トライツコンサルティング株式会社

「顧客とのリレーションシップ」をアップデートしよう!

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古くなった建物に手を加え、単にもとの状態に戻すだけでなく新しい機能や価値を付け加えることを「リノベーション」と呼びます。このリノベーションは建物のような形あるものだけでなく、学説やコンセプトといった物質的な形を持たないものにも施すことがあります。

例えば経済学では当初、「見えざる手」と呼ばれる市場の力に任せれば自ずと最適な状態に落ち着くという古典派が主流でした。が、市場だけに任せると経済が安定しなくなる実例が出てきたため、政府が積極的に経済政策で介入すべきだというケインズ派が台頭しました。しかしその後に、古典派をリノベーションした新古典派が登場します。これは、最低限の介入や修正を施せば市場は依然として効率的なものだというもので、現在も新古典派総合などと進化を続けています。これなどは、学説/コンセプトをリノベーションした例だと言えるでしょう。

営業においても、以前は主流派だったものの、今となっては古くなって注目されることがなくなったコンセプトというものがいろいろあります。今回のトライツブログでは、その1つである「リレーションシップ営業」を現代風にリノベーションしようという記事をご紹介します。リレーションシップ営業を得意とされていた方も、初めて知ったという方も、現在のB2B営業に役立つ内容になっていますので、ぜひお読みください。

以前は主流だったのに最近は見聞きしなくなっている「リレーションシップ営業」

リレーションシップ営業とは、顧客との人間関係を構築し深めることで早期かつ優先的に相談されるようになろう、という考え方。一昔前の海外の営業本では、顧客の誕生日を覚えておいてバースデーカードを送る、顧客がひいきにしている野球チームの試合のチケットをプレゼントする、顧客の結婚記念日に花束を贈る、といったこてこてのリレーションシップ営業の実例が書かれていたものです。日本でも「営業はGNP(義理・人情・プレゼント)」などと言われていたこともあり、顧客の懐に入り込んで親しくなることこそが営業だ、と教えられた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

しかし、最近のB2Bではリレーションシップ営業が昔のものになりつつあります。見込客をEメールや電話でフォローするインサイドセールスや、受注後の顧客の成功と追加受注を目指すカスタマーサクセスといった役割が登場したことで、顧客を複数の営業担当者で分担する営業組織が増えてきています。さらにコロナ禍以降は、顧客との接点の多くがリモート/デジタルになるなど、対面による人間関係をベースとした営業活動がやりづらくなっており、リレーションシップ営業という言葉自体を見聞きすることがずいぶん減ったように思います。

そのように今はすたれつつあるリレーションシップ営業に新しい要素を付け加えて今でも通用するものにリノベーションしよう、という記事が最近発表されました。Sales Education Foundation(SEF:日本語にすると営業教育財団)という団体が毎年発行しているレポートの2022年版に寄稿されている「How to Make “Relationship Selling” Effective with Today’s Empowered Buyers」(『リレーションシップ営業』を今日の顧客にも使えるものに直そう)です。

大学等での営業教育をサポートするSEF

記事の中身に入る前に、このSEFという団体について簡単に補足します。この団体は、営業教育に取り組んでいる世界中の大学等の高等研究機関とそこで活動している研究者で構成されており、企業から研究助成金を集めてコンテストを開催するなどしている学術団体です。ここに所属している大学の多くは北米のものですが、ヨーロッパや南米、インドなどの大学も加盟しており、世界的に営業教育が充実しつつある様子がうかがえます。

ちなみに、日本についてのSEFの評価は、「営業教育が世界で最も遅れている極端な例の1つ」と非常に辛口。大学などで営業に関する研究がより活発になり、この団体に加盟する大学が日本からも出てきてほしいものだと思います。

調査データ①人間関係構築の重要性が低下傾向に

さて、SEFについての解説はこの程度にして、本題のリレーションシップ営業についての記事を読むことにしましょう。まずは、従来のリレーションシップ営業、顧客との人間関係構築の重要性が低下している、というデータからです。

