トライツコンサルティング株式会社

「営業マニュアル」のあり方から営業マネージャの未来を考える

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2022年9月下旬に米国アトランタで開催されたB2B営業専門のカンファレンス「OUTBOUND 2022」。今回はその体験レポートの第三弾として、「営業リーダーのメッセージツールとしての営業マニュアル作成&活用法」をご紹介します。

「いつかは作らなきゃと思っているけど、なかなか時間が取れない」「一度作ったものの、いつの間にか使わなくなっている」など、作成・運用で挫折することが多い営業マニュアル。なぜ、営業リーダーのメッセージツールとして営業マニュアルが重要なのか。そして、リーダーはマニュアルの作成・活用にどのように関わらなければならないのか。一緒に学んでいきましょう。

なぜ営業リーダーのメッセージツールとして営業マニュアルが重要なのか

実は、今回ご紹介する講演のタイトルには「マニュアル」や「プレイブック」「ガイドブック」という言葉は含まれていません。タイトルは「What Leaders Do to Create Great Sales Messaging」(優れた営業メッセージを伝えるためにリーダーは何をすべきか)というもので、講演者であるジム・カール氏が代表を務めるコンサルティング会社のキャッチコピーは「Manage the Message」(あなたのメッセージをマネジメントしよう)というもの。

そのため、すっかり営業リーダーのコミュニケーション術についての講演だと思って聞き始めたのですが、途中から営業マニュアルの話になっていったのです。手短に講演の流れをまとめると、以下の①~⑤のようなものでした。

①営業リーダーの大事な仕事は、メンバーに伝えるメッセージのオーケストレーション(調和を保つこと)

②そのためには、チームメンバーがどのように活動すべきかを知り、その具体例を示し、各メンバーにそれを見せられなければならない

③この際に、営業リーダーは「Single Source of Sales Truth」(自分たちの営業活動についての唯一絶対の答え)を持っている必要があり、それが営業マニュアルなのだ

④営業リーダーはこれを使って新任者向け研修やコーチングを行うだけでなく

⑤メンバーの進歩と成功を視覚化し、つねにアップデートし続けなければならない

だから、「営業リーダーは自ら営業マニュアルを作り、更新してメンバーの育成やコーチングに役立てなければならない」というのがカール氏の結論です。「営業マニュアルこそが営業リーダーの大事なメッセージツールだ」と言われると突飛な印象を受けてしまいますが、このように順序立てて説明されると確かに納得できる内容だと思います。

営業マニュアルに求められる要素①「Single Source of Sales Truth」

そしてこのカール氏の主張から、営業マニュアルそのものと、それとの営業リーダーの関わり方に必要な要素がそれぞれ見えてきます。

まず、営業マニュアルに求められる要素の1つが、「常に現時点でその組織にとっての、Single Source of Sales Truth(営業活動の唯一絶対の答え)になっていなければならない」ということです。

これまでに色々な組織の営業マニュアルを拝見してきましたが、部分的/断片的になっている組織がたくさんあります。SFAの使い方だけで一冊の分厚い説明書があったり、提案書の作成法となるとやる気のある歴代の営業マネージャーの数だけ存在していたり、それなのに既存顧客のフォローの仕方やトップ攻略の方法などは言語化されておらず口頭で伝承されていたり、といったことも珍しくはありません。

そうではなく、営業活動全体を通した完全版として1つにまとめ上げ、「この事業での営業の進め方のすべてはこの中にある」と言える状態になっていなければならない、というのがカール氏の主張。確かに営業マニュアルがこのようになっていれば、新任者向けの研修や、全メンバーを対象としたコーチングで活躍することは間違いないでしょう。

営業マニュアルに求められる要素②「リーダーの思いや魂が込められていること」

そして、営業マニュアルに求められるもう2つ目の要素は、「メッセージツールたるべく、リーダーの思いや魂が込められていなければならない」というもの。血の通っていない単なる作業手順書ではなく、「これこそが成功するために絶対必要なやり方なんだ」とリーダー自身が心から思えるものになっていて、リーダー自身の言葉で書かれていなければならないということです。

実は、この講演の中で一番私に刺さったのがこの部分。私は営業人材育成の一環としてマニュアル作成を支援するプロジェクトに複数取り組んでいますが、営業リーダーの思いや魂を十分に込められていると断言できるか、そこを探って言語化する作業が不十分だったのではないか、と反省させられました。

