トライツコンサルティング株式会社

これからのカスタマーサクセスは「データドリブン」「高頻度」「自動化」

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B2B営業ではいつの間にか、「CS」が「顧客満足」や「カスタマーサービス」よりも、「カスタマーサクセス」として使われることが増えてきました。カスタマーサクセスを部署名に冠する企業も多くなっているようです。自社のソリューションを通じて顧客が課題を解決したり生産性や収益性を向上するのを支援するカスタマーサクセスは、B2B営業において一般的な考え方になりつつあります。 

今回のトライツブログでは、そのカスタマーサクセス分野で生まれつつある新しいアイデアについてご紹介します。カスタマーサクセスに取り組んでいる方、既存顧客の維持に悩まれている方はぜひお読みください 

この半年で様変わりした海外の営業・マーケティング関連の記事のトーン 

この半年で海外(欧米)の営業・マーケティング関連の雑誌やレポートのトーンが大きく変化しています。半年前はコロナから経済活動が戻って空前の好景気でしたので、積極的に打って出ようという前向きで勇ましい記事が多くありました。しかし、中国のロックダウンやロシアのウクライナ侵攻による資源・物流価格の高騰、そして連続利上げによる景気後退の懸念も相まって、「不況期を乗り切るには」「既存顧客と売上を守るための方法」といった記事が増えてきています。 

そのような傾向の中で異彩を放っている記事が、今回ご紹介する5 Ways to Minimize Customer Churn During Challenging Times(厳しい時代に顧客離れを最小化する5つの方法)。タイトルだけ読むと、既存顧客を維持する守りの姿勢の記事のように見えますが、ちゃっかりとカスタマーサクセスの新しいアイデアを忍ばせています。 

顧客離れを最小化する5つの方法とは 

まずはこの記事の骨格である、「顧客離れを最小化する5つの方法」の見出しから見ていきましょう。 

1. 顧客の目的・課題・KPIを理解する 
2. マルチスレッドで顧客の購買関係者との関係を構築する 
3. ROIデータを提供し、自社ソリューションの価値・有効性を実証する 
4. データドリブンなレポートを定期的に発行する 
5. データ処理の手作業を自動化する 

2番目の「マルチスレッド」という言葉がわかりにくいですが、例えば担当同士、マネージャー同士、役員同士というように複数の階層でつながったり、営業部だけでなく技術部やサポート部も接点を持つなど、自社と顧客の間で複合的に接点を設けることを意味しています。少し前にはダイヤモンド営業という言い方もされていましたね。 

5つの見出しのうち、1番から3番までは特に目新しい内容ではないと思います。顧客と接点を増やして、顧客の成功を測る指標を把握し、その指標を用いて自社ソリューションの価値を算出・提供する。一般的なカスタマーサクセスの内容です。 

しかし、この記事が面白いのは4番と5番。自社ソリューションの価値を伝えるレポートを定期的・自動的に顧客に提供するしくみを整えよう、というのです。それぞれがどのようなものなのか、記事の抜粋を見てみましょう。 

自社ソリューションの価値を伝えるレポートをすべての顧客に高頻度で提供する 

4. データドリブンなレポートを定期的に発行する 
顧客へのデータ提供の方法を、不定期の打合せに限定する必要はありません。毎月の定期レポートや、Eメールの本文に挿入することも可能です。定量的なデータに基づいたレポートを定期的に送ることでさらなる改善のための次の打ち手につながるのです  

5. データ処理の手作業を自動化する 
残念なことに、CSチームは人手が不足しているのにその仕事はどんどん増えています。(中略)しかし、テクノロジーを使うことでこれまで何時間もかかっていた作業を自動化でき、より戦略的な業務に集中できるようになります。通常、データドリブンなレポートは、説得力のあるストーリーを作るのに多大な労力が必要となるので、大口顧客限定で作られます。しかし、テクノロジーによってデータベースからのデータ抽出やデータのビジュアル化といった手作業が自動化できるので、すべての既存顧客を対象にできるのです  

