トライツコンサルティング株式会社

コモディティ化する「課題解決型営業」から抜け出すには

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「リカレント」や「リスキリング」といった言葉が広く使われるなど、社会人の学び直しの必要性・重要性がこれまで以上に高まっています。ちなみに、リカレントとは一度職を離れて新しいスキルを学ぶこと、リスキリングとは仕事に就きながら新しいスキルを学ぶことを意味しているのだそうです。

このような学び直しが必要となる背景は多様です。これまでと同じ業界・職種についているものの、データサイエンスやRPAなどの新しいツールを身につけなければならないという人もいるでしょう。また、自動車業界など基幹技術に大きな変革が起こっている中で、大きく方向転換する必要性に迫られている人も少なくないと思います。

そして、B2B営業に携わる私たちも学び直しの必要性に迫られています。デジタル化する営業ツールを使いこなして、リモートでの営業活動ができるのが当たり前になりつつあります。また、単なる商品・サービスの説明係ではなく、顧客の課題を自社の商品・サービスを使って解決するという高度な役割を求められるようになってきているのです。

今回のトライツブログでは、これからのB2B営業担当者に求められるスキル「ビジネスインサイト」とその学び方について見ていきます。営業としての専門性を高めたいという方、スキルアップにお悩みの方はぜひお読みください。

コモディティ化する課題解決型営業の先を行くためのスキル「ビジネスインサイト」

B2B営業は今まさに、進化の真っただ中にあります。2000年前後から広く浸透してきた営業手法として、「課題解決型営業」「ソリューション営業」というものがあります。多くの企業がこの課題解決型営業に取り組むようになり、これだけでは他社と差別化できなくなるとともに、顧客もより優れた営業担当者や、より自分たちの価値につながる営業体験を求めるようになっています。

そのような中、話題となったのが2012年に刊行された「チャレンジャー・セールス・モデル」(邦訳は2015年に出版)。最も高い業績を達成する営業担当者をチャレンジャーと呼んでその特性を整理しているのですが、その中心に位置するのが「インサイト」、顧客本人すら気づいていないが事業上の大きな価値を生む「洞察」力です。この本をきっかけに、顧客にインサイトを与える「インサイトセールス」が課題解決型営業の進化系の1つだと言われるようになっています。

また、つい最近では「カスタマー・セントリック・セールス」(顧客中心営業)という言葉が広く使われるようになりつつあります。詳細はこのコンセプトを紹介したトライツブログの記事をお読みいただきたいのですが、手短にまとめると、顧客が主体的に購買活動を進めるようになっている現在、営業担当者にはそのコンサルタントとして、顧客内の多様な関係者の声を集めて最適な意思決定の実現と購買後の目的達成のサポートという役割が求められている、というもの。このコンセプトも今後広く展開・浸透してくるものと思われます。

「インサイトセールス」と「顧客中心営業のコンサルティング営業」の両方に共通しているのが、顧客のビジネスに精通して適確な助言を与えられるスキル「ビジネスインサイト」。自社の商品・サービスの仕様や使い方だけでなく、顧客のビジネスについても熟知していて、どの課題に対してどう解決するのかをアドバイスできる。そんなスキルがこれからの営業担当者にとって欠かせないというのです。

とは言え、そんなスキルを身に着けるのは大変そうですし、何から手を付けたらよいのかわからないという方が多いのではないでしょうか。

そのような中、役立つ記事が、最近のLinkedInのビジネスブログとして公開されました。ご紹介するのはインサイトセールス実現のための営業コンサルティング会社、ValueSelling Associates社の代表であるJulie Thomas氏による「How To Sell To C-level Executives」。この中で、ビジネスインサイトを身に着けるための3つの手順を解説しています。早速見ていきましょう。

ビジネスインサイトを身に着ける手順「1. 分析」

1. 分析
会社経営についての十分な知識・経験を持っていないのでしたら、財務・会計の入門コースを受講して以下の項目について学習しましょう。
・貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の読み方
・粗利益、純利益のような各種利益の違い
・負債と純資産の意味合い
・財務諸表を用いた事業の健全性についての分析方法

1つ目の手順は、財務・会計的な理解力を身に着けることです。大学で会計学の授業を受けた人や、新人研修・管理職研修などで勉強したことがある人は多いのではないでしょうか。複雑な財務分析の手法をマスターする必要はありませんが、財務諸表を見て資本回転率やDEレシオなどの基本的な分析ができればまずはOKだと言えそうです。

ビジネスインサイトを身に着ける手順「2. 理解」

2. 理解
(中略)顧客に会う前に理解しておくべき、顧客のビジネスに関する基本的な情報は以下の通りです。
・この業界でどのような変化が起きていますか?
・顧客はどのように収益を得ていますか?
・顧客の顧客は誰ですか?
・顧客は成長段階でいうと、どの段階にありますか?
・顧客の収益性はどうですか?
・顧客の中心的な経営者は誰ですか?