営業マニュアルを作成する際に、その業務について自分が理解している(と思っている)ほど、営業リーダーの思いや魂を言語化するのをおろそかにしてしまいがちなもの。改めて注意しなければならないと強く感じました。

営業マニュアルに求められる要素③「成功事例を取り入れて、常に最新化する」

営業マニュアルに求められる3つ目の要素は、「成功事例を取り入れて、常に最新のものにし続けなければならない」こと。

カール氏が強調していたのが、「成功体験をチーム内で共有することで、営業マニュアル活用とさらなる成功事例の創出に弾みがつく」ということ。講演の中で「Social Proof Builds Momentum」(社会的な証明が弾みを生む)というキーフレーズを繰り返していました。メンバーの立場でも、成功事例という社会的な証明を確認できることで、安心してマニュアルに沿って活動を進められることでしょう。

営業リーダーが自ら作り・使い・更新する

そして、これらの3つの要素を満たすために、営業リーダーに求められるのが「思いを込めて自ら作り、使い、更新すること」。メンバーだけに作らせるのではなく、リーダー自身が営業マニュアルの作成・更新に深く関与(コミット)しなければなりません。

とは言え、すべてを営業リーダーが自らゼロから作るというのは現実的ではないかもしれません。ただ、キーとなるメッセージを磨き上げたり、自社の営業のあるべき姿を描くなど、思いや魂を込める作業はリーダー自身が腰を据えて取り組む必要があるのです。

4つの要素で自分たちの営業マニュアルについてチェックしてみよう

単なるコミュニケーション術についての講演だと思って気軽に聞き始めたら、まさか自分がプロジェクトで作成することの多い営業マニュアルについての話になり、そして「リーダーの思いや魂が込められているか」という厳しい問いが飛んできたこの講演。私にはとても印象的だったのですが、皆さんにとってはどうでしたでしょうか。

この講演の中で出てきた、4つの要素
・今の自組織にとってのSingle Source of Sales Truth(営業活動の唯一絶対の答え)になっているか
・営業リーダーの思いや魂が込められているか
・成功事例を取り入れて、最新のものであり続けているか
・営業リーダー自らが思いを込めて作り、使い、更新しているか
を皆さんの営業マニュアルに対して、そしてマニュアルへの営業リーダーの関わり方に対して、チェックしてみることをお勧めします。皆さんの組織の営業研修や日々のコーチングをより良いものにするための、大事な要素に気づくことができるはずです。

どうしたら営業マネージャが自分のやりたいことをできるようになるのか

とは言うものの、「数字を取りまとめて、勤怠管理もして、コーチングもやって忙しいのに、今度は営業マニュアルまで作らなくちゃいけないの?!」とお思いの営業マネージャの方もきっと多いことでしょう。しかも多くの営業マネージャは自分でも担当顧客/商談を持っていたりするため、営業マニュアルの作成/更新といった純然たるマネジメント業務に十分な力を割くのが難しいのが実状だと思います。リーマンショック以降のコストカットの流れから、日本の営業マネージャの「何でも屋化」は進む一方です。

一方で、デジタル化による事務的な作業が自動化/効率化されたり、マネジメント業務も含めたジョブ化として業務内容の定義/見える化が進んだりと、営業を取り巻く業務内容が大きく変化しつつあります。リンダ・グラットン氏の近著『リデザイン・ワーク』でも、「リーダー・オブ・ピープル」「リーダー・オブ・ワーク」という表現で、マネジメント業務を対人と対業務に分ける方法が紹介されていますので、もしかしたら営業マネージャの業務も対人と対業務で別の人が担うようになるのかもしれません。

今回、カール氏の講演を聞き、改めて日本の営業現場の業務内容や働き方を振り返って思うのは、新しい道具や考え方はどんどん出てきているのに、それを活用することなく、目の前の業務をこなすのに手一杯で、自分で考えたやりたいことになかなか手を割けないという日本のマネージャの現状を打破するために本当に必要なことは何か?ということでした。

そして、講演で語られていた営業リーダーというのは日本でいうと課長クラスで、カンファレンスの参加者の多くもその層でした。その人たちが参加費(いろいろ種類はありますが、メインは日本円で約9万円)を支払って学びに来ているのですが、日本でこのようなカンファレンスを成功させるために必要なのは、営業マネージャの時間?お金?あるいは意識?そんな本質的なことを考えさせられる内容でもありました。

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