2020年3月に新型コロナウイルスが新聞の一面に載ってパンデミックが始まりました。ロックダウンや外出自粛、Web会議の爆発的な増加や、勤務形態の大変化といったことによって、従来の営業に関する知識やコンセプトの多くがシャッフルされてしまいました。(中略)

2021年にコーン・フェリー社と共同で実施した「顧客嗜好性調査」によると、これまで重要視されていた「人間関係」の価値が下落し、顧客の主要な購入要因Top10の最下位に落ちこみました。

このように、以前は有効だとされていた顧客との人間関係が、あまり有効な武器ではなくなりつつあるようです。

調査データ②現在の顧客が重要視しているのは「顧客課題についての専門性」

記事は続けて、顧客が購買の意思決定をする際に重要視しているリソースに目を向けます。

顧客が購買の意思決定をする際に最も重要視しているのは、既存の取引先企業。その次に頼るのは、「顧客の課題の分野についての専門家」です。
あなたがその専門家だと顧客から見られることで、顧客の事業課題について議論し、あなたが取り扱う解決策を探索し、あなたの顧客にとっての価値を高められるようになる。これこそが、今日のリレーションシップ営業なのです。

この記事では、顧客とのリレーションシップや信頼の源泉が、かつての「個人的に親しくなること」から「顧客課題を熟知していること」に変わったのだ、と主張しています。端的に言うと、営業に有効なリレーションが「顧客個人とのリレーション」から「顧客課題とのリレーション」に変わった、ということです。

新しい「リレーションシップ営業」のために個人/組織がやるべきこと

そのために、営業担当者としてやるべき行為も変化している、と記事では続けています。

特に営業活動の初期段階では、あてもなく売り込んだりSNSに個人的な投稿をしたりする必要がなくなりました。それよりも、顧客の課題に関連する情報を継続的に発信することが重要なのです。(中略)自分たちが何者で、何をすることができて、それがどのように顧客の役に立つかを説明できるメッセージを発信しなければならないのです。

顧客の家族構成や記念日を覚えておいて欠かさずに贈り物をしたり、定期的に顔を合わせて食事会やよもやま話をするよりも、自身の専門性と顧客にとっての価値が伝わるような情報発信に時間を掛けよう、というのがこの記事の結論です。顧客課題についてのインサイト(洞察)をもっていて顧客の悩みに答えられるという、コンサルティング的な機能が求められている現在のB2B営業の時流にもマッチした、新しい「リレーションシップ営業」が提示されているように思います。

ただ、そうなると各営業担当者が何らかの専門家となり、専門性を磨き続けつつ、そのことを定期的に情報発信しなければならない、ということになってきます。そして、これらを実現しようとすると、個人的に研鑽を積んでもらうだけでなく、組織として成長をどうサポートするか、情報発信の場や機会をどう確保するか、といったことを考える必要も出てきます。

この新しいリレーションシップ営業の考え方はシンプルですが、決して簡単に取り組めるものではありません。個人として、組織としてどう実現していくかについては、私たちが試行錯誤し自分で答えを見つけなければいけないということなのだと思います。

新規コンセプトのイノベーションだけでなく、過去のコンセプトのリノベーションに要注目

実はコロナ禍以降、B2B営業の界隈では新しいコンセプトが以前のような勢いでは出てこなくなっています。強制的に導入・加速させられた営業活動のリモート化とデジタル化、それら新しいツールの活用とスキルアップに各営業組織が追いつくのに精いっぱいで、新しいコンセプトのイノベーションを受け入れる余裕がなかった、というのがその原因でしょう。

その代わりに今回ご紹介した記事のような、かつては有効だったものの今ではすたれてしまっているコンセプトに新しい考えを取り入れてリノベーションする、という動きが今後増えてくるのではないかと思います。トライツブログでは、B2B営業・マーケティングの最新コンセプトだけでなく、以前のコンセプトのリノベーションにも注視して随時ご紹介していきます。今後もご期待ください。

参考:「How to Make “Relationship Selling” Effective with Today’s Empowered Buyers」(Barry Trailer, The Sales Education Foundation, The SEF Annual 2022)

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