確かに、自社のソリューションの価値を伝えるレポート作りには手間がかかりますし、データの見せ方や考察のまとめ方などにセンスや工夫が必要とされますので、誰もがササッと簡単に作れるものではありません。それを自動化することで特定の大口顧客だけでなく、すべての顧客に効率的かつ高頻度で提供できるようにする。そして、それによって顧客が離脱するきっかけや理由を潰してしまおう、というのがこの記事の主張です。 

今後の成長が見込まれるカスタマーサクセスレポートの自動生成ツール 

ここまで読むと、「確かにそんなことができればいいけど、どうやるの?そんな便利なツールがあるの?」と思うでしょうが、そのツールを提供しているのが、この記事を寄稿した二コラ・ミジック氏がCEOを務めるマティック(Matik)社です。 

概要はYouTubeにあるマティック社のサービス紹介動画を見ていただきたいのですが、ざっくり言うとCRM/SFAなどに入力された顧客データとレポートのフォーマットを準備してそれらを関連付けることで、顧客ごとに中身がカスタマイズされたレポートを自動で作り出すコンテンツ生成ツールそれをカスタマーサクセスの定期レポートという用途で使えるようにしているものです。 

TableauなどのBIツールが普及し、データをもとに意思決定する場面が増えてきている現在において、顧客の担当者が自社のソリューションを使い続けるために、実際に生産性や収益性が改善していることを顧客社内に示すレポートの存在は不可欠です。そのため、5つの方法の4番目と5番目を実現するマティック社のようなツールは、まだ2022年現在は名称もついていないできたてホヤホヤの状態ですが、B2B営業で飛躍的に伸びる可能性を秘めている今後要注目のツールです。 

営業担当者/マネージャーはレポートを読み解くスキルを高めよう 

とはいえ、このツールはまだアメリカでもまだ火が着く前の状態ですから、日本に導入されるのはもう少し先のことでしょう。しかし、「カスタマーサクセスを示すデータドリブンなレポートの定期配信とその自動化/効率化」というアイデアは、顧客維持に役立つ普遍的な内容ですので、カスタマーサクセスを進化させるヒントとして参考にしていただきたいと思います 

そして、このようなツールが日本に導入される前に私たちがやっておくべきことがもう1つあります。それは、営業担当者およびマネージャーがそのレポートを読み解くスキルを高めること。「数学が苦手だから文系」「文系だから営業職」という方もいらっしゃるとは思いますが、顧客もデータを使って意思決定をするのが当たり前の現在では、データを読み解いてそこから意義のある考察を抽出・提示するスキルが欠かせません。 

このデータを読み解くスキルの向上のために、行政では学習指導要領を見直すなどして、統計リテラシーの底上げを図っています。高校では「統計的な推測」が必須化し「仮説検定」が30年ぶりに指導内容に復活しました。また、箱ひげ図や四分位数などの基礎的な内容は中学2年で学ぶようになるなど、2022年からの新課程で学ぶ世代から徐々にデータを読み解くスキルが高くなってくる、少なくともデータ分析に対するアレルギーや苦手意識を持つ人の割合が少なくなるものと期待できます。 

しかし、そのような統計ネイティブな世代が社会に出てくるのは早くても7年後、2022年に中学2年の世代が大学を卒業するとなると9~10年後とかなり先の話。それまでの間は個人として、また企業の育成施策として、データを分析しその結果を読み取るスキルを高めるための自己学習や教育研修に取り組まざるを得ないのです。実際にデータ分析がリスキリングの科目の中で人気ナンバーワンになっていますし、製薬やメーカー、通信、金融などの各業界の大手企業でDX人材育成のために統計についてのスキルアップに取り組んでいる様子が新聞や雑誌で頻繁に取り上げられてもいます。これからはそのような育成への「取り組みの差」がデジタル時代の「企業力の差」になってくると思います。 

レポートをもとにしてカスタマーサクセスがどこまで進んでいるかを評価し、さらに進化させるためにどんな打ち手が必要なのかを考えるこのような、データ分析能力向上のための施策は、データドリブン化が進んでいてかつ統計ネイティブな世代が社会にまだ出てきていない今だからこそ必須の施策なのです 

参考:「5 Ways to Minimize Customer Churn During Challenging Times」(Nikola Mijic, Sales & Marketing Management, August 4, 2022

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