2つ目の手順は、顧客のビジネスの概要理解です。記事の中では会社のウェブサイトにある会社概要や財務報告書、「お知らせ」などを見るようにアドバイスしています。日本の上場企業でしたら、有価証券報告書の「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」「事業等のリスク」などの項目や、決算説明会資料などがこれらのビジネス情報を知るのに便利です。

ビジネスインサイトを身に着ける手順「3. 予測」

3. 予測
顧客組織の中であなたとの会話に関心を持つであろう人物が誰で、あなたの商品・サービスで解決できる顧客のビジネス課題が何かを予測します。

3つ目の手順は、ずいぶんそっけなく書かれています。著者が経営するValueSelling Associates社で「Executive Speak」というトレーニングコースがありますので、具体的なノウハウはそちらを受講してください、ということのようです。

顧客が日常的に用いている言葉でインサイトについて会話する

最後の手順は物足りなく、尻切れトンボな感じが否めませんが、それでも1つ目と2つ目の手順は具体的で、参考になる内容だと思います。記事の最後が「経営幹部に売るためには、経営幹部のように考えなければならない」と締め括られていることからも分かるように、顧客の経営者が日常的に用いている財務・会計についての理解を大前提としているのが大きな特徴となっています。

もちろん、皆さんが所属している業界によって、顧客の経営層が日常的に用いている言葉は違うでしょう。生産現場を大事にしているメーカー企業であれば、生産工学やSCMの言葉を使って自社の課題を話しているでしょうし、新進気鋭のテクノロジー企業であれば、Webマーケティング用語が日常語になっているかもしれません。ビジネスインサイトを提供するために、顧客のビジネスがどのように成り立っているのかを理解することはもちろん必要なのですが、そのインサイトの内容を顧客が使っている言葉で会話できるようになる必要がある。顧客が用いている言語に最初に焦点を当てているのが、この記事の最も素晴らしいところだと私は思います。

自ら習慣的に学ぶ人材になってグローバルな競争に勝ち抜こう

ここまで、これからのB2B営業に求められるスキル「ビジネスインサイト」と、その高め方についてご紹介してきたのですが、一抹の不安があります。それは、このような役に立つ情報を紹介するのは良いのですが、どれだけの人が実際にご自身の自己学習の中に取り入れていただけるのだろう、ということです。

日本で仕事をされているB2B営業の担当者の方とお話することが多いのですが、海外に本社があって日本法人が独立していない純然たる外資系企業の営業担当者を見ていると、本当によく勉強されています。企業指定の研修も多いのですが、それ以外に自費でMBA等の講座を受講していたり、独学で勉強していたりと、自己投資に対して良い意味で貪欲です。

しかし、日本企業に勤めている営業担当者の方のうち、自己学習の習慣をお持ちの方は本当にわずかで、多くの方は終業後の自己投資をほとんどされていないようです。「社会人(有業者)の平均勉強時間は6分」(「社会生活基本調査」総務省、2016)、「勤務先以外での学習や自己啓発活動を全くしていない人の割合は、アジア太平洋地域全体の13%に対して、日本は46%」(「APAC就業実態・成長意識調査」パーソル総合研究所、2019)などという統計データがよく引用されますが、決して誇張ではないと思います。

もちろん、営業成績で給与が決まったり解雇されたりする外資系企業の営業職と、安定雇用が基本になっている日本企業の営業職では環境の違いはあります。しかし、現在私たちはSalesforceやZoomなどの海外企業の商品・サービスを日常的に使うようになっていますし、自動翻訳もどんどん進化しています。

将来さらにこの傾向が加速するとなると、自己投資に貪欲な外資系企業の営業担当者が私たちの競合として登場することになっても何ら不思議ではありません。これまでは訪問できる範囲が営業担当者のテリトリーとして限られていたものが、距離も言語の壁も小さくなってしまうと、グローバル相手に戦うことになるかもしれないのです。

もしそうなったら、ビジネスインサイトに価値を感じる将来の顧客がどちらを選ぶのか、想像するとちょっと恐ろしい気持ちがしてしまいます。

ここ数年、営業DXという言葉が盛んに言われています。皆さんご承知のとおり、デジタルツールを使うことが営業DXではありません。デジタルツールを活用していかにビジネスに変革をもたらすかです。そのようなことができるために、また今回ご紹介した「ビジネスインサイト」というスキルを身に着けて、コモディティ化しつつある課題解決型営業から一歩先に進むために、一番大事なのは自ら習慣的に学んでリスキリングに取り組む人が組織の中にどれだけいるか、そしてその熱気が組織内でどれだけ伝播しているかなのだと思うのです。

参考:
How To Sell To C-level Executives」(Julie Thomas, ValueSelling Associates, Inc., August 11, 2021)

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