当者レベル」でいいのか「意思決定者レベル」を必須とするのかなど、目指したい姿をイメージしながら一つ一つの要素を定義していくのです。

また、部署の営業スタイルに応じてスキル項目自体の見直しも必要でしょう。例えば小売店を対象にした営業組織であっても、地場チェーンや地域の個人商店を対象とするチームと全国チェーンを対象とするチームの場合は、求められるスキルが異なるはずです。地場のお店を多く抱える場合は、計画的に店をラウンド訪問するための活動計画スキルが必要になるでしょうし、全国チェーンを対象とする場合、顧客組織に入り込んで関係を作るスキルや大量の商品の流通・在庫状況を管理するスキルが必要になると思います。

このように各スキル項目とそのレベル定義が具体的になっていれば、それぞれの事業にフィットしたスキルマップになりますし、何がどこまでできたら次のレベルに進めるのかもイメージしやすくなります。この進化ポイントをクリアすることが、現場で使えるスキルマップとするためには不可欠なのです。

使えるスキルマップへの進化ポイント③「データ分析で効果的な育成施策を導き出す」

自分たちの現在地を正確に把握することができたら、次はそのデータから「これから何をするか」を導き出すことです。

スキルごとに評価結果をポイント化し、その平均値を出せばおおまかな傾向をつかむことができるでしょう。それで平均値の低いスキルを強化するというやり方が最もシンプルでわかりやすいのですが、実はスキルには「伸びる」「伸びない」に相関関係があり、それを意識した上での施策が効果的であるとご存じでしょうか。

スキルマップを使った評価結果の変化を分析し、連動して伸びるスキル同士を線で結ぶことで、以下のようなスキルの関係性を示したスキルモデルを作成することができます。データ分析の用語で言うと、変化率の偏相関係数が高いスキルの組み合わせを抽出するということです。

このようなスキルモデルがあれば、スキル全体の関係性を視覚的にとらえることができます。このサンプルであれば、情報収集スキルを高めるためにはそれぞれの商品についてどのような情報が必要かを知っていなければなりませんし、企画提案スキルを高めるには社内の各部署との上手な連携の仕方を知っている必要があります。また、顧客との関係構築のためにはCRMやMAツール、Web会議システムなどのデジタルツールを活用するスキルが不可欠です。

このように、どのスキルを組み合わせるのが有効かがわかるのが、第三の進化によるメリットの1つです。

データ分析で育成施策のヒントがいろいろ得られる

このほかにも、スキルマップのデータを分析することでできることはいろいろあります。
例えば、業績との相関が高いスキルを優先的に研修のテーマにするとか、マネージャーとメンバーのスキルの相関を計算するのも有効です。相関が高いスキルはマネージャーからメンバーにスキル移転が起こっているので、OJTで育成するのが向いているスキルだと思われます。そのため、相関が高いスキルはマネージャー向けに研修を行い、相関が低いスキルはOJTが機能しないと考えられるのでメンバー向けの研修を実施する、ということが考えられます。

このようにスキルマップのデータを定期的に計測してその変化や、業績などとの相関を計算することで、どのスキルをどの順番で、どういう組み合わせでスキルアップしたらよいか、つまり「どこからどうやって手を付けたらよいか」がわかるようになるのです。

人的資本経営が重視されている今こそ「使えるスキルマップ」を手に入れよう

これまでは会計上コストとして処理されてきた従業員という存在が、それぞれが持つスキルを含めて人的資本(資産)として認識されつつあるというのは、大きな意味のある変化だと思います。資本/資産だととらえることで、価値を高めるために継続的な投資をするのが当然のことになりますし、せっかく身に着けたスキルを活用させて資産効率を良くしようという意図も働くようになるはずです。

このような流れでスキルマップの策定に取り組む組織が増えているのは喜ばしいのですが、単純にIRや人事の観点で汎用的かつ抽象的なものをつくるだけではもったいないです。スキルマップに今回ご紹介した3つの進化を加えることで、「自分が今どこにいるかが正確にわかり」「スキルアップするために何が必要かが具体的になっていて」「どのような育成施策を打てばよいかがデータから明らかになっている」という、個々人として/組織として「使えるスキルマップ」に変えられるのです。

「現場で使えるスキルマップを作りたいが、作り方がわからない」
「スキルマップを作っては見たものの、うまく使えていない」
「定期的に測定してはいるが、データをどう分析したらよいかがわからない」
このようなことにお悩みでしたら、ぜひ一度トライツに相談してみてください。「使えるスキルマップ」への進化のさせ方を一緒に考えていきましょう。

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